一律、肥料・農薬5割低減で農業は振興できるのか

◆6地域から8品目が特例求めて申請

 9月7日に「営農活動支援(農地・水・環境保全向上対策)に関する技術検討会」が農水省で開催された。
 「戦後農政の大転換」といわれる「新農政」において「品目横断的経営安定対策」とともに「車の両輪」と位置づけられている「農地・水・環境保全向上対策」・その2階部分にあたる営農活動支援(1階部分は共同活動)で、化学肥料・化学合成農薬を5割以上低減するという要件を満たすことができない産地が、特例措置を申請した。
 「農地・水・環境保全向上対策」における「営農活動支援」を受けられる主な用件は、▽資源を守る共同活動と一体的に行う取組みであること(「共同活動への支援」の対象地域内であること)▽対象区域の農業者全体で環境負荷を減らす取組みを行うこと▽一定のまとまりをもって化学肥料・化学合成農薬を地域の慣行から原則5割以上低減し、エコファーマーの認定を受けること、となっている。
 そのうえで、「現行の技術で化学肥料および化学合成農薬の使用を5割以上低減することが困難な品目については、地域協議会長の申請を基に、3割までの範囲内で5割以下の低減割合を特例的に地域を限って認める」ことにしている。
 その特例措置を求めて6地域協議会から8品目について申請があったが、それを認めるかどうかの技術的な検討を行うのが冒頭に述べて「検討会」だ。


◆4地域3品目で特例を設定

 この検討会では、「代替技術を最大限導入しても5割低減が技術的に困難である」のか、「各都道府県から提出された技術体系等を基に、他県で導入している技術について本当に当該地域で導入困難かどうかを検証」する。
 すでに19年度については表にあるように、6品目延べ59地域での特例措置が設定されているが、これに該当しないもので産地で5割低減が困難と考えられたものが申請され検討された。
 検討の結果、福島県のリンゴについては「輪紋病の発生が多く適当な代替技術がない」、長野県のリンゴについては「スモモヒメシンクイ防除のための適当な代替技術がない」ことから「現状においては更なる低減は困難」と判断され、農薬の3割低減で特例が設定された。
 また、愛媛県のウメ(七折小梅に限定)についても黒星病などの病害虫防除で適当な代替技術がないので農薬4割低減の特例。三重県のナシ(露地)については「周辺地域に5割低減で栽培している取組みがなく、農薬の一層の低減に資する代替技術が確立されていない」ことから農薬3割低減で特例が設定された。
 しかし、これ以外のキュウリ(施設と露地)・トマト(施設)・カキ・ナシについては、農薬や肥料の「5割低減の可能性に向けた更なる検討が必要と考えられる」として特例は認められなかった。


◆「環境に負荷」の科学的な根拠は?

 こうした経過を見ながらいくつかの疑問が浮かんできた。
 一つは、なぜ化学肥料・農薬を慣行より5割削減することが基準になったのかということだ。これは「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」(特栽ガイドライン)に合わせたというのが農水省の説明だが、なぜ「農地・水・環境保全向上対策」を特栽ガイドラインに合わせるのかがよく分からない。その前提には、化学肥料・農薬の使用を減らすことが「環境に配慮した」あるいは「環境への負荷を軽減する」という考え方が農水省にはあるからだろう。しかし、化学肥料・農薬が環境にどれほどの負荷をかけているかを科学的に証明したデータが示されたことはあったのだろうか。それをまず示したうえで、化学肥料や農薬の使用をこれだけ減らせば、環境がどう変化するかを説明するべきではないだろうか。しかもそれはかつての「沈黙の春」の時代ではなく、21世紀の今日における農薬などのデータを使って示されるべきものだと思う。


◆申請は共同活動の1割強、そのほとんどが水稲

 百歩譲って化学肥料や農薬の使用が環境に負荷をかけているとしても、なぜ新農政の「車の両輪の一つ」であるこの対策で5割低減なのか。特別栽培は個人の生産者でも取組めるが、この対策では、まず共同活動を前提にし「一定のまとまりをもって」とか「対象区域の農業者全体」で取組まなければ支援の対象とはなりえない。現実的に考えてどれほどの産地集団がこの支援の恩恵に浴することができるか疑問だ。
 農水省によるとまだ最終データがまとまっておらず未確定だが、8月20日現在で「共同活動」の申請が1万6824件、「営農活動支援」の申請は、東京・神奈川・大阪・沖縄を除く道府県から2055件で、共同活動申請の12%しか申請がない。しかも、品目別にみると、技術体系が確立されていて、集落など共同して取組みやすい水稲が「相当部分」を占めているという。


◆1割でも低減しようという意欲や努力を評価すべき

 つまり「5割低減」という基準は、誰でもがどこでも取組めるものではなく、ハードルが高く設定されているといえるのではないだろうか。確かに環境にやさしい「先進的な営農活動を行う場合」には支援をすると書かれてはいるが、国内農業を振興し自給率を本当に向上させようと考えているならば、そして化学肥料・農薬が環境に負荷を与えているというならば、現在より10%低減でも30%低減でも「環境への負荷を軽減する」ことになるのではないか。「5割削減している産地があるのだから、できるはず」だと、一気にその水準を求めるのではなく、1割でも2割でも低減していこういう意欲や努力を評価することこそが大事ではないだろうか。
 しかもこの対策は、19年度から23年度までの5年間の対策で、その後はこれから設置される予定の「第三者機関」の検証をみて、次期対策を考えるという。5年という歳月は長いように見えて短い。現在、慣行栽培している産地が努力して5割低減を実現してもこの支援を受けるのに間に合うかどうかも分からない。間に合わないと分かれば、取組む意欲も「低減」してしまうのではないだろうか。
 この「農地・水・環境保全向上対策」が本当に農政の重要な柱であるならば、「営農活動支援」の要件も産地振興の視点から見直すべきではないだろうか。

(2007.10.3)