特撮魂 東宝特撮奮戦記 | ただのオタクと思うなよ

特撮魂 東宝特撮奮戦記

特撮魂 ~東宝特撮奮戦記~/川北 紘一

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すばらしき怪獣映画の世界

 やっぱり「特撮映画」というのはもうなくなっちゃったのかも知れません。いや、東映が唯一がんばっているだけで、少なくとも、かつて王道を誇った「東宝特撮」というものは文字通り終わりを告げた、そういいきっていいのだと思います。なぜなら、それを撮る職、すなわち「特技監督」という職種が東宝から消え去ったからです。代わって登場したのがVFX監督ということになるのでしょう。山崎貴などがそうですね。「ALWAYS 続・三丁目の夕日」の冒頭で、ゴジラが町を破壊するシーンが出てきますが、あれも特撮ではなくすべてCGですからね。まさにあのシーンが特撮の終わりを、図らずも特撮全盛期という場面を使って表現しているわけです。

 それはそれで、仕方がないことなのでしょう。鉄道が発達すれば機関士は要らなくなって電車の運転士が必要になったのと同じで、正しい時間の流れの一つなのでしょう。ただ、CGでの計算された動画と違い、特撮におけるミニチュアや着ぐるみの動きは計算の及ばない人の技ならざる表現を時に起こすと言われ、その質感はこれからの映像作りでも欠かせぬ要素であろうと、古き昭和の特撮で育った私たちは思うのです。

 そんな、かつてあった特撮の時代の最後の生き証人かも知れないのが、元東宝の特技監督、川北紘一氏です。その最後の特撮マンが語る自伝「特撮魂 東宝特撮奮戦記」を今回は紹介しましょう。

 川北さんの特撮というと、「ゴジラVSビオランテ」以降のいわゆる平成ゴジラシリーズが代表的。「昭和特撮」といいながら平成シリーズが代表作というのは妙というか、皮肉ですが、特撮映画、いや怪獣映画の最後の火をともし続けてきた、いわば最後の「円谷を継ぐ者」。ご自身が円谷英二と仕事の接点があったのはわずか10年足らずですが、要所要所で「なぜ特撮か」という神髄を学んだ足跡がこの本の前半部で語られています。まずここは特撮ファンを語るものなら絶対読んでおかなければなりません。監督してだけでなく、編集作業の中からも学べる映像作りのノウハウの話などは、いまの職場に不満を抱えるサラリーマンの方にも、是非読んでおいてもらいたいくだりです。まさに塞翁が馬。

 あと、あまり特撮ファンが語りたがらない、SFファンも触れたがらない、かの超大作「さよならジュピター」の制作にまつわるナガーイ年月の苦労話も必読。いやあ、これを読んだあとで「さよならジュピター」を見直せば、絶対違った映像が眼前に現れるはずです、たぶん。

 そして、まだまだ特撮マンとしてやりたいことが山ほどありげな川北さんの意気込み。是非再び、VFX全盛のいまだからこそ残しておくべきリアルな特撮怪獣映画を、私たちの前に描いてほしいと願ってやみません。