産地に深刻な被害をもたらしている黄化葉巻病の耐病性を備えた
赤熟出荷向き大玉トマトのF1新品種『秀麗(しゅうれい)』の種子を発売

黄化葉巻病の耐病性と「食味・品質・収量」を両立させた画期的な新品種


 サカタのタネでは、日本のトマト産地に深刻な被害をもたらしている黄化葉巻病の耐病性(※1)を備えた赤熟出荷向き大玉トマトのF1新品種『秀麗』の種子を2007年11月1日から種苗店ルートを通じて販売を開始します。


黄化葉巻病は、発病すると葉が葉巻症状になり、次第に黄化して葉が縮れ、進行すると株全体が委縮し、発病後は開花しても結実しないことが多いことから収量が激減します。

この病害はタバココナジラミがウイルスを媒介することにより感染し、一度発生すると産地全体が壊滅的な被害に陥るケースもあります。

最近になり黄化葉巻病の耐病性を有する品種が使われ始めましたが、これらは耐病性をもたないこれまでの品種に食味やサイズ、収量などの面で及びません。

今回発売する『秀麗』は黄化葉巻病耐病性のほか、葉かび病抵抗性など複合的に耐病虫性を持ちます。果実は硬いので赤く熟させてから収穫しても日持ちがよく、さらに食味もよく、収量性も高い特長があります。

このように『秀麗』は黄化葉巻病耐病性と「食味・品質・収量」を両立させた画期的なF1新品種です。作型は促成、半促成栽培が最も適します。

 なお、『秀麗』は、発売するに当たり、品種の特性を十分理解し、被害産地でのウイルスの判定や防除などの当社の技術サポートを受け入れていただく必要があるため、販売を限定させていただきます。税込希望小売価格は、種子1,000粒入り袋30,030円です。


 トマト黄化葉巻病は、トマト黄化葉巻ウイルス(Tomato yellow leaf curl virus 略称TYLCV)の感染によって発病します。

1939~40年ごろイスラエルで最初に報告され、これまでに地中海沿岸諸国、アフリカ、オーストラリア、アジア、中米、北米など世界各地で発生しています。この病害はベゴモウイルスが媒介虫であるタバココナジラミ類によって媒介、感染するもので、種子伝染や土壌伝染、接触伝染はしません。

 日本では1996年に長崎県と愛知県、静岡県で同時に発見されたのが最初です。その後、トマト黄化葉巻ウイルスは塩基配列による分類が細かく行われました。それにより、現在、日本国内で発生しているトマト黄化葉巻病ウイルスは、比較的病徴の発現が穏やかなマイルド型とも呼ばれるTYLCVマイルド株とその発現が激しいことから激症型とも呼ばれるTYLCVイスラエル株が確認されています。

 いずれも病徴は、主に成長点付近で顕著で、発病初期には新葉の縁から葉色が薄くなり、葉が巻き、その後、葉脈と葉脈の間が黄色くなり葉が縮みます。

さらに病状が進行すると、成長点周辺が叢生(※2)して株全体が委縮します。

このように株全体の成長が著しく阻害されるため、収量は大幅に減少します。

 1996年の最初の発見以来、施設栽培トマトの生産地を中心に急速に発生が拡大しています。

TYLCVマイルド株は東海および関東と中国の一部で、TYLCVイスラエル株は九州のほか四国、中国、紀伊半島、それに関東の一部で分布が確認され、徐々にその発生地域が北上しています。2007年9月現在では栃木県あたりまでその発生が確認されています。

ひとたび発生すると被害は甚大で現在では主力産地を中心に激発するようになり、それがトマトの大きな減収要因になっていることから経済的な被害も大きく、深刻な問題になっています。

 このようなことに加え、薬剤耐性のタバココナジラミも出現していることから、同病害が問題になっている主力産地では耐病性品種が強く望まれています。ごく最近になっていくつかの産地で黄化葉巻病耐病性品種が導入され、使われ始めましたが、日本の大玉トマトの主流であるピンク系ではなかったり、サイズが小ぶりで食味も悪いことから市場性に乏しく、さらに収量も上がらなかったりといったことが指摘されています。

そのため、単に耐病性を持っているというだけではなく、耐病性を持っていない通常のトマトと耐病性以外の部分で競争しうる高い商品価値を持つ品種が求められています。


 今回発売する『秀麗』はTYLCVイスラエル株に対しての耐病性を持ちながら、果実は食味がよく、硬いので赤く熟させてから収穫しても日持ち性がよく、豊円腰高で果色・色回りに優れ、収量性も高い画期的な新品種です。

栽培する上でも土壌適応性は広く、しかも耐湿性が強いため、火山灰土から水田裏作まで幅広く栽培することができます。


萎凋(いちょう)病(F:R-1、2)、ToMV(Tm-2a)、半身萎凋病、葉かび病、斑点病に抵抗性で、青枯病にも耐病性、根コブ病の発生原因ともなるネマトーダ(ネコブセンチュウ)に耐虫性を持つなど複合的に耐病虫性を持つ品種です。

 『秀麗』は、すでに試作段階で生産者から高い評価をいただいており、長年にわたりトマトの研究開発に携わってきた当社が、深刻化する黄化葉巻病問題を解決すべく自信を持っておすすめできる新品種です。なお、『秀麗』のTYLCVマイルド株に対する耐病性については現在確認中であることから、黄化葉巻病の発生している産地のTYLCVのタイプ判定や、防除などの当社の技術面でのサポートを受け入れていただける産地に限定して販売していきます。


 『秀麗』の育種開発に当たっては、非営利の国際的植物研究機関AVRDC(※3)(本部:台湾・台南市)から遺伝資源提供などのご協力をいただきました。


* 『秀麗』の栽培におけるお願い
 『秀麗』は、黄化葉巻病に耐病性を示しますが、保毒型の耐病性(※4)のため、近くに黄化葉巻病に耐病性を持たないトマトが栽培されていると、当社の耐病性品種が感染源となる可能性があるので十分注意してください。

またウイルスの強密度、種、栽培環境(極高温下)により『秀麗』においても病気が発生する場合も考えられるので、従来の耐病性を持たないトマトの栽培と同様に黄化葉巻病対策を行い、同病害の媒介となるタバココナジラミ類を「入れない、出さない、増やさない」対策を徹底してください。


□大玉トマトのF1新品種『秀麗』の概要
 * 関連資料 参照


(※1) 抵抗性・耐病性 :
 抵抗性とは真性抵抗性ともいい、病害自体におかされない性質をいい、耐病性は圃場抵抗性ともいい、おかされはするがその程度が軽いという性質をいう。


(※2) 叢生(そうせい) :
 茎の伸長が抑制され、その部分に葉が密集して生えること。


(※3) AVRDC(Asian Vegetable Research and Development Center):
 植物の研究開発のための主要な国際機関。「農業生産をより改善し安全な野菜の消費を通して栄養失調を減らし、発展途上国を支援する」ことを目的にした非営利の研究所。アジアの熱帯地方で植物の生産を強化する委任をもつアジアの野菜に関する技術研究所として1971年に創立されて、アフリカ、アジアと世界の他の地域で植物の研究開発を促進するべく積極的な役割を果たしている。


(※4) 保毒型の耐病性 :
 病害虫による攻撃や侵入を許すが病害虫の生長や発達を阻止する。病害虫の量や環境条件により病徴や被害が現れることがある。