大河ドラマ「江~姫たちの戦国~」
第40回「親の心」
*あらすじのセリフ以外は、私の憶測も十分加味されていますことをご了承下さい
―感想&あらすじ―
慶長16年夏、ふくと江の関係は相変わらずのようでした。
「そなた・・・竹千代が疱瘡にかかっていたことを、私に隠していたであろう」
部屋にふくを呼びつけた江は、そう言ってさっそくふくに食って掛かりました。
「御台様におうつしするようなことが、あってはならないゆえ・・・」
あくまでも笑顔で白々しく返答するふく。
「三歳の時にも大病にかかったと聞いた」
「あれは・・・国松様がお生まれになって間もなくの頃・・・。また、御台様がお和様を身篭っておいでの頃にて・・・」
「我が子が病とあらば、そばについていてやりたい。それが母というものじゃ」
江の主張を襖越しに聞き耳をたてていた大姥局も、子の病を心配する母の気持ちには納得顔です。
「しかもそなたは、竹千代を部屋に閉じ込め、学問漬けの日々というではないか」
「それは・・・!」
「竹千代はまだ8つになったばかりぞ!」
母の雷が降り注いだその時、竹千代が部屋に現れました。
何か言いたげな竹千代でしたが、
「何じゃ?こちらに参るがよい・・・」という、母の優しげな言葉にいったんは近づきはしたものの、ささっとふくの方に走りよってしまいます。
「若君、なりませぬ」とふくも竹千代に語りかけますが、その表情がなんとも嬉しそうです。
そして、我が子に自分の目の前を素通りされ、ふくへの愛情を見せ付けられた江が、なんとも可哀想な場面でした。
「竹千代のこと・・・何かを間違えたのであろうか」
最近は、そんな場面が多くなってきたのでしょう。
竹千代が大きくなるにつれてますます自分になつかなくなっている現状を、江は側にいたよしこと民部卿局嘆いて言いました。
その時、近くで筆を取っていた国松が母に近づきこう言いました。
「母上は、お優しすぎるのです。・・・それゆえ、何もかもが気になるのです」
何とも健気な息子でした。
優しく、聡明で、逞しく、母への愛情に溢れていました。
「国松・・・まこと、そなたは母の支えじゃ」
そう言って江が国松を優しく抱きしめるのを、遠くから盗み見ていたのが、竹千代でした。
竹千代も母への愛情に飢えていたのでしょうか。
でも、もはや素直に母の胸に飛び込む機会を失ってしまったと、その年齢を過ぎてしまったのだと、竹千代は無意識のうちに感じているように思えてなりません。
その竹千代の弱々しい姿をまた盗み見ていたのが大姥局で・・・。
「竹千代様・・・。母上のお側に、・・・さあ」と言って竹千代の背中を押しますが、竹千代は逃げ出してしまいました。
駿府城では齢71歳になった家康が、名古屋城の普請について家臣と打ち合わせの最中です。
「伊勢の津城、伊賀の上野城は・・・」
「修築は滞りなく進んでいる様子かと」
「いずれの城も急がせよ。秀忠にそう伝えおけ」
さっそくそれらの指示が届いた江戸城の秀忠は・・・
「なにが駿府で隠居じゃ。おやじがすべてを決め、従うだけではないか」
そう言ってぼやく秀忠。
その秀忠には家康の目下の目論見などお見通しでした。
「丹波の篠山や亀山、伊賀上野、伊勢津、尾張の名古屋、近江の彦根、長浜・・・大阪を囲い込むように城を築く。・・・豊臣とのいくさに備えてな」
「その豊臣について、若にお考えが?」と本多正信。
「無論ある」
「ならばそれを大殿お伝えしては?」
「あのおやじが耳をかすわけがない。話したくもない」
そうですよね。
秀忠は何度も真剣に家康に意見してきました。
徳川が天下を取らずとも、両家が並び立ち、泰平の世を築いていくことが叶うと信じている秀忠なのです。
しかし、その話をするたびに、家康はまさに聞く耳をもちませんでした。
それどころか、いくさの準備にますます余念がないのですから。
さすがの秀忠も半ば諦めムードでしょうか。
その頃大阪城では、秀頼が側室との間に男子をもうけ、淀は跡継ぎの誕生に安心していました。
秀頼が我が子と戯れる姿を眺めているのが唯一の楽しみなのだと初に語ります。
初は徳川とのその後を淀に問いかけましたが、淀は表情を曇らせて何もないと答えます。
秀頼と家康の会談から数ヵ月がたちましたが、家康から便りがなくてもあっても、豊臣を陥れるために家康が動いていることなど百も承知の淀でしたから、一瞬たりとも気をゆるせないでいました。
その時、遠くから千が秀頼と我が子の戯れる様子を物憂げに眺めているのに気がついた初。
「姉上・・・。千が哀れだとは思われませぬか?」
淀も初の視線の先にある千のまなざしに目をやります。
しかし、「千は、まだ妻とは言えぬ」と暗い表情で答える淀でした。
千はこの時14歳。
若いとはいえ、当時ならば身篭ってもおかしくはない歳でしたでしょうか?
でも、その若さを持ち出し、淀は千を秀頼と同じ床に入ることを認めていなかったのでしょう。
その千を気遣って、初は自分の部屋に招いて菓子を与えてやりました。
そして千に寂しくはないか?と尋ねました。
千は初には心が開けました。
「私も、秀頼様のお子が産みたいと存じまする・・・。乳母によりますれば、私もややの産める体になったと・・・」
「それはめでたい。祝いをせねばな」
「けれど・・・千は未熟者にて・・・。母上様は、秀頼様の妻には相応しゅうないと、お考えなのでは・・・」
寂しげな千が可哀想でならない初でした。
国松は闊達な男子で、目に瞠るものがありました。
剣の稽古を見つけた父の秀忠は、その相手を買って出ました。
父に向かって真剣勝負の国松。
最後には当然やられてしまうのですが、その様子を見ていた竹千代にも父の稽古がつけられることに。
竹千代は剣にはめっぽう自信がない様子で、剣を構える素振りもぎこちなく、弱々しく。
しかし、勇気を振り絞って「ええい!」とかかっていったものの、すぐに木刀もろとも投げつけられます。
倒れこんだ竹千代はとっさにふくのもとへ駆けつけ、泣き出しました。
「それくらいで泣くな」呆れて言う秀忠に、
「怪我をしておいでです!」と、竹千代を心配するふく。
「では、これにて」
竹千代を庇いながらそそくさとその場を後にするふくと竹千代。
「竹千代。・・・いつでも相手をするぞ」
背中越しの父の言葉に口びるを噛み締める竹千代でした。
そしてその頃から江戸の城内では、秀忠の跡継ぎには竹千代よりも国松が相応しいと噂されるようになりました。
聡明なのは竹千代より国松であると、女中までもが噂していました。
その事を知ったふくは、突然江に、竹千代の健勝を祈願するために伊勢参りさせて欲しいと願い出ました。
歴史にうとい私でも、はは~ん、駿府の家康に会いに行くんだな!?と察しがつきました。
江は疑いもせず、ふくの申し出を快く受け入れました。
ふくがいなくなると、竹千代との時間も生まれます。
竹千代が生まれてこのかた、ふくがそばにいなかったことなどなかったんですもんね。
しかし、ふくがそばにいなかったことが物心ついた時からなかった竹千代にはとんだ災難でした。
それは江との食事の時。
突然箸を置いた竹千代は立ち上がり、部屋の外に向かって叫びました。
「ふくはどこじゃ!?どこにおるのじゃ!?ふくはどこじゃ!!」
竹千代の頬に涙がつたわりました。
竹千代は母が恋しいのだとは思いますが、ふくが何から何まで竹千代につきっきりだったために、すっかりふくなしでは生きられないといった風な、どうしようもない感じに育ってしまったようでした。
また、このどうしようもない弱々しい長男を熱演している子役の演技の素晴らしさにも感心しました。
江も不憫ですが、竹千代も不憫でなりませんね。
さてさて、駿府城へやって来たふく。
家康に対面し直訴するのでした。
「とにかく・・・!国松さまへのご贔屓がすぎまする!!」
江と秀忠への不満を漏らしているようです。
「感じやすうておいでの竹千代様は、すっかりいじけてしまわれて・・・」
すっかり困り果てたというような、大仰な素振りで訴えるふく。
「それしきのこと・・・うちうちで何とかなりそうなものじゃが」
「ことは、それに留まりませぬ!家中でも、お世継ぎは国松様に決まったかのごとき噂が広がっておりまする!!」
「わざわざ駿府まで来たは、それをわしに伝えるためか?」
ここで、家康はふくの何倍も先にいっているんだな、と少し安心しました。
どうしても直々に伝えたかったと訴えるふくに、
「そなた、あまりにも竹千代を囲いすぎではないか?・・・竹千代のお袋さまから、嘆きの文も届いておるが?」
ある意味、家康に言い咎められた立場のふくでしたが、ふくはひるみませんでした。
「親に甘えていては、立派な男となれませぬ・・・!大御所様も、若き頃は人質となり、ご苦労されたとか・・・。私は竹千代様を、大御所様のごとく・・・!自らの力で生きてゆける、強気お方にお育てしたいのでございます!!」
このふくの言葉、描き方・・・見事ですね。
ふくの過ちを十分に表現出来たと思います。
ふくは言いましたね。
「親に甘えていては、立派な男となれませぬ」と。
しかし、何ですか、あの竹千代の軟弱ぶりは。
ひとたびふくがいなければ、もぬけの殻、人としての体をなしていないではないですか。
親に甘えてはいずとも、ふくには甘えているではないですか。
しかも、ちょっとの怪我や失敗を恐れる、強気お方どころかか弱き男にしてしまって、ふくはそんなことさえも目に入らないのでしょうか。
母の愛が盲目になることも世にはあるでしょうが、まさしくふくの愛こそがすでに盲目になってしまってます。
家康は、感じやすく、いじけている男にしたのがふくなのだと、この時気がついたのではないでしょうか。
それとも、まだふくが優秀な乳母と信じていたのでしょうか。
「世継ぎのことは考えておる」
そう言って、家康はふくを安心させました。
その歳の10月になって江戸城に戻った家康は、勢揃いの皆に一番に宣言しました。
「我が徳川家を継ぐは・・・そこなる竹千代とする」
目を丸くし怯える竹千代、突然の宣言に顔をしかめる秀忠、怪訝な江、しかし、ふくだけは小さく微笑んでいました。
「あんまりにございます。誰があとを継ぐかまで、何故父上様がお決めになるのでしょう」
秀忠と二人きりとなり、江は思わず不満を漏らしてしまいます。
何故父が決めてしまうのか、いいえ、何故国松でないのか、そこが気に入らぬ江だったのかもしれません。
なんとその晩さっそく家康に直に聞きに来ました。
「秀忠は怒っておろうなあ」と家康はさも面白そうに話しました。
「世継ぎを定めたは、次なる将軍をも定めたということですか?」
江の言葉に筆を止める家康。
「・・・私は、豊臣が天下を治めるべきとは考えておりません」
と打ち明ける江。
時の流れでしょうか。
江も徳川の嫁になったということですね。
淀が江にも心を許さぬのは当然ですね。
「ただ・・・今以上に、追い詰めるのだけはお止めいただきたいのです」
「豊臣については考えておる・・・」と家康。
「まことですか?」
「まことじゃ」
とは、どうまことなのでしょうかねえ・・・???
「それとのう・・・江。世継ぎのことじゃが・・・竹千代と定めたわけではない」
突然の家康の言葉に戸惑う江。
「秀忠の跡継ぎを巡り、家中の者が浮き足立っておるそうじゃが・・・それでは家が乱れるばかり。秀忠に伝えよ。江戸を任せておるのに、その様なことでどうする!・・・とな」
それを江から聞かされた秀忠。
「おやじめ・・・ぬけぬけと」
しかし、そこは家康の言うとおりだと思いますよね。
秀忠は江戸城の主ですし、ましてや竹千代、国松の父なのですから、そこはうまく取り計らってやらねば。
家中に睨みをきかせるのも城の主の役目。
また、兄弟が跡目を巡って争うことの空しさを、秀忠もわかっているはずなのですからね。
多感な時期、この間くらいそういった憂いなくすくすくと育ててやりたいものですよね。
江は、家康から跡継ぎが決定したわけではないことを聞いて、国松の線もあるのだと心に刻んでしまいます。
「私は・・・竹千代を可愛く思いまする。されど家をまとめるのは・・・聡明で闊達な国松が相応しい。そう思い間する」
そう言われて、秀忠も納得します。
しかし、江はふくに竹千代の子育ての全権を奪われてしまって、親子のやり取りも奪われてしまって、本当のところの竹千代のことは何一つ知らないと思うんですね。
確かに国松の反対をいく男の子ですが、どこにどんな才能が秘めているのか、私は決めるには早すぎると思うんです。
竹千代は可愛い、という江の言葉に嘘はないでしょうが、やはり国松の方がうんと可愛いと思っていた、そのことを臭わせる場面だったと思います。
ずっと長い間近くにはおけなかった子供です。
平等に愛することが難しくなっていたようですね。
その頃、竹千代の寝顔を眺めていたふくは突然の大姥局の訪問を受けます。
「そなた・・・伊勢参りと偽り、駿府に出向き、大御所様に直訴に及んだそうじゃな?」
「はて・・・」
とぼけるふくを容赦なく責める大姥局。
「そなたは乳母ぞ・・・!」
重いひと言でした。
さすがのふくも二の句がつげません。
しかし、大姥局はここで優しく微笑みます。
「そなたの思い・・・同じ乳母として分らぬわけではない」
「・・・・・。」
「されど・・・竹千代様は、そなたの子にあらず。・・・実の母御にかなうものではないぞ」
大姥局はここしばらく、竹千代の様子や、それに付き添うふくの様子に目を光らせてきました。
大姥局はふくの素養や熱心さを城内の誰より買っていたと思いますが、ふくの竹千代への献身ぶりに、「母」の思いを見てとったのでしょうね。
「そのような・・・!」
「・・・親と子。・・・それを結ぶが、乳母の役目。・・・されど、その役目・・・私も果たせずにおるがの・・・」
と遠い目をして見せた大姥局。
家康と秀忠のことをさしているのでしょうね。
しかし、ふくにはたしてその言葉が心に届いたでしょうか。
親と子を結ぶのが乳母の役目なのだとしたら、ふくはまるっきり乳母失格じゃないですか。
母と子を結ぶどころか、その絆を断ち切ってしまったのですから。
と、その時大姥局は、突然に胸を押さえ、唸ってうずくまってしまいました。
床に伏せった大姥局が目を覚ますと、そこには家康が付き添っていました。
慌てて体を起こす大姥局に、「そのままでよい」と気遣う家康。
疲れが出ただけだと説明する大姥局に、
「気をつけいよ・・・。互いに年も年じゃでな」
と笑みを返す家康でした。
そこへ慌ててやって来た江。
家康から、たいしたことはなさそうだと聞いて、江はひとまず安堵の表情を浮かべ、大姥局のそばに控えます。
家康が江も来たために立ち去りかけたその時、
「大殿様に申し上げたきことがございます」
と大姥局が呼び止めました。
改まった大姥局の様子に、「聞こう」と今一度座す家康。
「大姥・・・一生のお願いにございます。・・・若様と・・・一度ゆっくり、話し合われて下さいませ」
すると家康は、「あやつはわしに心を開かんでな」と漏らしました。
ここですかさず、「それはあんたもやろが」と返してしまった私でした。
だって秀忠の意見にろくに耳を貸さなかったのは、家康本人なのですから。
昔は色々といじけていた秀忠でしたが、二代将軍となってからは、秀忠なりに素直に家康に向き合ってきたではないですか。
「それは・・・若様おひとりのせいだと・・・?」
と大姥局が家康に聞いた時には、さすが大姥局、思いましたね。
「なんじゃと?」
「大殿様のお心が引いているゆえ、若様が御心を開かれぬのです・・・。親に打ち消されるとわかっていてなお・・・心を開いて話す子がおりましょうや」
大姥局にそう言われて、神妙になる家康。
小さくうなずいたようにも見えました。
そこへグッドタイミングの秀忠登場。
家康は、「大事にな」とひと言残して退出しました。
その後すぐまたも発作をおこしてうずくまった大姥局を、秀忠が抱きかかえます。
「もう・・・いけませぬ」
「気弱なことを言うでない・・・!」
「若様の乳母としてお仕え出来たこと・・・私の・・・一生の誉れにて・・・!」
「・・・大姥」
「その私の・・・最後のお願いにございます・・・。お心とお心を開きあい・・・大殿様とお話下さいませ・・・!私めの遺言と思し召し・・・どうか・・・いますぐ・・・!」
家康との話し合いを急く大姥局。
「しかし・・・」と秀忠は困り果てます。
すると、「ううっ!」と大姥局、胸を押さえて「いま・・すぐ・・・!!」と畳み掛けます。
「わかった!・・・わかった!」
秀忠は覚束ない足取りで退出していきました。
すると、心配して寄り添った江に
「上手くいきました」と大姥局がにっこりと笑みを浮かべます。
しかし、それを秀忠が見ていました。
ばつが悪そうに恐縮する大姥局でしたが、秀忠はもう一度大姥局の側に腰掛け、
「最後に言いたくてな・・・」と切り出しました。
「そなたは・・・産みの母よりもずっと・・・私の母であった・・・」
秀忠は大姥局が自分と父を語らせたいと一生懸命に演技をしてまで訴えるのに、感動したのでしょう。
そして、大姥局と歩んだ自分の年月を振り返り、感謝の気持ちがあふれ出たのです。
「礼を申すぞ」
声を詰らせながら秀忠がそう言うのに、大姥局は心が震える思いだったでしょう。
あまりの感激に声をあげ、「もったいのうございます・・・!」と号泣しました。
大姥局はふくに「実の母御にかなうものではないぞ」と言って、ふくが宿した母性を叱りましたが、大姥局もまた彼女にとって秀忠は我が子にも似た愛しさがありました。
そんな彼女には、秀忠の言葉はどれほど胸に染みたことでしょう。
大姥局の喜びが、自分のことのように思えて涙が出てきました。
さて、親と子の語らいはその晩に実現しました。
なんと家康秀忠親子、初めて酒を酌み交わします。
「まだもたせねばならぬゆえ・・・」と言って、まむし酒を飲み干す家康。
「世を治めるためですか・・・」
「徳川のためじゃ。今大事なるは、徳川の家を守り繋いでいくことに他ならぬ。そのためならなんでもする」
と意気込む家康。
「言いたいことがあるなら申してみよ」
家康に促され、秀忠は口を開きました。
「父上は、豊臣を追い落とすおつもりですか」
答えて家康、「徳川を守るためならな」
「己と・・・己の家だけを重んじればよい、と・・・」
「そなたにはまだわからぬやも知れんな」
「わかりません。・・・わかりたくもない」
「ならば、豊臣のこと・・・そなたならどうする?」
答えて秀忠、「我が徳川と・・・並び立つ術を考えます」
「無理じゃな」と家康。
「豊臣が一大名に甘んじると誓えば、生きながらえる道もあろうが・・・されど、淀殿がおる。・・・あのお方は、受け入れまいて・・・」
すると、秀忠は「豊臣への恨みですか?」とつぶやきます。
「なんじゃと?」
「本能寺では秀吉に先んじられ、国替えをさせられ、あげく江戸に追いやられ・・・積もり積もった恨みが、淀の方様、秀頼様に向けられている・・・?」
家康は一笑しました。
「とにかく・・・徳川と豊臣が並び立つなどありえん」
家康の繰り返される回答に、とうとう秀忠が怒りを露にしました。
「やってみなければわかりませぬ!!」
秀忠が自分を真正面から見据えるのに対して、家康も真正面に向き直り、語り出しました。
「のう、秀忠。・・・この世には、いかに知恵と力を尽くしたところで、どうしようもないことがあるものじゃ」
「・・・父上には時がない。・・・それゆえ急いでおられるだけでしょう?」
「・・・そうやもしれん。・・・しかし、そなたのごとく、奇麗ごとを並べるだけでは物事は前に進まん」
しばらくにらみ合った後、立ち上がったのは秀忠でした。
「父上と話して・・・ひとつわかったことがあります。・・・話しても分かり合うことはない、ということです」
そういい残して立ち去る秀忠でした。
大阪城では、秀頼が淀に、名実ともに夫婦となりたいと、つまり寝屋をともにしたいと願い出ていました。
秀頼の隣の千も、神妙に淀に願い出ます。
「私も、秀頼様のお子を産みとうござります」
しかし、「まだ早い」と切り捨てる淀。
秀頼も負けてはいません。
「母上。千は私の正室にて、徳川から預かった飾り物ではありませぬ」
しばらくして、「わかった・・・。好きにするがよい」と認めた淀。
淀は秀頼が聡明な息子であることを誰よりも理解していましたし、その息子が言うことに間違いはないとも信じていたのでしょう。
半年前の家康との会談でも、堂々と渡り歩いてきました。
「有難く承りましてございます」
秀頼、千ともども深々と頭を垂れて、母への感謝を表しました。
これでようやく真の夫婦となることを許された2人でしたが、その仲睦まじい様子を見つめる淀のまなざしには複雑な色が浮んでいました。
「千には子を作らせとうなかった・・」
初にぽつりと漏らした淀。
「豊臣と徳川が争うようなことになったとしたら・・・千は二つに引き裂かれてしまうゆえな」
「・・・!そのようなことになど・・・なさらないで下さりませ!」
しかし、初の声は淀の心には響いてきません。
「何があろうと・・・徳川が何をしてまいろうと・・・天下は豊臣のものじゃ・・・!」
「では・・・いくさになっても構わぬと!?」
「私の覚悟は変わらん」
淀はむしろいくさを望んでいたのでしょうね。
天下を再び取り戻すには、淀にはいくさしか残されていませんでした。
悲しいかな、秀忠が望むように徳川と豊臣が並び立つことなど、はなから淀には考えがありませんでした。
数日後、家康が駿府に帰ったと報せを受けた秀忠。
秀忠の心には、後味の悪さだけが残りました。
しかしその報せの最中に、ひとりの学者が紹介されました。
家康がその学識を高く買っているという、当代随一の学者林羅山でした。
「豊臣とのことで、若殿様がなかなかの意見をお持ちとか・・・?」
「父が・・・申したのか?」
「それについて話を求め、駿府へお届けするようにと仰せつかっておりまする」
「・・・おやじが」
静かに感じ入った秀忠。
家康は、その意見を酌む酌まないはさておき、秀忠の意見に耳を傾けようと、その努力は試そうとしているのですね。
少しずつ歩みよれればいいですね。
秀忠と家康に残された2人の時間は、そうは長くないのですから・・・
さて、江は大姥局を何度も見舞ったようですね。
江も江戸にやって来てはや13年、大姥局との出会いも強烈でした。
あの日、江は伏見から着てきた派手な着物を大姥局にきつく叱り飛ばされましたね。
「夢を見ておりました・・・。御台様になかなか男子が授からず、やきもきしていた頃の夢にございます・・・」
「そなたとは・・・ずいぶんやりおうた」
「されど・・・お二人も・・・立派な男子が授かりました・・・」
「そなたの念が・・・通じたのであろう」
「いいえ・・・。御台様の・・・素直で、真っ直ぐなご気性がなしたこと・・・」
大姥局は体を起こし、江に改まって願うのでした。
「この先は・・・徳川のお家を・・・どうかよろしくお願い致します」
まるで遺言ではないか、と小さく微笑む江でしたが、暇を頂戴したいと話す大姥局。
最後に、大姥局は江にはなむけの言葉を残しました。
「御台さま・・・。国松様は聡明で、誰にでも好かれるご気性をお持ちです。・・・されど、竹千代様の母御でもあること・・・忘れずにいて下さりませ」
そう言われて、「あの者は・・・私になつこうとはせぬ」と弱々しく返した江を、大姥局は笑いました。
「大殿様と同じようなことを仰せになる」
しかし大姥局は笑いを止め、キッと江を睨みつけて言いました。
「それでも母ですか・・・!母が子を、諦めてはなりませぬ・・・!」
大姥局は秀忠の母のごときに留まらず、最後には江の母のような言葉をかけるのでした。
それは、江にいつも真正面から向き合い、様々なことを教え、励ましてきた、母にも似た愛がそこにあったからに他なりません。
「何があろうと・・・誰が邪魔をしようと・・・!!何があっても、諦めずに、自分だけを見つめてくれている母・・・。それで・・・子は救われるのではありませんか?」
江は、大姥局の言葉を深く噛み締めました。
これから、まだまだ何度もの挫折を覚えていく江でしたが、この時の言葉を何度自分の中で繰り返したか、そして励みにしたのか、最後の最後まで、大姥局には頭が下がる江でしたね。
―次回予告―
第41回「姉妹激突!」
江戸城では、江(上野樹里)と福(富田靖子)の徳川家跡継ぎをめぐる争いが続いていた。
一方、秀忠(向井理)は、家康(北大路欣也)による打倒豊臣の動きを察し、
秀頼(太賀)に「共に泰平の世を築こう」と文を書く。
そんななか、ついに家康が動き出す。
家康は豊臣が方広寺に鋳造した鐘に、徳川に対する呪詛(じゅそ)の文字が刻まれていると抗議し…。
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