賃貸難民は何処へ? | 上海の広告会社からの便り~“addworks的上海”ブログ

賃貸難民は何処へ?

先日、私が借りている部屋の大家から連絡があり、突然「家賃を値上げする」と言ってきた。

理由はをたずねると「今年は万博だから」とのこと。

以前から「万博が近づくとマンションの家賃相場が上がる」という話は耳にしていた。08年の北京オリンピックのときには北京の家賃相場も上がったらしい。同じように上海でも万博を機に家賃が上がるという理屈。

だが、私にはその構造がどうもうまく理解できないでいた。だいたいオリンピックや万博などというのは一過性のイベントにすぎない。だから期間中の宿泊需要増に合わせて、期間中の周辺ホテル宿泊費が上がる、というのなら理解できるだが、マンションはホテルと違って万博だから需要が増えるということはないだろう。マンションの家賃というのは、あくまでその物件の普遍的な価値の変動によって決まるものである。具体的に言うと「立地場所の土地代がアホみたいに高い」とか「物件自体がめちゃくちゃ豪華である」とか「窓からの眺望がおそろしく素晴らしい」とか「生活面での利便性がことさら優れている」とか。

で、よくよく考えてみたのだが、なるほど万博で不動産価格が上がる理由がわかった。公共交通インフラの拡充である。

上海では万博の開催に合わせてここ数年来、地下鉄の新線が猛烈な勢いで建設されている。私が上海で暮らし始めた2004年頃には3本しか開通してなかったのだが、今や営業運転中の路線だけで10路線、さらに万博開催の5月前までにあと2本開通する予定である(2012年までにあと1本の開通が予定されており最終的には合計13本になるのだが、これは東京の地下鉄路線の合計数と同じなのである)。そして地下鉄新線開通でうちのマンションの目の前にも駅が出来た。私が住んでいるマンション区は都心にあるものの、これまで地下鉄駅から随分遠く、公共交通的には陸の孤島のような状態だったので、今回の地下鉄開通は随分とありがたいのは事実だ。日本でも駅から近い物件は家賃が高い。それは地下鉄駅の存在によって物件自体の付加価値(=利便性)が上がるからだ。近くに新駅が出来たりすることで一帯の家賃相場が上がるというのは日本も同じだろうから、なるほど理解はできる。

で、大家にいったいいくら値上げしたいのかたずねると、なんと25%ものアップ率で、思わずコケそうになってしまった。

おいおい。我々はまだこのマンションに住んで1年しか経っていないのだ。万博だか地下鉄開通だか知らないが、1年で家賃が25%も値上がりするってどういうことだ?しかも我々と大家の賃貸契約は2年である。契約満了で更新時に家賃を上げるというのならまだしも、契約期間の半分しか経っていない時点でしかも25%アップだぁ?ふざけるな、まったく。

ここで日本にお住まいの皆さんは、きっと「契約期間の途中で値上げしてくるなんて、そんなもの無効だよ」と思うだろう。たしかに理屈はそうである。だがそこが日本と中国の違うところだ。

日本は賃貸物件の社会的地位がわりときちんと確立されていて、法律上でも借り主の権利などがしっかりと保護されており、また物件を不動産会社がきちんと管理して、大家の横暴が許されないようになっていたり、あるいは最初から不動産会社が賃貸専門マンションとして建設しているものも多数ある。そして賃貸物件の家賃はそうそう簡単に値上げできない仕組みにもなっている。だから10年も15年も家賃が変わらない、などという話だってざらにある。契約更新時に値上げするケースはたまにあるらしいが、それでもせいぜい数千円がいいところで、1万円も上がったら大騒ぎになる。また、たとえ大家が値上げを要求してきても借り主が拒否すれば大家が一方的に値上げすることもできない。仮にその該当物件がまだローンの支払途中であり、返済金額が急に膨張したら正当な理由になるのかもしれないが、そんなことはほとんど考えられないし、またその場合でも契約書の重要事項の説明の際に必ず担保物件かどうかの説明をしなければならない。あるいは所有不動産にかかる税金などが上昇した場合も正当な理由になるのかもしれないが、それだってわずかなものだろう。

だが中国は基本的に「マンションは買うもの」という価値観が主であり、賃貸というのはとても社会的地位が低く、「賃貸専用マンション」などというものは存在しない。すべての不動産物件は部屋ごとにオーナーがいて、そのオーナーが手持ちの部屋を第三者に貸し出す場合のみ、賃貸物件として流通することになる。ほとんどのオーナーは投機目的で購入した物件を値上がりするまでの間第三者に貸しており、その姿勢は「貸してやっている」という上から目線である。そこにはいちおう契約書はあるものの、基本的にオーナーの権限が異常に強く、借り主の権利などないに等しいと言っても過言ではない。だからオーナーが「そろそろ売っちゃうから」と言えば借り主は出て行かねばならないし、「値上げするよ」と言えば借り主は従うしかない。というわけで、今回のように契約途中で家賃を上げてくる、などという横暴も平然と許されているのである。

で、結論を言うと、我々は引っ越しを決めた。

あまりにも一方的な要求で、しかも話し合いの余地がまったくなかったのである。別に払おうと思えば払えない金額ではない。だが我々夫婦としては「話し合いの余地もなく一方的な要求」であることにあまりにも憤慨したので、これ以上こんな大家の物件で暮らしたくない、という結論に達したのである。すぐに最寄りの不動産会社に近所の空き物件を調べてもらったら、大家の要求してきた金額でもっと条件の良い物件が他にもけっこうある。どうせ同じ金額を払うならもっと良い物件に移ったほうがよっぽど良い。少なくともあの大家の顔などは2度とみたくない。

でも今回の1件で、この国では賃貸暮らしというのはとても立場が弱いのだと痛感した。これからもこの国で暮らしてゆく以上、不動産を購入しなければいつまでも同じようなことの繰り返しばかりなのだろう。すべての土地の権利が国家にあるという中国で、不動産を持つ事に果たして意味があるのかどうかという議論の是非はともかく、目の前の現実を考えたら、やはり不動産を持つ以外にこの国でまともな社会的地位を確立することはできないのだ。好むと好まざるとにかかわらず。

さて、また引っ越しか。面倒くさいなぁ。とりあえずまた緊急避難で別の賃貸物件に移らなければならないが、同時に、真剣にマンション購入計画をスタートすることにしよう。みてろ、クソったれ大家め。まったく。

(み)

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