狼と香辛料 第十一幕「狼と最大の秘策」
俺はみんなで笑えたほうが、ホッとする
ホロが宿に戻った後も、金策に回るクラフト・ロレンスだが、行く先々での扱いは大きく代わるものでもなかった。施しのように投げつけられる金を拾い集めるロレンス。
日も暮れ、宿に帰ったロレンス。ベッドで横になるホロに謝罪の言葉を掛けるが、そんなロレンスをホロは尻尾で払う。
なんとか手にしたのは僅かに3リュミオーネと7分の2。借金返済の額にはほど遠い程度しか集める事の出来なかったロレンスは、もはやそれを博打で増やす程度の事しか頭に浮かばず、ホロに託そうとする。
だが、一人宿を出たロレンスに対して、ホロは金を投げつけて「たわけ! さっさと戻りんす!」と声を張り上げる。
自分がいなければ金を借りられた、その事を何故もっと責めないのか、と詰め寄るホロ。しかし心配してついて来てくれたホロに対して、そんな事出来る筈がないと口にするロレンスに、ホロは「お人好し」と言う。
「ぬし……ひとつだけ答えてくりゃれ。
ぬしが、そんなにお人好しなのは……な、なんでじゃ」
「………………
……性格、かな」
どこまでも空気読めません。
「このたわけが! 性格じゃと!? 性格じゃと言ったか!?
嘘でも惚れとるからというのが雄の甲斐性じゃろ。
このタワケが!!」
ホロに襟首捕まれて怒鳴られるロレンス。慌てて訂正しようとが。
「物事にはな、ぬしよ。嘘でも良いから言って欲しい時と、今更言ったら顔が腫れ上がる程殴られる時がありんす!! 今はどっちじゃと思う?」
「こ……後者」
言われるまで気づけない男……あそこで好きだと口にするのは卑怯だと思ったというロレンスの考えを見抜きながらも、あの場面ではやはり言って欲しかったというホロはもう一度仕切り直しをする。
やり直すホロとロレンス……良い場面の筈が、その前の遣り取りがあるので結構間抜けです。
おかげですっかりと機嫌の直ったホロは、自分が宿に戻ってから考えていた一つの手段を口にする。それはまさにローエン商業組合のヤコブ・タランティーノが言っていた抜け道。普通にやれば見つかり捕まってしまうが、一つだけ実現する方法があると自信を持って宣言するホロ。
ノーラ・アレントは教会の司祭から、傭兵が出るという街道を行くように支持される。以前に見せた暗い表情とは打って変わって笑顔でノーラの羊飼いとしての腕前を評価する司祭、対してノーラの表情は重く沈んだもの。
翌日、その『商売』の為に、ロレンスはレメリオ商会の主人ハンス・レメリオと対面する。
同じように火の車となっているレメリオ商会に持ち掛けたのは、金の密輸だった。教会が取り仕切っている金の密輸はこれまでも悉く失敗して捕まっている為、馬鹿げていると追い返そうとするレメリオ。
前の金の話はここに繋がるわけですな。
「破産寸前の人間は、得てして無謀な計画を完璧なものと誤認する。今のあんたが、それだ!」
「しかし、金の密輸を信頼するにたる凄腕ものに任せたら?」
「それほどの凄腕なら、わざわざ金の密輸などしなくとも、十分に儲けてるだろ? 机上の空論だ」
「凄腕だが、しかも儲かってない人材がいたとしたら、どうですか?」
「あり得ない。どんな人間がそれに当てはまるというんだ」
「腕が立ち、この街で仕事にありついているものの、薄給でしかも金を必要としている。
そして、その人物は雇い主に不満を抱き、ほのかな暗い感情を持っている」
「…………?」
完全に飲み込めない様子のレメリオ。
「雇い主というのは教会です。そして金の密輸は教会に楯突く行為でもあります。金儲けのみならず、教会へのささやかな復讐行為とそそのかせば間違いなく食いついてくるでしょう。しかも、裏切りの可能性はほとんど無い。私がその人物の名を告げれば、ご納得いただけれると思います」
この街に住んでいるレメリオならば、信じる信じないは別として当然ノーラの噂は嫌が応にも耳に入っている筈なのでしょう。その言葉に心動かされつつも、危険性を視野に入れたのか拒否するレメリオ。自分たちだけでなく、敢えてレメリオに声を掛けた事に疑念を抱いたのもあるのでしょう。
債務の支払期日の延長と、金の買い付けに必要となる費用、ロレンスはそれらの為にレメリオに声を掛けた。それでも尚渋るレメリオに、商会の人間がどんどん商会から逃げていっている、という現実をホロがたたきつける。
そして遂にレメリオは彼らと共に密輸をする決心をする。
これから教会を出し抜こうというのに「神のお目こぼしがあらん事を」と神を信じるかのような発言をする辺りがロレンスのすぶとさ。
続いてノーラとの交渉にうつるロレンスとホロの2人。
ローラの様子からすると、これまでも何人か護衛しているけど、約束通りに仕事を貰えた事はなかったのでしょう。やはり教会から睨まれてしまうというのが問題なのだろう。
こんな危険な話を、野外の人の多いところで話してます……どう考えても他の人の耳に入ってそうな気がするのですが。
20リュミオーネをノーラへの成功報酬として提示する。むろん、それだけの額になれば危険が伴う。仕事を飲むかどうかは自由としながらも、20リュミオーネという金額の魅力を語り、ロレンスはローラの気持ちを揺さぶる。
そして彼女と教会の関係が良好では無い事、教会はローラが襲われるまでどんどん危険な場所に行かせるだろう、という事を語って聞かせて、ローラの心の闇を表へと引きずり出す。
それは決して彼女を騙す為だけのものではなく、真実そのものでもあるのでしょう。そして真実であるからこそ効果がある。
「ハッキリ言いましょう。
ここの教会は豚にも劣る!」
こんな大勢の人がいるところで、ハッキリ言っちゃったよ。誰かの耳に入って、教会に伝えられたらどうするつもりなんだ。ノーラもかなり驚いています。
教会の事をあしざまに罵ったロレンスは、教会が困る事をして金も稼ぐ方法として、金の密輸をする、という事を知らせる。ノーラは直ぐに了承はしないものの、最後まで話を聞こうとする。それはすなわちほとんど取引に乗るつもり、という事なのでしょう。
ノーラが魔女として忌避されているのは、彼女の能力故なのですね。能力故に、他の人間では不可能な狼が多い場所も問題なく通れてしまう。それが逆に良からぬ力を使っているのではないか、という疑念を持たせてしまう。そうした悪循環の上に成り立っている、という事でしょうか。
ちなみに、この間ホロは口出しせず、ひたすら飲み食い。金がないのに、容赦なく飲み食いするなぁ。
結局羊に金を隠して密輸する、という仕事を引き受けるノーラ。
「私、他の人のお仕事でしたらお受けしませんでした」
「え」
「ロレンスさんだから、決めたんです」
突然の言葉にロレンスは面食らったような表情になり、ホロはちょっと面白くなさそうです。
宿に戻ったロレンスは利益ばかりを強調した交渉に、罪悪感を覚えている。相手がいっぱしの商人ならばまだしも、一介の羊飼いに過ぎない少女という事で急に後ろめたさが沸いてきたようだ。しかしホロはそんなロレンスの同情心を打ち消す。
「あの小娘は、獲物として追いかけられ、喰われるだけの羊ではない
……野生の動物たちの話の中で、自ら決して飛び込んできた果敢な羊じゃ。
もしかしたら、羊の皮を被った別の動物かもしれんぞ。
あまり言いたくはないが、わっちが認めたほどの羊飼いじゃ。
ぬしはそれほど悪くありんせん。お人好しもほどほどにしやしゃんせ」
決意の表情を浮かべるノーラ。ホロが今回の件を思い付いたのも、それを実行してみようと考えたのもノーラという人間の力量を認めた上での事でしょう。
そしてレメリオももはや金の密輸に手を出すしかない、という決意に駆られ、マーティン・リーベルトにロレンス達の補助を促していた。
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ホロが宿に戻った後も、金策に回るクラフト・ロレンスだが、行く先々での扱いは大きく代わるものでもなかった。施しのように投げつけられる金を拾い集めるロレンス。
日も暮れ、宿に帰ったロレンス。ベッドで横になるホロに謝罪の言葉を掛けるが、そんなロレンスをホロは尻尾で払う。
なんとか手にしたのは僅かに3リュミオーネと7分の2。借金返済の額にはほど遠い程度しか集める事の出来なかったロレンスは、もはやそれを博打で増やす程度の事しか頭に浮かばず、ホロに託そうとする。
だが、一人宿を出たロレンスに対して、ホロは金を投げつけて「たわけ! さっさと戻りんす!」と声を張り上げる。
自分がいなければ金を借りられた、その事を何故もっと責めないのか、と詰め寄るホロ。しかし心配してついて来てくれたホロに対して、そんな事出来る筈がないと口にするロレンスに、ホロは「お人好し」と言う。
「ぬし……ひとつだけ答えてくりゃれ。
ぬしが、そんなにお人好しなのは……な、なんでじゃ」
「………………
……性格、かな」
どこまでも空気読めません。
「このたわけが! 性格じゃと!? 性格じゃと言ったか!?
嘘でも惚れとるからというのが雄の甲斐性じゃろ。
このタワケが!!」
ホロに襟首捕まれて怒鳴られるロレンス。慌てて訂正しようとが。
「物事にはな、ぬしよ。嘘でも良いから言って欲しい時と、今更言ったら顔が腫れ上がる程殴られる時がありんす!! 今はどっちじゃと思う?」
「こ……後者」
言われるまで気づけない男……あそこで好きだと口にするのは卑怯だと思ったというロレンスの考えを見抜きながらも、あの場面ではやはり言って欲しかったというホロはもう一度仕切り直しをする。
やり直すホロとロレンス……良い場面の筈が、その前の遣り取りがあるので結構間抜けです。
おかげですっかりと機嫌の直ったホロは、自分が宿に戻ってから考えていた一つの手段を口にする。それはまさにローエン商業組合のヤコブ・タランティーノが言っていた抜け道。普通にやれば見つかり捕まってしまうが、一つだけ実現する方法があると自信を持って宣言するホロ。
ノーラ・アレントは教会の司祭から、傭兵が出るという街道を行くように支持される。以前に見せた暗い表情とは打って変わって笑顔でノーラの羊飼いとしての腕前を評価する司祭、対してノーラの表情は重く沈んだもの。
翌日、その『商売』の為に、ロレンスはレメリオ商会の主人ハンス・レメリオと対面する。
同じように火の車となっているレメリオ商会に持ち掛けたのは、金の密輸だった。教会が取り仕切っている金の密輸はこれまでも悉く失敗して捕まっている為、馬鹿げていると追い返そうとするレメリオ。
前の金の話はここに繋がるわけですな。
「破産寸前の人間は、得てして無謀な計画を完璧なものと誤認する。今のあんたが、それだ!」
「しかし、金の密輸を信頼するにたる凄腕ものに任せたら?」
「それほどの凄腕なら、わざわざ金の密輸などしなくとも、十分に儲けてるだろ? 机上の空論だ」
「凄腕だが、しかも儲かってない人材がいたとしたら、どうですか?」
「あり得ない。どんな人間がそれに当てはまるというんだ」
「腕が立ち、この街で仕事にありついているものの、薄給でしかも金を必要としている。
そして、その人物は雇い主に不満を抱き、ほのかな暗い感情を持っている」
「…………?」
完全に飲み込めない様子のレメリオ。
「雇い主というのは教会です。そして金の密輸は教会に楯突く行為でもあります。金儲けのみならず、教会へのささやかな復讐行為とそそのかせば間違いなく食いついてくるでしょう。しかも、裏切りの可能性はほとんど無い。私がその人物の名を告げれば、ご納得いただけれると思います」
この街に住んでいるレメリオならば、信じる信じないは別として当然ノーラの噂は嫌が応にも耳に入っている筈なのでしょう。その言葉に心動かされつつも、危険性を視野に入れたのか拒否するレメリオ。自分たちだけでなく、敢えてレメリオに声を掛けた事に疑念を抱いたのもあるのでしょう。
債務の支払期日の延長と、金の買い付けに必要となる費用、ロレンスはそれらの為にレメリオに声を掛けた。それでも尚渋るレメリオに、商会の人間がどんどん商会から逃げていっている、という現実をホロがたたきつける。
そして遂にレメリオは彼らと共に密輸をする決心をする。
これから教会を出し抜こうというのに「神のお目こぼしがあらん事を」と神を信じるかのような発言をする辺りがロレンスのすぶとさ。
続いてノーラとの交渉にうつるロレンスとホロの2人。
ローラの様子からすると、これまでも何人か護衛しているけど、約束通りに仕事を貰えた事はなかったのでしょう。やはり教会から睨まれてしまうというのが問題なのだろう。
こんな危険な話を、野外の人の多いところで話してます……どう考えても他の人の耳に入ってそうな気がするのですが。
20リュミオーネをノーラへの成功報酬として提示する。むろん、それだけの額になれば危険が伴う。仕事を飲むかどうかは自由としながらも、20リュミオーネという金額の魅力を語り、ロレンスはローラの気持ちを揺さぶる。
そして彼女と教会の関係が良好では無い事、教会はローラが襲われるまでどんどん危険な場所に行かせるだろう、という事を語って聞かせて、ローラの心の闇を表へと引きずり出す。
それは決して彼女を騙す為だけのものではなく、真実そのものでもあるのでしょう。そして真実であるからこそ効果がある。
「ハッキリ言いましょう。
ここの教会は豚にも劣る!」
こんな大勢の人がいるところで、ハッキリ言っちゃったよ。誰かの耳に入って、教会に伝えられたらどうするつもりなんだ。ノーラもかなり驚いています。
教会の事をあしざまに罵ったロレンスは、教会が困る事をして金も稼ぐ方法として、金の密輸をする、という事を知らせる。ノーラは直ぐに了承はしないものの、最後まで話を聞こうとする。それはすなわちほとんど取引に乗るつもり、という事なのでしょう。
ノーラが魔女として忌避されているのは、彼女の能力故なのですね。能力故に、他の人間では不可能な狼が多い場所も問題なく通れてしまう。それが逆に良からぬ力を使っているのではないか、という疑念を持たせてしまう。そうした悪循環の上に成り立っている、という事でしょうか。
ちなみに、この間ホロは口出しせず、ひたすら飲み食い。金がないのに、容赦なく飲み食いするなぁ。
結局羊に金を隠して密輸する、という仕事を引き受けるノーラ。
「私、他の人のお仕事でしたらお受けしませんでした」
「え」
「ロレンスさんだから、決めたんです」
突然の言葉にロレンスは面食らったような表情になり、ホロはちょっと面白くなさそうです。
宿に戻ったロレンスは利益ばかりを強調した交渉に、罪悪感を覚えている。相手がいっぱしの商人ならばまだしも、一介の羊飼いに過ぎない少女という事で急に後ろめたさが沸いてきたようだ。しかしホロはそんなロレンスの同情心を打ち消す。
「あの小娘は、獲物として追いかけられ、喰われるだけの羊ではない
……野生の動物たちの話の中で、自ら決して飛び込んできた果敢な羊じゃ。
もしかしたら、羊の皮を被った別の動物かもしれんぞ。
あまり言いたくはないが、わっちが認めたほどの羊飼いじゃ。
ぬしはそれほど悪くありんせん。お人好しもほどほどにしやしゃんせ」
決意の表情を浮かべるノーラ。ホロが今回の件を思い付いたのも、それを実行してみようと考えたのもノーラという人間の力量を認めた上での事でしょう。
そしてレメリオももはや金の密輸に手を出すしかない、という決意に駆られ、マーティン・リーベルトにロレンス達の補助を促していた。
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