栗林 輝夫
キリスト教帝国アメリカ―ブッシュの神学とネオコン、宗教右派

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 イギリスのBBC放送が、「In Elusive Peace: Israel and the Arabs(遠い和平:イスラエルとアラブ)」というドキュメンタリー番組を、先月10,17,24日の3回にわたって放送した。残念ながら日本に住む私はその番組を見ることはできなかったが、BBCのウェブページに掲載された番組のプレスリリースに驚くべきことが書かれていた。ブッシュ大統領は、アフガニスタンとイラクへの侵攻は神からのお告げだったと語ったというのだ。


BBC - Press Office - George Bush on Elusive Peace (10/6付 BBC)

President George W Bush told Palestinian ministers that God had told him to invade Afghanistan and Iraq - and create a Palestinian State, a new BBC series reveals. Nabil Shaath says: "President Bush said to all of us: 'I'm driven with a mission from God. God would tell me, "George, go and fight those terrorists in Afghanistan." And I did, and then God would tell me, "George, go and end the tyranny in Iraq …" And I did. And now, again, I feel God's words coming to me, "Go get the Palestinians their state and get the Israelis their security, and get peace in the Middle East." And by God I'm gonna do it.'" (拙訳) ブッシュ大統領は、パレスチナ自治政府の大臣(シャース副首相)に、アフガニスタンとイラクへの侵攻、およびパレスチナ国家の建設は神からのお告げだったと語った。BBCの新シリーズ番組が明らかにする。  ナビル・シャース副首相は語る。「ブッシュ大統領は私たちに対してこう言った。”私は神の使命に従っている。神は私にこう告げたんだ。ジョージ、アフガニスタンに侵攻してテロリストと戦いなさい、と。そして私(ブッシュ)はそうした。それからまた、神は私にこう告げた。ジョージ、イラクへ侵攻して恐怖政治を終わらせなさい、と。そして私はそうした。そして今また、私は神の言葉が私にやってくるのを感じている。パレスチナ国家を建設して、イスラエルの安全を確保しなさい、そして中東に平和をもたらしなさい、と。神にかけて、私はそうするだろう”、と。」

 にわかには信じがたい話である。ところが最近この本を読んでみて、なるほどこれは十分にあり得ることだと思った。この本の著者は、関西大学でキリスト教と文化研究センター長を務める栗林輝夫氏。キリスト教文化の専門家から見ると、国際政治をキリスト教的な善と悪の対立(そしてアメリカはその善の側の先頭に立っている)と見なすブッシュ大統領の思想は、世界を光と闇の対立とみなすマニ教の思想の影響を強く受けた、キリスト教のなかでも異端に近い思想だという。さらに、ブッシュ大統領のスピーチや、アメリカ国内のメディアが報じるブッシュ政権に関する膨大な記事、ワシントンポスト紙の記者B・ウッドワード氏の「ブッシュの戦争」 をはじめとする数々のノンフィクションを手がかりに、ブッシュ大統領はどうやら本気で「アメリカは世界の自由を守るために独裁者フセインを打倒する、それは神に与えられたアメリカへの特命(ミッション)である」(同書p125より)と強く信じているらしいことを浮き彫りにする。そしてまた、政治と宗教を分離するという近代国家の大原則をねじまげるこのようなブッシュ政権に対して、「ブッシュが議論のなかに盛んに神の計画を持ち出すことは(中略)あらゆる外交を軍事に収斂させる危険性がある」(2003.3.11付New York Times紙)、「(ブッシュ大統領は宗教的な)過激派の仲間そのものだ」(2003.11 PBSテレビでのカーター元大統領発言)などの強い反対意見があるものの、キリスト教の善を世界に押し広めようとするブッシュ大統領の姿勢は、多数の熱心なキリスト教信者(とくにアメリカ国民の3割前後を占めるボーンアゲイン及びキリスト教福音派の人々)から強く支持されていて、それが2004年の大統領再選にもつながったという。


 イラク戦争については、日本ではあまり報じられていないが、2002年2月にアメリカ国防情報局(DIA: Defense Intelligence Agency)が作成した秘密文書(文書番号:DITSUM No.044-02)が最近新たな問題となっている(下記参考情報)。イラク戦争の1年以上も前に作成されたこの文書で、イラク侵攻の口実ともなった「大量破壊兵器」が、実は信用できない情報源から得られたものであることが明確に書かれていたからだ。


 11/30付のニューズウィーク誌は、握手を求めるブッシュ大統領に対して、ひれ伏すように頭を下げて彼の足に手をやる小泉総理の風刺漫画を掲載した。小泉総理のブッシュ大統領に対する異様な忠実ぶりを風刺する漫画だが、そのブッシュ大統領が「神のお告げ」で戦争までするとなると、素直に笑えない。


【参考情報】

Report Warned Bush Team About Intelligence Suspicions (11/6 New York Times紙)

Lying with intelligence (11/8 Los Angeles Times紙) Bush's Tortured Logic (11/8 Washington Post紙)

The big lie technique (11/16 上記LA Times紙の記事を執筆したRobert Scheer記者のウェブページより)


【私が過去に書いた関連記事】

イラク戦争:ファルージャで米軍は何をしたのか(2005.11.11)

アメリカがイラン国内で諜報活動 攻撃を検討(2005.1.18)

【緊急署名】攻撃激化に反対の意思表示を(転載歓迎)(2004.11.11)

検証:イラク戦争と国連憲章(3)(2004.10.24)

検証:イラク戦争と国連憲章(2)(2004.10.13)

検証:イラク戦争と国連憲章(1)(2004.10.7)

国連演説:ブッシュ大統領のダブルスタンダード(2004.9.23)

9/11から3年:見捨てられた死者たち(2004.9.14)

指導者としての素質と、論説委員としての素質(2004.8.24)

NY Times紙 「ブッシュ大統領は謝罪すべきだ」(2004.6.18)

9.11調査委員会 イラクとアルカイダが関係していた証拠なしと判断(2004.6.18)

支離滅裂なイラク政策(2004.4.22)

「茶色の朝」(2004.2.15)

小泉首相のウソ・デタラメ(2004.2.1)

小泉内閣の、あやふやなイラク攻撃支持理由をふりかえる(2004.1.26)

サダム後のイラクに関する的確な分析記事(2003.12.23)

イラク人の言論を弾圧する米軍(Aljazeera)(2003.12.17)

イラク問題に対する、公明党の情けない主張(2003.12.9)

防衛庁長官のどうしようもない詭弁(2003.12.6)

イラクの大量破壊兵器はどこ?(2003.10.1)