連載小説『 人形と悪魔 <約束の章> 第十三節 』 | ADNOVEL

連載小説『 人形と悪魔 <約束の章> 第十三節 』

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■作品タイトル
『 人形と悪魔 <約束の章> 第十三節 』

■作者
AZL

■スキルアート
小説

■作品

ひっくり返ってしまった船にしがみつくカロンですが、魚の大群がカロンに襲い掛かります。
横転した船の上に乗っかるカロンですが、次々と魚は船に噛り付いてみるみる船は跡型も無く
崩れさってしまいます。

カロンは力を振り絞って魔法で魚を追い払う事に成功はしましたが
体を所々魚にかじられてしまい、体はボロボロになってしまいます。

疲れて力を使い果たしたカロンは薄れていく意識の中、
大きな生物がひしめいている湖底へと沈んでいきます。

わらわらと魚がカロンを目指して泳いできますが、
一匹湖底に潜んでいた大蛇がカロンめがけて泳いできます。

魚はそれに驚いて慌てて身を翻しますが、カロンは動く事が出来ません。

カロンはその気配を感じとりましたが、
体の自由が効かなくなっていたのでもう運命に身を任せる事にしました。

おじいさんとの約束を果たせなかった事だけが彼にとって心残りとなりましたが、
もうそんな事は関係ありません。彼はここで蛇に食べられてしまうのですから。

嵐が過ぎ去り、太陽が雲間から顔を出すと湖は再び静けさを取り戻します。
湖面には一匹の大きな竜にも似た蛇が顔を突き出していました。

その蛇が心配そうに額に乗っかったカロンを見つめています。
陽の眩しさに目を覚ますカロン。

最初は、岸辺に打ち上げられたか、蛇の胃袋の中だと思ったのですが。
岸辺は遠すぎて辿りつく事は難しく、蛇のお腹の中にしては妙に明るかったので
カロンは自分が今どこにいるか解りませんでした。

不思議な事に、カロンは蛇に食べられるどころか、助けて貰っていたのです。

蛇の頭の上で横になっていたカロンは、
自分が今いる場所に気がつき、驚き、再び湖に落ちてしまいました。

続々と魚がやってきてカロンを襲いますが、
蛇はそんなカロンを守るように魚を追い払います。

呆気にとられるカロン。
蛇がなぜ自分の事を助けてくれるのかが解らないからです。

話を聞くと蛇の祖先は元々は悪魔だったという事で
蛇の間では悪魔は敬うべき存在だとされてきたからです。

今は神様の命令で大きな蛇達は罪人を喰らう事を任されていますが、
祖先である悪魔に対する敬意は代々引き継がれ、
その事は例え神様であっても変える事は出来無い事です。

その蛇は魚達の無礼を謝ると、
再び額にカロンを乗っけるとそのまま次の門の前まで運んでくれました。

その間にカロンは疲れて眠ってしまいます。
夢の中で、カロンは女の子と出会った気がしました。
その子はベッドの中、弱り切った体で何かを必死でカロンに伝えようとしていましたが、
カロンにはそれが何なのかは解りませんでした。

蛇に起されて目を覚ますと、門の前まで来ていました。
赤い輝きを放つ鳥の顔をした天使がこちらを見下ろしていました。

一目カロンの事を見ると驚きます。
まさかこんな所に悪魔がやってくるなんて考えられないからです。
それに侵入者を食べるように湖底に放たれている
大蛇がカロンの事を手助けした事に対しても驚きを隠せませんでした。

「やぁ、おおへびくん、今日は珍しいものを引き上げてきたんだね。
 それは、悪魔かい?」

嬉しそうに頷く大きな蛇に赤い輝きを放つ天使は何も言えなくなってしまいます。

その天使も他の天使同様ボロボロになった
カロンに引き返す様に言いましたが、それでもカロンは聞く耳を持ちません。

ここまで悪魔がやってくるなんて本当に奇跡だよ。
あの魚は負の感情の匂いに釣られてやってくる。

悪魔が無事で辿りつけるはずはないのだけれど、
辿りついてしまっては仕方ないと、次の門を開いてくれました。

大蛇は優しくカロンを天使が開けてくれた扉の所まで運んであげます。

それだけでカロンはなんだか元気が出てきた気がしました。
2人にお礼を言うと、門を潜ろうとします。

ふとカロンは赤く輝く天使に質問します。

「そういえば君達はここの門番なんだろ?
 なのになんで悪魔の僕を通してくれるんだ?」

少し考えた後、天使はこう答えます。

「私はね、門を任されているんだ。
 侵入者を排除しろとは命令されていないからね」

にこりと笑う天使。
カロンはもう一度礼をいいます。

そんなカロンを見て天使は不思議に思います。

「君は本当に悪魔かい?」

頷くカロン。

「もちろん、地上の支配者、悪魔の王様カロンだ!」

ボロボロで小さい体になったカロンの言葉に威厳はありませんでしたが、
力強い意思を感じた天使は、カロンの目的が達せられる事を心の中で願いました。

「しかし、あの方が悪魔に人間の記憶を渡す。
 そんな事をするとは到底思え無いのだがなぁ」

その天使の言葉を聞かずにカロンは次の門をくぐり抜けてしまいます。

「そして、もうひとつ言い忘れてたよ。
 ここまでは汚れた罪人が通り抜ける事を防ぐ為の場所だけれども、
 ここから先の世界は正真正銘、万が一にでも悪魔が侵入した場合を想定して
 創られた世界なんだ。

 まぁ、過去に侵入してきた奴はいないけどね。
 だから、気を付けてね、悪魔の王、カロンよ。」


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