新書がベスト | ただのオタクと思うなよ

新書がベスト

小飼 弾
ベストセラーズ
発売日:2010-06-09


小飼弾信者になるな、読者であれ
 iPadの発表があった今年1月からこっち、“書籍観”を問う本が真っ盛りになっている傾向が見られます。ここでもたびたび紹介している、電子書籍をめぐるジャーナリスティックな視点のもそうですが、「そもそも本とはなんぞや」という根本を問うものや、次々新手が現れる速読法のノウハウ本まで、多岐にわたっています。

 これだけ多くの関連書が出され、多くの知識人が意見を競わせているということは、それだけ日本人が本好き国民であることを示しているのでしょう。本の売価が全般的に高いとされるアメリカとは大きく事情が異なるとも言えます。底を考慮すると、電子出版市場の広がり方も、アメリカのそれとはかなり違う様相を呈していくのでしょう。

 そんな日米出版界の決定的な違いを表す一つが、文庫本と新書の存在です。基礎学問ではアメリカに劣るなどとわかったようなことをいう知識人がいますが、この低価格本のカテゴリーの存在は、最先端ではいざ知らずとも、日本人の中位層クラスの知識のボリュームを下支えする力になっていると、私は思います。なかんずく新書群の充実度が進む限り、日本の学力は決して悲観することはないと断言していい。

 そんな新書購読を強く奨励するのが、本日紹介する一冊、小飼弾氏の最新著「新書がベスト」です。

 新書推奨本としては以前、「だから新書を読みなさい」というのを取り上げたことがありましたが、今度の本はちゃんと新書で書かれた新書推奨本であるところがまず大きい。やはりこういう持論を展開するならまず自らが範を示さないといけませんわね。

 その意味において、弾さんの新書論への徹底ぶりは目をみはるものがあります。曰く「ハードカバーは捨てるつもりで買え」。たしかに、知識を得るツールが本の究極の役割であるならば、高額でがさばるハードカバー本にこだわる理由はありません。客が来た時の虚仮威し位が関の山でしょう。もちろん、ことが小説などとなれば、装丁全体に世界観を演出する効果を委ねる意味はあるわけで、その辺を使い分ければいいと、私も思いますし、弾さんの思いも同じところにあるのでしょう、たぶん。

 でも、知識という名の栄養を身につけるためなら、タイトルや帯くらいでしか個性を発揮することのない新書で十分。たとえ“ハズレ本”を引き当ててしまっても、そのダメージはハードカバーの半分で済む。

 ただ、弾さんもこの本の中で指摘しているように、本の中身を隅から隅まで読んですべてを吸収使用などという幻想は捨てるべきで、その意味において、この弾さんの本もまた、すべてを丸呑みにする必要はありません。そもそもそれは無理の話でもあり、やってはいけないことでもあります。なぜなら、読んでるあなたは小飼弾ではないからです。勝間本を完全吸収しても勝間和代になれないのと同じ論理です。

 要は、小飼弾式新書読書法のうち、自分にフィットした方法をつまみ食いして取り入れていくこと。こういう本に手を伸ばす人なら、少なからず自分流の読み方くらい持っているはずですから。その自己流をゆめゆめ「否定された」などと思わないことです。気に入らなかった箇所は忘れてしまえばそれでよし。弾さんも本の中で指摘しています。「信者になるな、読者であれ」。