サルでも分かる信用収縮 | 紺ガエルとの生活 ブログ版日々雑感 最後の空冷ポルシェとともに

サルでも分かる信用収縮

レバレッジ


あなたが1億円のアパートに、1億円投資するとする。
家賃収入は600万円。
そして、仮に1年後にそのアパートを1億円で売却できるとすると。

あなたの1年後のリターンは。
1億円が1億600万円になるわけだから、6%。
サルでも分かる。

じゃあ。
借り入れを行って、レバレッジをかけてみよう。

あなたは、1億円のアパートに、3000万円だけ投資する。
そして、1年間、7000万円を3%で借りることにした。

家賃収入は変わらず、600万円。
そして、1年後に1億円でアパートを売却。

1年後のリターンは。

物件売却と家賃収入の1億600万円の現金を得て。
7000万円とその利子210万円、7210万円を返済。
手取り、3390万円。
当初投資額が3000万円だから。
3390万円÷3000万円で、113%。
すなわち、13%のリターンを得る。

借り入れを行うと、リターンは倍以上に。
これが、レバレッジ効果。


借入金利とレバレッジ水準について、この例で利回り変化を見ていくと。

当然のことながら、レバレッジが高くて借入金利が低いほど、利回りは高くなる。

LTV=Loan to Value、借入比率のこと。

当初の例は、LTV70%。つまり頭金3割(=自己資本30%)、レバレッジ3.3倍。



で、今よく言われる信用の拡大・縮小、レバレッジ・デレバレッジとは。


たとえば上の例でいくと。

これまでは、自己資金を3割(=頭金)入れないと、1億円の物件が買えなかった。

そして、7割について借入金利3%とられた。


しかし。

自己資金、1割でもいいよ、といわれ、借入金利も2%でいいよ、といわれると。

リターンは、なんと42%に。

これが、信用拡大。


今起きているのは逆で。

これまでと違って、金融機関が貸出を引き締めて。

自己資金は4割出してください、金利は5%ください、というと。

リターンは、たった7.5%。

これが、信用収縮。


景気が悪くなると。

1年後に必ず1億円でこのアパートが売れるとは限らない。

一番上の図で、ピンクの部分のリスクをとっているのが金融機関で。

最悪、このアパートを7000万円以上で処分できれば元本は回収できる。


景気が悪くなるとリスクが増えるので、金融機関は頭金をより要求するようになり(=LTV低下)。

リスクプレミアムもあがるので、高い金利じゃないと貸さなくなる。

従って、信用収縮局面は、下の図で言うとピンクの矢印方向の力が働く。


これが意味するところは。


たとえばあるファンドの期待リターンが15%だったとすると。

以下のマトリクス、黄色のエリアであれば期待リターンに達するが。


信用収縮によって、金融機関から有利なレバレッジが取れなくなると。

このアパートではターゲットリターンに達しないため、1億円の値段では購入できず。

価格が下落しない限り、購入できないため。

信用収縮・デレバレッジは、資産価格の下落を招く。


次に、証券化と信用収縮の関係を見ていくことにする。

最初の例を思い出してほしい。

あなたが自己資金3割で、1億円のアパートを購入する。

そしてそのアパートを担保に、金融機関が1年の7000万円のローンを、3%で貸し出す。


貸出を行う金融機関から見ると。

証券化前は、単純なローンで、以下の図の左側。

7000万円が元本で、1年後に金利の210万円を受け取る。


そのローン、元本7000万円分を自分で持ち続けるのではなく。

証券化して、実質的に転売した場合の概念図が、右側。

そんな小額の証券化なんてないけど。


格付けAAAの証券化商品は、それ以外の格付けのものよりも、安全。

というのも、この場合だと1年後のアパートの価格が6割以上下落、すなわち処分価格が4000万円以下にならないと、元本を毀損しないから。

AA格だと、5割の下落まで耐えられ、A格だと4割、BBB格だと3割まで。


だから、AAA格の金利は、低リスク、低リターンで、この例でいくと0.8%。

格付けが下がる=リスク上がる、だから、格付けが下がるにつれ要求される金利は上昇。


ここも今回のサブプライム問題の肝なのだが。

ざっくりいうと。

ローンを無格付けで持っているよりも。高格付けをとった証券化商品に投資することで、貸出金融機関は一般的に必要自己資本額が減少するメリットあり。


だから、低い金利でも証券化商品に投資を行うモチベーションあり。



証券化
証券会社がこのアパート向けローンを3%で貸し出して、すぐに証券化すると。

そして証券化の条件が、上の図の右側だったとすると。


AAA格の証券化商品買った人は、1年後に元本4000万円と金利32万円を受け取る。

AA格買った人は、元本1000万円と金利12万円。

A格買った人は、元本1000万円と金利15万円。

BBB格買った人は、元本1000万円と金利30万円。

金利合計は、89万円。


証券会社が左側のローンから受け取る金利は210万円で。

証券化商品の金利合計は、89万円なので。


すぐに証券化すると、証券会社の手元には121万円が残る。

いわゆるIO部分ですが。

だから、証券会社は一生懸命証券化やるんだよね。


でも、最近はどうなっているかというと。

格付け基準が見直されたり。

証券化商品のスプレッドが拡大したり。


下の図見たら分かるけど。

かつては121万円儲かっていたビジネスが。

格付け基準が見直されたり、証券化商品のスプレッドが拡大したりすると。

どんどん、儲からなくなっていく。



そうなると。

最初にローン出すときに、かつては3%でよかったが。

もっと高い金利で、ローン出さないと、割に合わなくなり。

そうなると、借入金利の増大で。


借入金利の増大は、先ほど述べた、信用収縮・デレバレッジへの道。

だって、アパートを買う人のリターンが、下がってしまうから。

さっき書いた、マトリクスの中の黄色の部分、の議論を思い出してください。

そして、資産価格は調整を余儀なくされる。


レバレッジを使っている、不動産ファンド・ヘッジファンド・PEファンドは、すべて今この問題に直面している。

証券化によって資産回転ビジネスを行う、投資銀行もそう。

今世の中で起きていることは、こういうことなのです。


(ちなみにこのエントリは、新入社員を含む「おサルさん」向けに、信用収縮(デレバレッジ)と証券化市場の関連について説明するために書いたものです。)



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