「しゅう油・・・この贅沢なもの」.....大豆、麦を溶かす贅沢。 | ハイテク・アニミズム

ハイテク・アニミズム

ハイテク・アニミズム(日本の縄文文化と先端技術の融合)。
---自給自足を基本にした関係(コミュニティ)革命の波動の繋がりを、具体化することです。(一般社団法人)日本里山協会に所属しています。

「しゅう油・・・この贅沢なもの」.....大豆、麦を溶かす贅沢。

   しゅうゆが贅沢なものだというと、殆どの人がけげんな顔をされる。無理もない。しゅう油は昔から日本人が日常の調味料として使ってきたものだし、1.8リットルがあれば、大人一人が2カ月はゆうに用が足りる。今日の豊富な食生活のうちにあって今更贅沢なものだといっても、ピンと来ないのは当然のことだろう。

 しゅう油の原料は、大豆、麦、塩である。これらの原料は、昔は殆ど内地産であった。少し年配の方なら、やせ地や田んぼの畔に必ずといっていいほど大豆が植えられていたことを思い出されるであろう。麦は裏作でかなり沢山てきた。塩といえば、瀬戸内の塩田でとれるニガリの多いものであった。それが今日では.....大豆も麦も塩も全部外国産である。外国産のものが品質がうんと良くて、値段がまたべらぼうに安いからである。わが国では農作物の生産構造がすっかり変わってしまって、とても外国産のものに太刀打ちできない。しかしそれらの原料は、一粒の大豆でも麦でも、一握りの塩でも、すべて遠くアメリカ、カナダ、豪州などから運ばれてくることを思えば、粗末にはできない。

   ところで私が今しゅうゆ油が贅沢なものだというのは、このような原料事情を問題にしているのではない。製品としての、しゅうゆ油自体を問題にしているのである。
   しゅうゆ油の製造は、まず大豆を蒸す。等量の麦を炒ってひき割る。これを混合し、麹種を播いて室ムロに入れ、適当な温度管理をすると三日目には麹になる。この麹を塩水の中に入れる。やがて麹は発酵し、溶けて諸味になり、一年後に搾るとしょう油が出来上がっている。
   麹がなぜ溶けるかというと、それは麹菌や酵母菌のもつ酵素という不思議なものの作用で、原料である大豆や麦が分解されてしまうからである。
   大豆が溶けるということは、大豆の主成分である蛋白質が分解されてアミノ酸になることで、これがしゅうゆ油の味の主体をなすものである。麦が溶けるとどうなるか、麦の主成分である澱粉は分解されてまず糖になる。糖は更に酵母菌によって分解されて炭酸ガスと水になり、僅かな有機酸とアルコールを残す。
   考えて見るがいい。大豆と等量の膨大な麦は、発酵過程において殆どが消耗さたれしまう。勿体ないはなしである。しかしこれほどの大量の麦を犠牲にしなければ、あの微妙な味をもつ芳醇なしょう油は得られないのである。
   およそ食品で、その全使用原料の半分近いものを犠牲にして出来上がっている食品かあるだろうか。しょう油がこの上もない贅沢なものだというのは、そこである。

森山時雄 ∫義父  (ベルリンオリンピック陸上障害選手、文武両道の黄金時代)∫日本海新聞 (昭和60年5月)
http://kioke.com