スーパーGTマレーシア戦 レースの詳細報告 | A speed blog    

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たいへんおまたせしました!
また、今回も長いです。
ゆっくり読んで下さい。



いよいよスーパーGT・マレーシア戦。

あたりまえですが、暑いです。
そして突然荒れ狂うスコール。
自然の猛威に耐えながらのレース。

日本ではありえない環境の変化。

それだけではありません。
練習走行開始から刻々と変化する路面。
そう、雨によって常に洗い清められた路面に新たに日本製タイヤのラバーが乗り、
グリップレベルがどんどん変化してゆくのです。

もちろんそれによってマシンのハンドリングバランスも変わって行きます。
バラエティーに富んだコーナーだけでなくそんな要因もあってセッティングに
とても苦労するコースなのです。

主にセッティングの確認や方向性を担当しているボクは、今回のレース前に
四日市のガレージを訪ね伊藤エンジニアとこれからのことを話し合いました。

一つには、ボク自身がこれまでのレースであまり機能していないということを
お互いに感じていたから。
つまり、地に足を据えたセットの方向性をまだ見つけ出せていない、ということ。
こういうときはじっくり話し合うのが一番。
目標は同じで、速い、強いクルマを作り上げることなのです。

そして、これまでのやり方からもっと踏み込んで、来年、再来年を見据えた
クルマ作りをすることで意見は一致。
このままではアストン君の潜在能力を引き出せないのではないか?

もっと何かを見つけ、開発するために。
そんな思いで、木曜日の夕方にクアラルンプールの空港に降り立ちました。

その日の夜は、監督、メカ一同、ヨッシーつまりチーム全員で食事。

金曜日はエアコンをより効率よく効かせるための工夫をしたり、
ジーッとアストン君を眺めてみたり。
そう、アストン君はエアコンを装備しています。
とはいえ、このマレーシアでは暑すぎて…不安がいっぱい。
そんなこんなで、あっという間に時間が経ちました。

土曜日朝、いよいよ走行開始。
タイヤはソフトとミディアムの2種類が用意されています。
まず、ヨッシーがソフトで走り始めいきなりアタックモードで試します。
その後、ボクがそのタイヤでセットの確認をします。
しかし、かなりタレ感があり、ソフトタイヤはレースで使えないと感じました。

次に、ミディアムタイヤに交換してヨッシーがアタック。
見事、午前中練習走行のトップタイムをたたき出しました。
ここまではなかなか順調な仕上がり。
でも、路面のグリップ変化はこれからが本番です。
一番ラバーが乗った予選後半で、他車がどれだけタイムアップしてくるのか?
まだまだ未知数、油断はできません。

午後、予選が始まった。
まず午前中に使ったミディアムタイヤでヨッシーが確認。
そのあと、ボクがさらに確認と予選基準タイムのクリアを行う。

さぁ、これからが本番だ。
GT300クラス占有の予選時間帯。
スーパーラップをかけてヨッシーがアタックを行う。
ニュータイヤを装着してピットアウト。
しかし、思うようにタイムが伸びない。
ライバルたちはどんどんタイムを伸ばしてゆく。
結果、予選は12番手。
スーパーラップは逃した。

ハンドリングバランスがどんどんオーバーステアーに変化していったようだ。
オーバーステアー傾向は朝の練習走行からあった。
これを可能な限り消してゆくのが今回エンジニアと打ち合わせていたこと。
しかし、現実は予想以上、うまくいかなかったのだ。
さらに、午後になって急にシフトチェンジにスムーズさがなくなっている。
細かなことでもタイムに少なからず影響するものだ。

予選12番手という結果は結果として受け止めよう。
ただし、ハンドリングの方向性をもっとはっきり決められなかったことに
悔しさいっぱいだった。
コース上にラバーがのりはじめるとアストン君の素性ともいえるオーバー
ステアー傾向が剥き出しになり始めたのだ。

予選終了後、このオーバーステアー対策の打ち合わせをした。
伊藤エンジニアにはいくつかの策があるようだ。
こんなとき、とても頼りになる。

それはそれとして、ミッションの不具合が気になる。
シフトリンケージなどいろいろとチェックをしている間に、どうも問題は
ミッションの中にあると見、ミッションを分解することになった。
つまり、ミッションを降ろさなくてはならない。

フラットボトムのアンダーカバーを外し(これがけっこうたいへんな作業)
ミッションケースが降ろされる。そして分解作業。
ボクらドライバーはこの延々と続く作業を常に一緒に見ているわけではない。
離れては見、見てはまた離れる。
ドライバーも明日の決勝に備えてヘルメットや身の回りの準備を進める。

気が付くとミッションはバラバラになっていた。
そして、エンジニアを含めたメカニック全員がなにやら真剣な表情。
「どうしたの?」と聞いても「いやいや、大丈夫だから」との返事。
ドライバーに心配をかけまいと、たいして大騒ぎもしない。
実は、あるパーツが壊れていてそのスペアーがなかったのだ。
こういうとき、ボクらドライバーも深く聞くことはしない。
メカさんたちの気持ちを汲んで、あとは頑張ってもらうだけ。
早めにヨッシーと二人でピットを後にした。

夜はホテルのスポーツバーで日本vsオランダ戦を見ながら二人で食事。
ドライバーを含めてチーム関係者でいっぱい。
日本は負けてしまったけれども、いい試合をしたなぁとお互い納得。

明けて決勝日。
マレーシアに来てから一番のお天気。
これは暑くなるぞ。

朝のウォームアップ走行。
懸念のオーバーステアーはかなり解消されていた。
タイム的には5番手のタイム。
悪くはない。
ただ、ボク個人的には不完全燃焼だった。
なぜかアストン君の長所を走りに生かせない。
自分のイメージするものとアストン君のキャラクターが噛みあわない。
だからラップタイムもイマイチなのだ。

しかしもう決勝。
とにかく、自分の走りのデータを見ながらいくつものイメージをめぐらせる。
アストン君、ボクがこれまで経験してきたクルマの中ではかなりの兵です。
それにすぐに馴染んだヨッシーはスゴイ!
いつも思うこと、コイツ(失礼!ヨッシーのこと)F1に行かせてやりたい。
少なくとも世界で通用するドライバー、もったいない。

決勝が始まった。
予想したようにヨッシーはどんどん順位を上げてゆく。
しかし、ジャンプスタートのペナルティー。
ピットスルーペナ、鈴鹿の痛い記憶が蘇ります。
でも、今回はきちんと消化しました。あたりまえですが。

しかし、そこからまた怒涛の追い上げ。
ドライバー交替前はボク自身準備のため正確な順位を把握していないが、
他車のピットインもあって一時はラップリーダーだったほどだ。

レースが始まってしばらくしてもヨッシーのラップタイムが安定していたので、
ボクはエンジニアにタイヤのノーチェンジ作戦をやってもいいよと進言していた。
これからのレースではなにか結果の残ることをやろう、
そうエンジニアと話し合い決めていたから。
レースの結果だけを追い求めるのではなく、強くなるためのデータを残す。

だからチャレンジしよう。

ヨッシーからバトンを受け、ボクはピットアウトした。
しかし、タイヤのグリップダウンは予想以上だった。
燃料補給を行ったためにリヤのモーメントが増していたのだ。
アストン君の燃料タンクは普通よりも高い位置に設置されている。
これはトランスアクスルというリヤにトランスミッションを持つクルマの
ウィークポイントだ。
燃料が増えたことでリヤが重くなりモーメントが増した。
これは、前回の富士でも経験した傾向だった。
それによってとにかくオーバーステアー。
スピンせずにコースにとどまるのに精一杯。

どんどん他車に抜かれる。
あせるが、無理をすればもっと痛い思いをする。
やはり無理だった、ピットインしてタイヤ交換。
新品ではなかったが、こちらの方が全然グリップは高かった。

しかし、ラップタイムは14秒台。ヨッシーの12秒台には届かない。
ボク自身バランスを崩していることは明白だ。
すでにタイヤノーチェンジにチャレンジしたことのデータは残った。
結果は(レースの)もう見えてしまったが、それはそれで有意義なチャレンジだった。
ここで、ボクは自分への結果を残さなくてはならない。
このままでは終われない。
その思いが強かった。

残り周回数は少なかったが、とにかく毎ラップ深く考えながらプッシュした。
山さん(コンピューター担当)に出してもらったデータを思い出しながら…。
様々な走りを試しながら、アストン君にいちばん適合する操作を求めた。
最終ラップ、これだ! という走りができた。
最終手前のストレート立ち上がりで頑張りすぎダート走行をしてしまった、
けれどチェッカーを受けると同時にモニターに出たタイムは13秒フラット。

レースの結果は残らなかった。
最終ラップに区間ベストベストでくるんだもん!
みんな明るい顔で迎えてくれた。
クーリングもバッチリで、降りてもヘルメットを脱ぐ気にもならないくらい
元気なボク。(脱ぐのが恥ずかしかった)
なんて素晴らしいチームだろう。

でも、何かをやって結果を残した。
強くなるための何かを、また一つ掴んだような気がする。
自分とアストン君がシンクロした最終ラップ、アストン君のハンドリングの
方向性がまたひとつ強く見えたように思う。

松田秀士