シリア・ダマスカスの保存蒸機 | アーディで行こう

アーディで行こう

「普通」を意味する便利な言葉、「アーディ」 地元の足として、とことこ走るバスなんかを「アーディ バス」、エジプトではエアコンなし列車を「アーディ」 そんな方法での旅を紹介しましょう。
え、そんなの自分には無理だって? 大丈夫。「アーディ、アーディ」

アーディで行こうシリアの鉄道は、トルコやイラクへとつながるヨーロッパと同じレールの幅をしたシリア国鉄の他に、1050mmというちょっと変わったレールの幅の鉄道があります。ダマスカスを中心にヨルダンへ、そしてかつてはレバノンのベイルートへと伸びていた路線で、ダマスカスのマルジェ広場ちかくにあるヒジャーズ駅が、その鉄道の始発駅でした。

今は改修工事中のため、路盤が掘り起こされ、肝心の列車が入れないヒジャーズ駅ですが、ちょいと離れたところから、なんと蒸気機関車によるピクニック列車が春から秋まで運転されています。
2010年のGWにこのピクニック列車に乗った時のことをご紹介しましょう。

列車はダマスカス西部のラブウェから
$アーディで行こう ヒジャーズ駅がそんな状態になった2004年以降、いったいどこから出ているのか不明だったピクニック列車ですが、アンマンに住む知人から、シェラトンホテルあたりから出ているらしいとの噂を聞きました。たしかにかつての線路はシェラトンのすぐ近くに敷いてあるので、まずは行ってみようと、ダマスカス入りの翌朝に偵察に。シェラトンホテルの西側はティシュリーン公園حديــــقــة تشريـنになっているので、そのあたりのどこかと目星をつけて、途中からタクシーで現場を流すと、アサドっちの丘の家の下あたりで、外国人の集団を発見。乗り付けてみるとやはり、蒸気機関車ツアーにやってきたヨーロッパ人でした。ここはラブウェالربوةという地区で、駅名もそうなっていますが、駅舎があるわけでなし、急ごしらえの乗り場のようです。道路には写真の看板しかありません。ちなみに後ろの建物は、看板を読む限りラブウェの保育園ですね。
場所を知りたい方は下記のウィキマピアの画像で。画面のどの辺かは探してみてください。よく見ると線路が横切っていますよ。
http://wikimapia.org/#lat=33.5170233&lon=36.2601614&z=18&l=7&m=b

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さて、9時半ころになって、ピカピカに磨き上げられた緑色の機関車が、マッチ箱のような客車を従えてやってきました。この日の乗客はこの外国人グループだけのようですが、この列車は貸切ではなく、一般の人も乗れる臨時列車の扱いなので、私たちも乗車して楽しむことにしました。
ところが、折り返して運転するため、機関車を前に出すための作業をしていると、機関車が止まってしまいました。どうやら機関車の一番前の車輪(先輪)が脱線してしまったようです。どうやって直すのかな?と思って見ていると、そこらへんに転がっている、平べったい石を並べて、バックしてレールの上に車輪を誘導していました。

列車は道路と並行して川沿いを走ります。この川はマルジェ広場の真ん中や、ダマスカス旧市街の北側を流れる、あのバラダ川。レバノンのベカー高原から国境を越えて流れてきます。列車はその川を、レバノン国境の方向へ、さかのぼっていくわけです。
ラブウェを発車するとすぐに沢が狭くなり、渓谷といってもいい地形となります。ダマスっ子にとってこのあたりは格好のピクニックサイトで、あちこちにレストランやマクハ(喫茶店)が点在しています。この蒸気機関車列車も、そういった地元のピクニック客をあてこんで走っているもので、外国人旅行者にはそれほど知られていません。だいたいが、いつ走っているかもよくわからないといったぐあいでしたから。ただ、今回運行主体に問い合せをしたところ、春から秋(10月下旬までだそうです)の金土曜と、客が多ければそれ以外の曜日も(今年は6、7月が)運転したとのことです。
マルジェ広場から近いヒジャーズ駅で案内しているそうですから、興味のある人はダマスカスに行ったら、ヒジャーズ駅で聞いてみてください。

アーディで行こうピクニックサイトといっても、沿線には普通に人が住んでいます。列車は彼らがいつも抜け道にしたり、時には「駐車場」にしてしまっている線路を走るのですから、ビービーとやたらうるさい汽笛を鳴らし、そこのけそこのけといった感じで走ります。頭にホブスを載せたおつかいの兄妹ともすれ違いました。ホブスはイーストを使わない中東のパン。インド料理のナンを思い浮かべてもらえばわかりやすいでしょう。アラビーにとってホブスは、朝食として食べるパンであり、ホンムスやフールといったペースト状の食べ物を食べるための「スプーン」であり、ほかほかのタンドリーチキンなど料理を包む保温材であり、油でギトギトになった手を拭くための手ふきである。といった具合にさまざまに使われます。
「日本に行って働きたい、連れていってくれ」という同僚には、「いいけど、日本にはホブスがないぞ」といえば、「ええっ、何をどうやって食べるんだ」と絶句して、みんな必ず思いとどまってくれる、それくらいアラビーの生活に欠かせないものですね。

アーディで行こうアーディで行こう列車は川沿いにマクハが固まったところで停車。ホームには、珍しい汽車というものを近くで見ようと、ピクニックに来ていた家族連れが興味津々で集まってきます。携帯の普及率はかなり高く、大人なら持っていて当たり前、カメラ付きのものも増えてきました。というわけで、すぐに記念撮影が始まります。

マッチ箱の客車はドアが外側に開きます。こういった外開きのドアを見ると、NHKが放送していた英国グラナダTVのシャーロック・ホームズシリーズ(露口さん吹き替えのアレ)を思い出してしまいます。

列車はその後、アイン・フィジェという駅に到着。この日の運転はここまで。2010年の夏には、ラブウェではなく、エル・ハーメという駅を9:30に発車、アイン・フィジェを過ぎてピクニックサイトとしてさらに人気があるザバダニまでの運転もあったということですから、これは見逃せません。ダマスカスに行ったら、蒸気機関車でピクニックですね。また来年も乗りたいものです。

発売されたばかりの鉄道雑誌に、この蒸気機関車列車についての詳しい記事が載っています
鉄道ピクトリアル 2011年 01月号 [雑誌]/著者不明

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