吉岡 忍
M/世界の、憂鬱な先端

hoshi4


 私にとってノンフィクションを読む楽しみの一つは、ふだん自分があたりまえと考えていた固定観念を事実によって崩されることで、これまで気づかなかった新しい視点が得られることですが、ひさびさにそうした本に出会いました。

 ひと昔前に起きた、「M」による幼女連続誘拐殺人事件と、その後日本を震撼させることになる神戸市の酒鬼薔薇事件。著者はこの2つの事件を丹念に取材したうえで、これらの事件を生み出した背景にある、日本社会の歪みを浮き彫りにしてゆきます。

 私はこの本を読むまで、幼女連続殺人事件は、Mという「病的な異常性欲者」が起こした、極端に非道な事件としか思っていませんでした。ところが著者の取材によると、事実はそんなに単純ではないということがわかり、さらにその過程で日本の裁判制度がかかえる問題、家族関係と社会のかかえる問題などが、次から次へと明るみに・・・。つまり事件は、Mという犯人ただ一人だけの問題から発生したではなく(もちろん主要な原因ですが、)その周辺に存在する、歪んだ社会状況からも強く影響された、いわば構造的な問題でもあるということが、これを読むとよくわかります。

 ひさびさにずっしりと心に残る、重いノンフィクションでした。