養豚場の排水からリンを回収し、再利用する技術を農業・食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所の研究グループが開発した。窒素、カリウムと並ぶ肥料の三大要素であるリンは、新興国での農産物需要が拡大していることに加え、世界最大のリン鉱石産出国の中国が5月に事実上の禁輸に踏み切ったため、世界的に需給が逼迫(ひっぱく)。日本の農業生産への影響が懸念されている。同機構は、環境対策とリン資源確保の“一石二鳥”が図れるとして、新技術の早期実用化を目指す考えだ。


 豚舎から発生する汚水には高濃度のリンが含まれ、環境汚染防止の対策上、汚水を放流する前にリンを除去する必要があった。通常は、汚水に有機溶剤を加えて沈殿させてリンを回収していたが、改修されたリンには重金属など不純物が多く含まれ、再利用は不可能だった。


 同機構は汚水に含まれるリン酸イオン、マグネシウムイオン、アンモニウムイオンなどがリン酸の結晶化反応に適する濃度になっていることに着目、回収装置の開発を進めてきた。


 汚水のpHを8~8・5に高めるとリン酸の結晶化反応が起きる。そこで、汚水にエアポンプで空気を送り込み、二酸化炭素(CO2)を追い出すことでpHを上昇させ、リン酸マグネシウムアンモニウム(MAP)を回収する仕組みだ。MAPを天日乾燥するだけで、リン酸肥料として再利用できる。塩化マグネシウムや海水を添加するとさらに回収効率を高められる。


 1立方メートルの汚水から最大で約170グラムのMAPを回収できる見込みで1000頭規模の養豚場で1日におよそ1・7キロのリンが回収できるという。


 MAPは市販のリン酸肥料に比べ土中でゆっくりと溶出する特徴もあり、作物の栽培実験の結果、市販のリン酸肥料に比べタマネギでは約1・2倍、ニンジンで約1・1倍と収穫高を増やすことができた。陶磁器原料としての利用も検討する。


 リンをめぐっては、中国と並ぶ鉱石産出国である米国が自国への安定供給を優先し輸出を禁止したのに続き、中国も4月に化学肥料の輸出関税を、5月にはリン鉱石の輸出関税を100%へと大幅に引き上げ、事実上の輸出禁止に動いており、調達が困難になってきている。


 全国農業協同組合連合会(全農)は、リンの国際価格高騰に対応し、リン化学肥料の農協への卸売価格を7月から現行の約1・5倍程度に引き上げることで最終調整に入っている。肥料価格の大幅値上げにより、農作物の高騰は避けられなくなる。リンの安定供給確保は食糧自給率の面からも重要で、新技術の早期実用化が期待される。