iPad vs.キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏
エンターブレイン
発売日:2010-03-12
日本の出版界最大のチャンスがやってくる
iPadの発売が近づくのに合わせて、日本国内でも電子書籍をめぐる動きが顕著になってきました。電通が旗振り役になって複数の雑誌をiPad向けに配信するというようなことを発表しましたし、すでにiPhone向けにebookをAppストア通しで提供している出版社なども日増しに増える状況にあります。日本の新聞社も、英字紙をアマゾンKindleソニー(米国ソニー)のReader向けに配信する手はずを整えているなど、確実に米西海岸からの電子ブックの波は犬吠埼沖に迫ってきているのを感じます。
そんな、黒船来航前夜の日本と世界を取り巻く電子書籍化の状況を詳細にリポートしているのが、本日紹介する一冊「iPad vs.キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏」です。
このように、最近にわかに騒がれ出した感のある電子書籍化の動きですが、実は結構古くから試行錯誤がなされてきたことを私たちは見落としがちです。実は1980年代にはすでに「広辞苑」のCD-ROM版は存在していたんですね(確か10万円くらいしたような。しかも読み込める機器自体一般に普及していなかった頃)。
1990年代前半には、ソニーが8インチのCD-ROM化された電子ブックリーダー「データディスクマン」などというものもでていました。その後NECやパナソニックなどが電子ブックリーダーを何種類か出したのですが、いずれも鳴かず飛ばずで消えていきました。確かドラマ「3年B組金八先生」で、朝の読書会のシーンで当時の電子ブックを取り出して読んでいる生徒を見た金八先生が感心しながら嫌みな台詞でつっくという場面がありましたね。
そんな「異端」扱いに終わっていたはずの電子ブックの流れが、なぜここに来てにわかに沸き立ってきたのか。そこを押さえないことには、今度の波に乗りきることは出来ません。その理由は早い話、儲かる仕組みが見えてきたからと言っていいでしょう。そしてその背景には通信機能の充実化と浸透がある。
日本では悲しいかなこの「通信」をエレクトロニクスと結びつける発想が、無いとまではいわないまでも、伝統的にかなり鈍いように思えます。電子ブックにせよウォークマンやテレビなどAV機器といった“箱”を作るのは今でも得意なのだけれど、それらを結びつけようという考え方が非常に乏しい。そんな日本の技術の“惜しさ”が、この一冊の中からもにじみ出てきています。
でも、電子書籍化は良質なコンテンツを大量に抱える日本の出版界にとっては大いなるチャンスになるはずです。何せ、世界一の同人誌即売会を開催し、世界一の書店街を構えているのがこの国なのですから。業界内は寒い寒いとはいいながらも、海外から見れば日本は紛れもない出版大国なのです。問題なのは古き刊行に縛られている出版界の構造そのものなのです。
今後、電子書籍が一般レベルで普及したとき、今ある出版社のなん10%が生き残っていられるでしょうか。紙の本と違い、少しやり方さえ学んでしまえば、再販制度がどうのといったくだらない流通慣行をスルーして、良質なコンテンツが次々と電子化を通じて世に流れていくことが可能でしょう。
電子化でなければ読めない“本”という存在も決して珍しくなくなるでしょう。ちょうど、テレビでは見られない動画がYouTubeやニコニコ動画で見られるようになっているのと同じ現象が、遠からず起きるはずです。そんな大変革の波を自分の味方にするためにも、まずはこの一冊を手がかりに状況を学んでおくべきでしょう。