「なぜ日銀がマイナス金利を導入したのか」 | ハイテク・アニミズム

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「なぜ日銀がマイナス金利を導入したのか」(2016/1/2 増田悦佐ブログ、から抜き書き)

今回論ずる最大の問題は、なぜ日銀がマイナス金利を導入したことが、世界中の株式市場を押し上げる画期的な新政策だという印象が醸成されたのかということであり、その実態はいくらかでも希望が持てそうな政策なのかということだ。まず、最初に確認できるのは、マイナス金利自体が経済を活性化させる「特効薬」となることは、ほとんどありえないという事実だ。

日銀が今後、一般の銀行による日銀への当座預金の積み増しに対して、年率0.1%の保管料を徴収するようになることで、いったい何がどう変わるだろうか。まず、これまで運用先に困っていた資金を日銀に預けておきさえすれば、年率0.1%の利子をもらえていた銀行は、今後同じ手を使おうとしても0.1%の保管料を取られてしまう。たかが年率0.1%のプラスからマイナスへの転換ではないかと侮ってはいけない。日本経済研究センターは、銀行業界全体の収益が最大で2256億円減少するとの試算を発表している。

経常利益が6~7兆円に達する業界でプラス0.1%からマイナス0.1%への転換で差し引き2200億円強の損失なら、プラス0.1%だった時代の貢献額は約1100億円、経常利益の1.5%前後だったから、やっぱり大した問題ではないという考え方もあるだろう。だが、そうした考え方は2重、3重にまちがっている。

まず問題なのは、量的緩和と称する日銀が金融業界から日本国債を買い上げて、その分金融業界への資金供給を拡大するという政策が採用されて以来、金融業界は一貫して年間1000~2000億円規模の不労所得を積み上げつづけてきたということだ。金融業界としては、日銀に買ってもらった金融商品の代金を、融資先や運用先に頭を悩ますこともなく、そのまま日銀に当座預金として預けておくだけで、自動的にこれだけの金額を得てきたからだ。

そして、年間1000~2000億円という金額は、まったくなんの苦労もせずに手に入る補助金としては決して小さな金額ではない。しかも、近年経営破綻などはほとんどなく順調に業績が伸びていた業界にこれだけの補助金を払いつづけてきたというのは、量的緩和がいかに一方的に金融業界にとって有利な仕組みであるかをあらためて示している。

さらに、もっと深刻な問題がある。それは、日銀の当座預金口座の居心地を悪くすれば、ほんとうに銀行は積極的に融資や運用に資金を活用するようになるのかということだ。これまで銀行業界だけでも数百兆円という莫大な金額の当座預金を日銀に積んでおいたのは、融資や運用に対してなんらかの規制があって、運用したくてもできなかったわけではない。もし、ほぼ確実に年率0.1%よりはマシな融資先、運用先があったら、銀行は喜んでそっちに資金を振り向けていただろう。

プラス0.1%よりマシとは思えないが、マイナス0.1%よりはマシだという融資先、運用先がどれだけあるものだろうか。どう考えても、この差し引き0.2%の差が銀行各行に積極的な資金活用を促すという議論には無理がある。(中略)
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そして、現在世界中で自分の投融資にレバレッジをかけるために借り出された米ドルが約9兆ドル(108兆円)存在している。レバレッジをかける際にわざわざ外国通貨を借りる理由はひとつしかない。その通貨が下落することを見こんで、投融資自体の利回りに借りておいたときより安くなった外国通貨を買い戻して額面どおりに返済することで、為替差益も得ようということだ。

2013~14年に日本で外国人投資家たちが円を借りて日本株を買っていたのは、日本政府と日銀による円安と株高を追求する政策によって大成功に終わりそうだ。だが、米ドル安を当てこんで米ドルキャリーで投融資をしていた投資家たちは、一日でも早く米ドルを買い戻して返済しなければどんどん為替差損が拡大するという状況に追いこまれている。昨年の上海大暴落のころから、中国やサウジアラビアによる米国債売却が続いている最大の理由は、この米ドルキャリー投資による損失を最小限に食い止めることだろう。

だが、昨年1年間はユーロ安が進んだが、日本円の対米ドルレートはほとんど変わらなかったからこそ、米ドルキャリーの巻き戻しもあの程度で済んでいたのだ。もし、今回の日銀マイナス金利政策の導入で日本円がもう一段米ドルに対して下がり、その結果米ドル指数がさらに高くなるようなら、9兆ドルの米ドルキャリーの巻き戻しはさらに加速するだろう。

対外債権国である日本と違い、巨額の対外債務を抱えているアメリカで、米ドルキャリーの巻き戻しのために米国債の外国人持ち分が大量に市場に放出されたりしたら、金融業界ばかりか、アメリカ経済全体が立ち往生する。そして、ユーロばかりか円までもが、持って中央銀行に預けておくだけでは金利を稼げない通貨となれば、円から米ドルへの資金移動が起きるのは明白だ。

円安・インフレ政策では日本経済が回復しないことは、もはや歴史上の教訓として確認されつつある。日本政府と日銀はこの事実を隠ぺいするために、世界的な米ドルキャリーの巻き戻しというパンドラの箱を開けてしまった可能性が高い。
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日本とユーロ圏に滞留していた資金が大挙して米ドルに交換されるという事態が、いつ起きても不思議ではない。その過程で米ドル高が進むほど、米ドルキャリーでの投資の損失を最小限に食い止めるためのドル買いが生じて、米ドルがますます上昇する。この悪循環は、ほぼ確実に中国経済を崩壊させるだけではなく、アメリカとユーロ圏も巻き添えにする可能性が高い。日本の場合、株価は外国人による円キャリートレードの手じまい売りで暴落するだろうが、円キャリーのために借りていた円を買い戻す動きで極端な円安は避けられるから、被害は比較的小さくて済むだろう。

だが、暴落する日本株の中でもとくに下落率が高くなるのは、日銀への当座預金で得ていた不労所得の減少を埋めようとして、無謀な取引で大損を出しそうな金融業界だろう。ユーロ圏では、すでに株価の下落を金融株が先導する構図が定着している。(以下、削除)