「バックコーラスの歌姫(ディーバ)たち」は本年度のアカデミー長編ドキュメンタリー賞を受賞した作品だ。原題は「20 Feet from Stardam」。センターマイクからわずか20feet(6メートルくらい)の距離にいるバックコーラスに焦点を当てたものだ。
登場するのは世界有数のバックコーラスのシンガーたち。(余談だが、バックコーラスの歌手たちよりシンガーたちやディーバたちの方がしっくり来るのは何故だろう)

ストーリー:昔から音楽にはバックコーラスが欠かせなかった。かつては白人が上品に歌っていたが、今は黒人のパワフルな歌声が重宝されている。これは教会のゴスペル音楽に端を発しているものだ。バックコーラスのシンガーたちは「いい声を出せて当たり前」という状況下、抜群の歌唱力でライブやCD音源を盛り上げる。だが、彼女たちはなかなかセンターで歌うことが出来ない。スティングやローリング・ストーンズのミック・ジャガー、スティービー・ワンダーなど豪華な歌手のインタビューと、バックコーラスのシンガーたちの歴史、現在が紹介されるドキュメンタリー。

歌のある映画はやっぱり好きだな、というのが終わってすぐの感想だ。そして、当たり前のように聴いている音楽の背後にこういう事実が隠れていたということが興味深かった。
バックコーラスのシンガーたちはなかなかソロになれない。この映画に出演している人たちは長年やっているバックコーラスのプロ中のプロというような人たちだ。彼女たちの歌声はプロをも凌駕するほどの上手さ。そのため、ソロデビューを経験している人がほとんどだった。だが、彼女たちは皆ソロではあまり輝かしい結果を残せていない。替え玉で出した曲がヒットするようなことがあっても、何故か彼女たちはなかなか芽が出ないのだ。
だが、この映画を観ていて思うのは、そうやって爆発的に売れることがいいことなのか、ということだ。一瞬売れて、でも挫折して音楽業界を去っていく人もたくさんいるだろう。その中で、彼女たちは長年にわたって「歌」を職業にして生きてくることが出来ている。これはすごいことだし、尊敬に値することだ。自分が歌を仕事にしたいと思い、これだけ続けられれば良い人生のような気がする。とはいえ、これだけ残ることが出来たのは並大抵の才能ではないからなのだろう。それだけの才能があるからこそ、センターで歌えないことがもどかしいのかもしれない。
知らなかった世界だったからこそ、興味深く観られたし、特に洋楽を昔から聴いている人にとっては、「あ、これもこの人なの?」というような体験が出来るのかもしれない。残念ながら僕はあまり洋楽を知らないのでそういう感覚にはならなかったが。だが、それでも十分に楽しめる。日陰の人にスポットを当てる、いいドキュメンタリーだった。