がっかり力 | ただのオタクと思うなよ

がっかり力


 勝間和代さんの著書を中心に、リスクに関する話を何度か書きましたが、一言にリスクを取れといっても、何も猪突猛進で火中に飛び込んでいけば何でもいいというわけではありません。これまでリスクを取るのが苦手だったのが日本人なんですから、いきなり尻を叩かれるように「リスクリスク」といわれても、うまくいくはずがないのです。急いては事をし損じる。リスクを受けるのが目的ではなく、あくまでリターンを得るためのリスクな訳ですが、がつがつ焦ってリターンばかり期待してしまうと、焦っただけの大リスクを被ることになりかねません。
 特にこのように経済が不安定な時期こそ、じっくり腰を据えて周りを見渡す余裕を持つことが肝心。そしてこれだけ最悪な時代を一度経験した以上、「これくらいの悪い時期は何年かに一度あるもんだ」くらいに考えておくことが、先々のリスクヘッジに大いに役立つはずです。そんな考え方を「力」に変えてしまおうというのが、きょう紹介する一冊「がっかり力」です。
 「どうせまた~」という言い方はあまりよくないですが、常に最悪のことは起こると先回りして考えておけば、いざ最悪なことが起こったとき、無駄に焦ったりいきり立たないで済むでしょ、というのがこの本の著者、自称キモメン男のオタク系作家・本田透さんです。
 要するに、経済であれ政治であれ、あるいはスポーツや映画作品や様々なコンテンツであれ、がっかりさせられることが世の中ゴロゴロしているわけで、それらがあることがむしろ当たり前なんだと認識し、価値基準を低めに持っておくことがこの時代には必要ではないかというのが、この本全体の趣旨です。
 株価が下がって景気が悪くなって、みんなカリカリしちゃっているのは、それまでカリカリしながら成長の妄想を描いていたからなのであって、株価が上がっていく前から「どうせ下がるんだから」と先にがっかりしておけば、いざ落ち込んだときにカリカリすることもないでしょ、というわけです。
 なかなかユニークな考え方、かつ、ギャンブルを嫌うオタク的発想には個人的に共感するところでもあります。ただ、そうはいっても人間、かりかりを完全に消し去ることはなかなか難しいのも事実。それは筆者も指摘しており、イチローや野茂英雄の自分スタイルへのこだわりを例に、忘れてならないのは、人には絶対譲れない「世界で一つだけのカリカリ」を中核に持つべきといっています。この1本のカリカリのために「がっかり力」を使いこなそうというわけです。
 まあ、全体的にはねた本の色彩が強く、著者本人もそれをあえて狙って書いている節があるのですが、運ばかり頼りに生きようと考えたとき、一度このがっかり力を発揮して、深呼吸してみるといいかもしれません。
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