昭和ニッポン怪人伝 | ただのオタクと思うなよ

昭和ニッポン怪人伝


唐沢 俊一,ソルボンヌK子 (絵)
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「熱狂と混沌」の10年を作ったライバル比較論

 先日NHKで「ザ・ライバル マガジンとサンデー」という番組をやっておりましたが(番組の原案となった本「マガジンとサンデー」はこのブログで紹介済み)、昭和ノスタルジーというと、どうも30年代が話の中心になりがちなんですよね。映画「三丁目の夕日」などもそうでしたが。団塊の世代が育ったこの時期は、オリンピックに新幹線とイケイケどんどんの右肩上がりしか知らなかった、今の日本とは同じ国とも思えない勢いがありましたから、まあそれにあこがれるというのはわからないではありません。
 しかし、40代半ば以降の我々にとっては、ちょっと遠い感覚なんですよね。やはり私にとっての昭和というと40年代。この時代こそ、「憧れのあの頃」と同時に、学生運動や公害問題、オイルショックといった「影」が忍び寄り、今の日本の「鬱」の種が宿った、「熱狂と混沌」が渦巻くコアな昭和だったのではないかと思うのです。
 そのコアの時代を様々な側面から作り上げていったキャラクター達の足跡をたどりながら時代の真相に迫るのが、本日取り上げる一冊「昭和ニッポン怪人伝」です。
 昭和40年代を「熱狂と混沌」の10年たらしめたのは、数々のライバル対決があった故。というわけで、「手塚治虫と水木しげる」、「長嶋茂雄と王貞治」、「三島由紀夫と川端康成」、「佐藤栄作と田中角栄」、「007と寅さん」、「ボンカレーとカップヌードル」、「クレージーキャッツとザ・タイガース」、「ジャイアント馬場とアントニオ猪木」、「ウルトラマンと仮面ライダー」、「三億円事件とよど号ハイジャック」、そして「オノ・ヨーコと美智子妃殿下」と、著者・唐沢俊一氏独特の視点から組み合わせた、あらゆる分野のライバル比較論を軸に話が展開していくのがこの本の内容です。
 それぞれの筋において、ある程度の知識を持っている方なら目新しさに欠けるものもあるかも知れませんが、昭和を知らずに育った若い人々には目からウロコの連続の内容であることは必至でしょう。これだけ後半の分野にわたって語れるのも、雑学王・唐沢氏ならでは。
 天才肌の手塚と努力の人・水木。天才・長島と特訓の鬼・王。奇しくも当時庶民が追い求めていたのは「天才」と「努力」の絶妙なバランスにあったことがこれらの対比から浮き彫りになってきます。エリート官僚出身の佐藤栄作と今太閤・田中角栄の関係にもそれに似た構図が見て取れます。そして時を経た今、評価が高いのは圧倒的に「努力派」の田中の方であるのもまた面白い。天才ヒーローが表立ってもてはやされた昭和40年代と見事に逆転してしまっているのですから。もっとも、今の時代もてはやされているのは「天才・イチロー」だったりもするわけで、現役時代は天才が理想、退くと努力が評価されるということなのでしょうか。
 さらに個人的に気になったのは、ウルトラマンを当時批判した文化人の浅はかさを指摘する箇所。大江健三郎ともあろう者が、ウルトラマンを日本列島改造論の手先になぞらえて批判するとは、滑稽そのもの。ろくに内容も見ずに盲目的に批判を浴びせる論法は今でもエセ文化人や青二才の学生らに顕在しますが、後にノーベル文学賞を受賞する人間でさえこうしたヘマをやらかすとは。もっとも、この頃は手塚治虫さえPTAの敵の戦闘だったわけですから、時代の混沌は才気をもゆがめることがあるということなのかも知れません。
 昭和ノスタルジーは私としても今後追求したいテーマなのですが、40年代以降についてまとめた出版物が少なかっただけに、よくぞ書いてくれました唐沢先生、といいたくなる、貴重な一冊でした。

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