クローズド・ノート/雫井 脩介
¥1,575
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<あらすじ>

 堀井香恵は、バイトにクラブにいそしむごく普通の女子大生。ある日、自宅のクローゼットで、アパートの前の住人の忘れ物と思われる1冊のノートがあった。そこには、小学4年生の担任をしている伊吹先生の、学校生活や好きな人に対する想いなどがつづられていた。

 ノートを読む香恵は、やがて伊吹先生の考え方に深く共感するようになる。

 

<感想>

 おぉおぉ!コレは噂のアレですか。とある女優の問題発言が物議を醸した例の映画の。

 読み終わった後に気づきました。私はこの本、怖いお話と勘違いしていて、少し早めの肝試しのつもりで読んだんです(DEA.TH NOTEと勘違いしたらしい)。

 全っ然怖くなかったですよ(知ってますか(;^_^A)。むしろ爽やかで、切なくて、甘くて酸っぱくて心がキュイーンでした。良かったです。良い本でした。一気読みしました。次の日辛かったです。


 私の14年間の学生生活を思い起こしますと、それぞれの学年での担任の先生のお名前とお顔はすぐに思い出すことが出来るんですが、強烈に頭に浮かぶ先生が1人います。高校2年の時の担任の先生。男の先生ですが、伊吹先生になんだか似てました。本当に生徒想いで、一生懸命で、不器用で。片想いもしてました。伊吹先生は小4の子たちにしなかったでしょうけど、その先生は私たちにご自分の恋話をしてくださいました。今でも鮮明に覚えています。

 忙しい間を縫って、手書きのクラス通信を作るところも伊吹先生と同じ。当時はうっとおしく感じたこともありましたが、大人になるにつれ、その先生への感謝の気持ちが増えていくんです。3月末の最後のクラス通信が社会人になってだいぶ経ったある日出てきて、当時は気づかなかった先生の生徒への想いにそのときやっと気づくことが出来て涙したことを思い出します。伊吹先生の教え子たちも、きっと大人になって「先生」って単語を聞くと、真っ先に伊吹先生を思い出すんだろうな。そういう先生に出会るのって、本当に幸せなことなんですよね。


 香恵ちゃんもまた、いい子でした。バイト先の文房具店に万年筆を買いに来た青年のことを好きになるのですが、この片想いがまた健気で可愛らしい。クローゼットの中の伊吹先生のノートに背中を押され、香恵ちゃんは頑張ります。親友がアメリカに行ってしまっても、その恋人に告白なんぞされちゃっても、香恵ちゃんはまっすぐ、自分の心と向き合うんです。きれいな子でした。見目麗しいとかそういう意味じゃなくて。


 最後の最後。衝撃の事実が。


 私もメガトン級の衝撃を受けました。


 運命、って言葉が脳裏をよぎりました。


 

 読み終わったあと、明け方近くだったせいもあり。ボーットしてしまいました。

 もう少し先まで、香恵ちゃんたちのことを書いて欲しかったなあと思ったのは私だけでしょうか。気になる気になる。

 

 良かったなあ。本当にいい本でした。読んでいないかた、おすすめですよ。全然怖くないですから(笑)。




RUN!RUN!RUN!/桂 望実
¥1,500
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<あらすじ>

 長距離選手として優れた才能を持って生まれた優。走るのに他人は必要ないと仲間をばっさり切り捨てる彼は大学の陸上部で反感を買うが、本人は我関せずと言った感じ。箱根駅伝に向けて淡々と練習をこなす優だが、そんな中、医大に通う兄が急死した。兄を溺愛していた母は情緒不安定になり、優にある重大な事を告げる。


<感想>

 いや~~~。本当にムカつく主人公でしたね。確かに努力もしているけど、自信家で、人を思いやる心ってのがなくて。部の仲間やコーチに失礼な言動をするたびに、飛んでいってゲンコツをくれてやりたい衝動に駆られました。本当嫌なやつでした。

 

 優は、走るのがもう、生活の一部になっていたんだと思います。寝る、食べる、走る、みたいな。少しでもタイムを縮めるために、食生活から健康管理に至るまで、彼は徹底しています。大好きなコーヒーも1日3杯まで。走るのが当たり前で、走っているからこその自分で、走らない自分は自分じゃない。そう思っていたんだと思います。

そんな中で、母親から告げられた衝撃的な事実。…そりゃあ、悩むでしょうよ。1年生でありながら花の2区に選ばれた箱根駅伝も辞退しちゃいました。結果、補欠に選ばれた同級生の岩本くんのサポートという屈辱的な立場に追いやられます。

 この岩本くんってーのが、本当にいい子で。優みたいなこんちくしょうを、他の部員の妬みや嫌がらせから必死に庇うんですよ。そんなことしたって優はちっとも感謝なんかしないのに。うん、いい子だったなあ。優は、お世辞にも才能があると言えない岩本くんのサポートをイヤイヤ始めるんですが……。母親が告げた事実に悩みながら、自分のトレーニングもこなし、岩本くんのサポートもする。そんな中で、優は少しずつ変わっていきます。本人は全然気づかないんですけどね。確かに変化していくんです。

 

 定番と言えば定番で、私でさえなんとなーくラストが想像出来るようなお話でした。

でも、読んだ後に気持ちがとても爽やかになりました。読み終わった後の私からはきっとレモンの香りが漂っていたでしょう。


 「県庁の星」を書いたかたなんですね。桂さんの本は初めて読みましたが、他の作品も読んでみたくなりました。






四日間の奇蹟 (宝島社文庫)/浅倉 卓弥
¥725
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<あらすじ>

 ある事故に遭遇して指を失ったピアニスト、如月敬輔は、その事故で両親を亡くした少女、千織の保護者の役割をつとめることになる。彼女は脳に障害を負っているが、一度聴いただけの曲をピアノで完璧に再現できるという特殊な音楽的才能の持ち主でもあった。二人は依頼に応じて各地を巡り、千織のピアノを人々に聴かせる日々を過ごしていたが、医師の薦めによって山奥にある診療所を訪れた敬輔は、千織とともにそこに滞在することを決意する。そこには11年ぶりに再会した高校時代の後輩、岩村真理子が勤めていた。ところがある日、ヘリコプターを雷が直撃するという事故がおこり、千織と真理子はそれに巻き込まれてしまう。(宝島社HPより)


<感想>

 あらすじが長くなったのでフォントを小さくしました。


 この本、予備知識なしで読みました。恥ずかしながら、映画にもなり、100万部以上を売り上げている大ベストセラーのこの本を、私は全く知らなかったんです。予備知識なしで本を読むことがアンハッピーエンドを嫌う自分にとってどれほど危険なことなのか分かっているのに、なぜか図書館でフラリと手にしてしまった1冊。分が悪い勝負だったぜ。でも賭けには勝ったぜ。そんな気分です。


 もうね、良かったんです。すっごく良かったです。切なかったです。切なくて、苦しくて、やるせなくて。身を切られるような思いでした。でも、読み終わった後はほんわかでしたよ。そりゃひでぇよ!って言う終わり方はしていない。安心しました。私、気が小さいですからね。悲しいまんま終わったらどうしようって、そんなこと思ってドキドキしながらページをめくっていたもんだから、いまいち物語に入っていけませんでした。もったいないことに。だから涙も出なかったんですが、電柱の陰からそぉーっと覗くみたいな読み方をしていなければ、きっと号泣でした。間違いなく。


 ネタバレしてもう少し感想書いたんですけど、止めました(消しました)。

 いい本だったよ~いい本だったよ~とメガホンを持って近所を走り回りたいです。さすがにそれは出来ないので、少しでも多くの本好きさんの目に触れることを願い、このブログに掲載するに留めておくことにします。


 この本の前に、相性の悪い本に出会ってしまったのですが、その不快感は全て吹き飛びました。やっぱり、読書はやめられないですね。

 読み終わったとき、現実を見据えるのが少し勇気いるけど(散らかった部屋とか空っぽの冷蔵庫とか、可愛い数字が並ぶ通帳とかね)。あ~あ。










走れ、セナ!/香坂 直
¥1,365
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<あらすじ>

 セナは走るのが大好きな小学5年生の女の子。母親と2人暮らし。

 2学期の最初の席替えで、セナは最悪の班になってしまった。チビデブコンビの男の子と、勉強ばかりしている、「インチョウ」というあだ名の怖い女子のいる7班。

 走ってスッキリしようと張り切って陸上クラブに出たら、なんと陸上クラブは解散することに。セナたち5年生には断りなく、先生と6年生だけで勝手に決められていた・・・。


<感想>

 うんうん!いいね、いいね。いいよいいよ。そうそう。

 ・・・と、グラビアアイドルを撮るカメラマンのようになってしまっておりますが。この本、良かったです。児童文学です。読みやすいのです。良い終わり方なのです。


 「好きだー」と叫びたくなるような人がたくさん出てきました。まず、セナが「最悪」とまで言った、7班男子のチビデブコンビの「チビ」の方、オカマッチ。少し女の子っぽい話し方をするのがあだ名の由来ですが、彼の心にはぶれない芯のようなものがしっかりとあります。一度つぶれた陸上クラブに入ってきてくれた、救世主でもあります。

 そして、セナたちの担任の新米教師、「ドキリンコ」。いつもおどおどしているのですが、セナたちのために陸上クラブの顧問を買って出てからグングン成長していくのが分かるんです。この変わりようは、見ていて清々しかったし応援したくなりました。ドキリンコ先生、絶対いい先生になってくれるよ。うんうん。

 そしてそして。誰よりも魅力を感じたのが、セナのお母さん。女手ひとつでセナを育てたお母さん。素敵です。セナは、お父さんのことを聞いてもはぐらかされることに日ごろから不満を感じていたのですが、ある日些細な言い争いから、最悪の言葉でその不満を母親にぶつけてしまいます。その「最悪な言葉」をセナから発射させたのが、お母さんの「普通って何なのよ!」という台詞なのですが、この「普通って何なのよ」は、全世界の子供たちに問いかけたい言葉だと思います。普通って何なのよ。「ふつうさあ、そうだよねえ」って、何が基準になっているのよ。…正解ってないと思います。自分なりの答えを見つけることさえ、難しいと思います。でも、考えて欲しいですね。セナは、考えたみたいですよ。小学5年生。びよーんって成長しましたね。セナちゃん。


 良かったです。面白かったと言うより、嬉しかったです。うん。嬉しくなる本。

 オススメです。


 「金持ちになったら本棚にそろえる本」リストがまたひとつ増えてしまいました。







 

 


キッチン (角川文庫)/吉本 ばなな
¥420
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<あらすじ>

 私がこの世でいちばん好きな場所は台所だと思う──祖母の死、突然の奇妙な同居、不自然であり、自然な日常を、まっすぐな感覚で受けとめ、人が死ぬことそして生きることを、世界が不思議な調和にみちていることを、淋しさと優しさの交錯の中で、あなたに語りかけ、国境も時もこえて読みつがれるロング・ベストセラー(新潮社HPより)


<感想>

 先日、実家の元・私の部屋を掃除していたらこの本が出てきました。本が、というより、ツラツラとお行儀の良い黒文字の羅列が大嫌いな少女だった私が読んだ、数少ない本の中の1冊です。

 布団圧縮袋なみに凝縮して言うと、親しい人の「死」によって生きるとは何か云々を考えるお話です。もう15年以上前に読んだ本なのですが、読み進めていくうちに、ストーリーと、その場面場面で感じた当時の感動と言いますか、感覚のようなものが蘇ってきました。昔の私はね、感想が陳腐なんですよ。確か中学生くらいだったから仕方のないことかも知れませんが。行間を読むってことが、今以上に出来なかったんでしょうね・・・。30を過ぎた私が感じている感想と、かつての自分が感じた感想が、私自身の中で勝手に比較されながら物語が進んでいく。今の自分と、幼い頃の自分が一緒に本を読んでいるような、なんとも不思議な読書をしました。


 あ~あ、どうしてもっとみかげちゃん(主人公)たちの真摯な生き様をきちんと感じなかったよ、当時の私よ。フツーにフツーに普っ通~に無難な人生を歩んできて、それはそれで幸せを感じているけど、どうしても悔いが残るある人生の分岐点(今覚え場)があるじゃない。生きることに全力投球してなかったから、あきらめる理由すら見つからないよ。とほほのほー。


 なんて、自分の人生を振り返っちゃうような、そんな力がある本です。

 若い人が読めば、未来を強くイメージする力になるのかな。

 


 ヘンテコな感想になっちゃったけど。私の嫌いな登場人物が死ぬ本だけど。

 いい本です。読んだことない人は読んで欲しいし、昔読んだことあるって人は、もう一度読んで欲しいです。







 

  

ハードボイルド・エッグ (双葉文庫)/荻原 浩
¥730
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<あらすじ>

 フィリップ・マーロウになろうとしている主人公とダイナマイト・ボディ(?)の秘書が巻き込まれた怪事件。本書を読まずしてハードボイルドは語れない、タフさと優しさを秘めた、読者の心に感動をもって刻まれるハードボイルド小説の傑作。(双葉社サイトより)


<感想>

 荻原さんの痛快なタッチが好きであること、犬好きであること。この2つが当てはまる人は間違いなく楽しめます。私は両方好きなので楽しめましたよ。荻原さんの作品でおそらく一番有名であろう「明日の記憶」も読みましたが、私はコッチの方が好きだな。


 主人公はフィリップ・マーロウ(って誰だか知りませんが、外国の有名な探偵小説の主人公らしいですね)に憧れる男。複雑怪奇な事件をハードボイルドで解決していく。理想はそんなんらしいですが、現実は迷い犬や猫の捜索で路地裏を駆け回る日々。この、犬猫探しっていうあんまりカッコ良くない境遇で、一所懸命フィリップ・マーロウぶるのが滑稽で笑えます。男っていくつになってもアホだなあって言ったら世の男性は怒るかなあ^^;


 物語は、ダイナマイト・ボディ(?)の秘書を雇ったあたりから、暗雲が立ち込めていきます。いつものように犬相手に仕事をしていただけなのに、いつの間にか殺人事件の関係者になっていて・・・。この、ダイナマイト・ボディの秘書。ダイナマイトだったのは恐らく戦前くらいですね。要はバアサンです。またもや理想とかけ離れた己の姿にため息をつく主人公ですが、イヤイヤ言いながらも2人は立派なコンビになってしまうのです。本人は認めたがらないでしょうけどね。漫才みたいな2人のやりとりにクスクス笑いつつ、事件の真相が解明される辺りでは、人が持つ負の部分を全開にしたある人物に恐れおののき、ラストで胸を巾着のようにぎゅ~~っとしぼられたような切なさに襲われる。なんとも言い表せない気持ちで本を閉じました。


 この本は続編「サニーサイドエッグ」に続きます。借りてあるんだよ。借りてあるんだけど、今日が返却日なんですう!

 予約と延長はしない主義。「サニーサイドエッグ」、また逢おうね~~。






熱球 (新潮文庫 し 43-11)/重松 清
¥540
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<あらすじ>

 甲子園に憧れていた。予選を勝ち進んだ。でも、決勝戦前夜の悲劇が僕と仲間たちの夢を断ち切った。二十年後、三十八歳になった僕は一人娘を連れて故郷に帰ってきた。仲間と再会した。忘れようとしていた悲劇と向き合った。懐かしいグラウンドでは、後輩たちが、あの頃の僕らと同じように白球を追っていた。僕も、もう一度、マウンドに立てるだろうか――。(新潮社HPより)


<感想>

 田舎の長男という立場と、東京での生活。重松さんの本でしばしばお目にかかる人物設定。この本の主人公、ヨウジさんもそんな人でした。

 ヨウジさんに断りなく二世帯住宅になっていた実家。ヨウジさんは退職を期に娘を連れて田舎に帰ります。アメリカで単身赴任している妻は来年の夏に日本に帰ってくる。そうしたらまた東京で3人の生活を・・・と思う一方、たった独りで広い二世帯住宅で生活することになる父親のことが気がかりで・・・。妻や親戚は早めの決断をと迫りますが、優柔不断のヨウジさんは迷いに迷います。迷う、と言うより「困る」と言ったほうが適切かな。

 

 とにかく、あっと言う間に読んでしまいました。ヨウジさんやかつてのチームメイトたちには忘れられない、忘れたい過去がありますが決して悲しいお話というわけではないのに、私の心は始終キュンキュンしっぱなしでした。田舎の小学校でいじめられるヨウジさんの娘さんが強がる様が健気でかわいかったし、母ひとり子ひとりの元マネージャーの生き様にも心を打つものがあったし・・・。みんなそれぞれ悩みを抱えている。それなのに人を励まし、笑わせ、背中を押し、問題だらけの自分の家へ戻ってきてため息をつく・・・・・。皆そんな人たちでした。すごく人間臭いですよね。器用な生き方とは言えないけど、いい仲間たちだな、ヨウジさんもそう言っていたし、私もそう思いました。


 涙が出るほどではありませんが、切なく、胸を打つ。そんな本でした。



 

  


ぼくらが大人になる日まで/岡田 依世子
¥1,365
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<あらすじ>

 「ぼくたちは、この国の大人を、信じていいですか?」

 中学校受験を直前に控えた6人の思い、葛藤、不安や希望。


<感想>

 なんだこのあらすじはぁ~~!って声が聞こえて来ました。おのれの中から。

 でも、この2行で充分だと思ってます。逆にヘタな文でヘタな説明書きたくない。


 この本に出てくる子たちは、学校の友達が放課後、校庭で遊んでいるのを横目に

速やかに下校し、進学塾へ通います。冷たいお弁当を20分で食べ、夜9時までみっちり勉強。ゲームもテレビも我慢。「受験勉強以外は全部が遊び」。

 

 そこまでする必要があるのか~?って、やっぱり思います。子供は遊ぶのが仕事なんじゃないのか?木登りや川遊びが楽しくて仕方のない年齢にそれを我慢して勉強することに意味があるのか?「そういうのは受かってから」って言ったって、中学行けば落ちこぼれないためにまた勉強。高校行ってもまた勉強。大学行けば今度は一流企業に入るために翻弄しなくてはならなくて。気づいた時にはすでに大人。楽しく遊んだ記憶のない、大人。


 いったいいつまで続くんだよ~!!って、たいして勉強しなかったかつての私でさえ、途方にくれましたからね。この子たちはどれほどの憤りを感じながら、机に向かっているんだろう。どんな意味を感じながら食塩水の濃度を必死になって計算しているんだろう。そう考えたら、胸がつまりました。


 と、中学受験“戦争”に否定的だった私。この本を読んで少し、考えが変わりました。

変わったというのは違うかな。考えが広がって、より多くの捕らえ方を、その範疇に置けるようになりました。それは、この本に出てくる塾の先生のある言葉がきっかけです。

 6年生の授業の最後の日。彼は塾生たちにこう言うんです。


 「試験に落ちても受かっても、これだけは絶対に忘れないでください。いいですか?君たちは今、受験勉強を立派にやりとげました」


 勉強漬けの辛い毎日。そんな生活を強いられる子供自身が、中学受験に意義を見出していなくてはなりません。親のエゴが、受験の理由であってはいけません。

 そして何より、この言葉。落ちた=苦労が水の泡、という式を子供の頭にインプットしないこと。


 うちの子が万が一、お受験したいと言い出したとき、この台詞をナイフで彫ってでも心に刻み付けておこうと、固く固く誓いました。


 ま、多分言い出すことはないけど。



 もちろん、偏差値の高い学校で、勉強しながらもきちんとそのときそのときを謳歌している人だって沢山居るんでしょうけどね。


 とてもとても、多くのことを考えさせられた一冊でした。






格闘する者に○ (新潮文庫)/三浦 しをん
¥500
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<あらすじ>

 藤崎可南子は漫画を読むことが生きがいの大学4年生。周囲の人の流れに乗っかるように就職活動を始めるが、希望する出版社への門は狭い上に、思いもよらないことばかり起きる。たちまちそがれるやる気をなんとか奮い立たせた矢先、家庭の方でやっかいな事が・・・。


<感想>

 私は本好きを名乗っているくせに、読むジャンルは驚くほど限られています。

「大好きだー」と海に向かって叫びたくなるほど好きな作家さんのものでさえ、読んだ記憶を抹消したくなるほど好まない本もあります。

 ですが、三浦さんの本は今のところ全部、どんぴしゃ、パズルのようにがっしりと、私の心に食い込んできています。

 普段読まないエッセイにさえ手を出しました。これがまた面白い!大爆笑。

 

 話がそれました。この、「格闘する者に○」は三浦さんのデビュー作です。

 可南子は漫画が大好きで、気の許せる弟がいる。三浦さんご自身に重なる点もあるからでしょうか。可南子ちゃん視点で語られる諸々が面白い!

 出版社の面接官のやる気のなさや腹立ちを通り越して感心してしまうほどの上から目線の描写なんか本当に上手で、実際にその場に居合わせているような錯覚を覚えてしまったほど。

 就職活動中の女の子の不安や、自由気ままな学生生活に対する未練などもかかれており、身に覚えのある私は「そうそう、そうなのよ。わかるわかる」と相槌を打ちながら読み進めていきました。


 「物語」として波乱や衝撃があったかというと皆無。それなりに起こることはありますが、やる気のない女子大生のテンションのままお話は始まり、そしてそのまま終わります。タイトルの「格闘」なんて言葉に何かを期待した方にはがっかりする内容かも知れません。


 ですが、随所随所に「あはは」と笑えるところがあり、いざって時には意外とモノを申す可南子ちゃんに拍手を送るシーンもあったりして、「あ~、すっきりした」という気分で本を閉じました。

 

 「格闘する者に○」。どういう意味だろうと思っていたんですが、エリートを思いっきり皮肉った、小気味良いタイトルだったんですね。フフフ。私だって読めるわい。

 詳しくは、本をどうぞ。







さよならバースディ/荻原 浩
¥1,680
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<あらすじ>

 東京霊長類研究センターで、ボノボの言語習得を研究する真の仲間であり恋人でもあるユキが飛び降り自殺をした。目撃したのは研究対象であるバースディだけ。ユキはなぜ死んだのか。本当に自殺なのか。納得できない真は真実を追うことを心に誓う。


<感想>ネタバレ注意

 おサルさんが好きです。若い頃、本気でおサルを飼いたくてペットショップで真剣に悩んだことがあります。30万でした。金魚を買って帰りました。

 

 とにかくサル好きなので、読む前からこの本に好意的でした。贔屓目があったんです。なので、バースディの行動がいちいち可愛くて仕方がないし、お話だと分かっているのに、バースディのおりこうさに「すっげー!」「てんさ~い!」と大絶賛。そんな調子なので1冊、あっと言う間に読んでしまいました。

 話の内容は、あまり明るいモノではありません。プロポーズした数時間後の恋人の死。ユキは「待ってくれ」とは言ったけど、肯定的な「待って」じゃなかったのか。「結婚しよう」の言葉のあとに流した涙はうれし涙じゃなかったのか。真は悩み、苦しみ、へこたれそうになります。それでも、真実が知りたい、その一点だけのために、周囲に「気が狂った学者」とささやかれようが、バースディと根気良く向き合います。人間と、完全な意思の疎通が出来るわけではないバースディと。

 

 察しの良い読者のかたは、なんとなく背後で動くあれこれにお気づきになったようですが、相変わらずトロ臭い私は真が一歩真実に近づくたびに固唾を呑みました。いい人だと思っていた人の悪行にため息をつき、ヤなヤロウだぜと思っていた人の優しい言葉に胸を打たれる。そんなこんなであっという間にラスト。


 ラスト、号泣でした。ユキちゃんの思い。ユキちゃんの願い。バースディのけなげさ。バースデイが指で指す単語が伝えるユキちゃんの心の苦しみ。死にたくなるほど悩んでいたんですね。「自殺の動機が薄い」なんて感想もちらほらあったけど、ユキちゃんにとっては十分すぎるほど辛かったんですね。


 バースディ、よく頑張りました。おりこうなおサルさん。どうか、幸せになってください。


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