「ルポ 貧困大国アメリカ」における情報操作
「ルポ 貧困大国アメリカ」、堤未果著 、をしばらく前に読了したのだが。
黙っていようか、とも思ったのだが。
やっぱり、黙っていられなくて。
指摘することにします。
かなりひどい情報操作。
「新自由主義が貧困の拡大をもたらす、その典型例がアメリカで、その現実を直視して日本もその轍を踏まないようにしよう」というのが本書の主張。
プロローグで、「サブプライムローンが払えず家を追い出され莫大な借金だけが残った」と感情的に書かれていて。
この著者は、アメリカのモーゲージのノンリコース性を全く理解していない、困った人だな、と最初に感じて。
(ご存じだと思いますが、ノンリコース性の説明についてはこちら みてください)
ちょっと慎重になって、データ出典等を注意して読み進んでいくうちに。
あまりに露骨に、統計データを自分の都合よく解釈しようとしていることを、発見してしまった。
これは、確信犯でしょ…。
一番はじめが、一番露骨なので、見ていくと。
第1章 「貧困が生み出す肥満国民」だが。
「レーガン大統領による新自由主義で貧困層が増えた」と筆者は主張。
P.14「レーガン政権以降、国内の所得格差を拡大させている市場原理主義は、中間層を消滅させ、下層に転落した人々が社会の底辺から這い上がれないという仕組みを作り出し」た。
そしてデータで。
「2000-2005年で18歳以下の貧困児童率は17.6%と、11%増加した。5年間で新たに130万人の貧困児童が増えた計算」と書く。
これ、ほんとよくあるデータを使ったイメージ操作。
自分の主張を正しいものにするために、データの都合のいいところだけ上手く持ってくる、というよくある手口。
データ出所はこちら だが。
以下は、出所からのデータのチャート。
(赤字日本語は私のコメント、オリジナルはこちら )
まず、レーガン任期は1981-1989年。
81年の貧困児童率は、20.0%。
89年の貧困児童率は、19.6%。
2005年は17.6%。
レーガンのせい、新自由主義のせいで貧困層が増えたっていってるけど。
増えてないじゃん。
81年と2005年比べると、2.4%減。比率にすると、12%減だよ。
そして、93年の23.6%をピークに.
そこから漸減して、2000年には16.2%と一度トラフをつけ。
そこから5年間はは16-17%台、そして2005年は17.6%。
「2000-2005年で18歳以下の貧困児童率は17.6%と、11%増加した」って書くが。
一番自分に都合のいいところだけ、持ってきているのが明らかで。
あと、「11%増加」、っていうと。
まるで6.6%が17.6%になったみたいじゃん。
16.2%が17.6%へと11%増加、ってことでしょ。
同様の書き方をすると。
「レーガン政権発足時の20.0%から、2005年は17.6%と、なんと12%も貧困児童率が低下!!!」とも言える。
貧困児童率だけではなく。
アメリカ全体の貧困率は、こちらのグラフ をご覧いただければ。
貧困児童率同様、レーガン政権発足時から漸減傾向にあるのが、ご理解いただけるはず。
もうちょっと、上手くやってくれるといいのに…。
アメリカの民営化された医療システムが、極めて劣っていて。
キューバの乳児死亡率がアメリカより低い、なんて、マイケル・ムーア受け売りで書いているが。
キューバの乳児死亡率データは、カストロ独裁の下。
政府公表の数字が国連によってそのまま使われている上。
強制的に堕胎が行われていて。
一般的な国民は、十分な医療を受けておらず。
その点をマイケル・ムーアがテレビ番組「20/20」で、きちんと答えられなかったのは、極めて有名な話。
(ABCもネズミーランドが保有しているので、バイアスかかっているけど)
なんか、日本にいる人が、何も知らないナイーブな人だけだと思ってるんだね。
勘弁してもらいたいな。