その日の夕立も、いつもと同じように
怒涛の雨を運んでくる。
乾いたアスファルトがすぐに水滴で覆われる。
雨を待ち望んでた雑草たちに、自然のシャワーが注がれる。
その日の夕立は、僕にあの彼女を運んできた。
雨音と僕だけのエントランス。
そこに降り立つ、二人の女の子。
気づかないフリをしていても、
僕の心は否応なく高鳴る。
突然の夕立を見にきた二人。
同じ塾の子とあの彼女。
ねぇ?
聞き覚えのある、同じ塾の子の声。
ここには僕と彼女らしかいない。
どう考えても僕は話しかけられている。
ん?
すこぶるつまらない返答。
でもその時の僕には、精一杯の返答だった。
高鳴る、胸。
振り返ると、その子達との距離、50センチ。
目に飛び込む、あの彼女。
今度は、気のせいじゃなく、目が合った。
否応なく鼓動が早くなる。
「雨がすごいから見にきちゃった」
「俺もそうだよ」
「テストできた?」
「ぼちぼち」
「ぼちぼちか。私も、かみゆもボロボロだよ」
そういってその子と彼女は笑った。
彼女の名はかみゆ。
普段聞かない名前だからすぐ覚えることができた。
ウソ。
普段聞かない名前だけじゃない。
恐らくここ何時間の間で、一番知りたいことだったから。
テストの答えよりも、何よりも。
何か、話さなきゃ。
そう思った矢先、次のテストが始まる時間。
またね。
そう言って二人は試験会場に消えた。
雨音と僕だけのエントランス。
試験会場に、僕も戻った。
少し笑っただけ。
彼女と話という話はできてない。
右斜め二列前。
彼女はそこに座っている。
このテストが終わると、もう見れない。
この45分が終わってしまうと。
夕立が、会場の中まで聞こえてくるほどの
ドシャ降り。
やめ。
模試が終わった。
みんな帰る。
車で帰る人、傘をさして帰る人。
何をするでもなく、エントランスに立つ。
もう一度かみゆと話したい。
雨音と僕とざわついたエントランス。
待ち合わせをしてるわけでもない。
ひょっとしたらもう帰ったかもしれない。
人でごった返していたエントランスも、
どんどん人が減っていく。
夕立はまだ、雨を運んでいる。
ふと入り口を見てみると、
外を眺めている女の子がいる。
色白の肌に少し茶色い髪。
高鳴る、鼓動。
僕の待ち人が、そこにいた。