いつだって

母の機嫌がいいと

わたしも嬉しい。




だからずっと父のことを好きなそぶりも見せてこなかった。




わたしが父を好きなことは

母が悲しむことだ。



ずっとそう思い込んでいたから。





未だに母の何気ない一言で


わたしはわたしの好きをすんなり諦める。






ずっとリュックを探して、


あ、これだ。



これにしよう。



と決めたのに




母が、 


あんたがいつも使ってるリュックが

一番あんたに似合ってるよね〜〜





母が一言そう呟いただけで


わたしはリュックを買うのをやめたのだ。






帰宅して、

ネットの画面で

わたしが諦めたリュックを

ずっと見てた。




次の日も次の日も眺めて



やっぱりわたしこれ欲しかったよね。


と、思う。







1週間経ってお店に行き、

あのリュックを背負ってみた。


うんうん、やっぱり好きだ〜〜💕




やっと購入。

両脇にペットボトルや小物が入るのがいい💕
COMME CA ISM






帰宅して鏡の前で背負っていたら


母がのぞきにきた。




あ、こないだのやっぱり買ったんだ?


形がオシャレですんごいかわいいよね〜〜💕



と母が言った。





なんだ。


母もかわいいと思ってたんだあ。







母が何気なく言う言葉に


わたしが一喜一憂してる。





岸惠子さんが、
娘や孫がいるフランスから

日本でまた暮らそうと、

家族と別れる決心をしたのが、

67歳。


家の中で飛び交う

日本語以外の言葉に

日本語を話したいと思ったから、


とテレビから流れ聞こえてきた。




孤独を愛し、

86歳で横浜に住む。



1人を楽しむ岸さん。



もし自分が100まで生きていたら


80代でやりたいことやったらよかったのにーと言うだろう。



自分らしく
好きなことして生きたかった。

と。





1人舞台に今も立ち続けて
美しい岸さんに惚れ惚れした。






隣で静かに見ている母は今幸せだろうか?




わたしといるんだから
幸せに違いない。







母は時々、


津軽弁が話せる青森がホッとする、と言う。




仙台でも母は津軽弁しか話していないのに。









母に、
スーパースターが金髪にしたことを伝えたら




翌朝、

心屋さんだって
やりのこしてて、
今、やりたいことやってさあ、 


お母さんも今しかやれないことやっぱりやる!!!

決めた〜〜!!


と言って早速



お母さんはここに行く!!!



と旅行のチラシをみせてきた。





母の行きたい!
にわたしも
よし、行くべ!!
とのっかる。



わたしはどこへ行くのもどうでもよくて
母との珍道中が好きだ。

母と歩いて話すことが幸せと感じる。


毎日話しても
まだまだ話し足りない。







母のやりたいパワーは
引きこもりなわたしをカナダや
色んな場所へ連れ出す。





カナダで満足すると思ったけど

やっぱりお母さん

ここもずっと行きたかった。






67歳で家出をして、

茨の道を生きる覚悟をした母が

好きなことも諦めず生きている。





母をいつも喜ばせたくて


それが好きなことだと思って生きてきたわたしが


母からまた教えられる。



あんたも

好きなことして生きていい、と。


わたしの好き、は

家族といれる時間かもしれない。








父が、東京の施設から


故郷、青森の施設へひっこす。





父はやっぱり帰りたい、と言い


故郷に住むきょうだいたちを安心させたいから、


と説明した。





息子の住む東京へ行きたいと言った父は


きょうだいたちを見守りたいと
青森へ帰ることになった。








自分の好きなことばかりして生きてきた父は



半身麻痺で
誰かのお世話になり生きていても



自分が青森にいるだけで

きょうだいたちを安心させてあげられると思っている。






弟は父が倒れてから
初めてじっくりと父と向き合う。



いつも不機嫌そうに
不服を申し立てていた父。




父を車で色んな場所へ
連れて行きたい、と
車を買い、

都会のあちこちをドライブして


ラーメンを食べる父や
お寿司を食べる父の写真が送られてくる。



公園や、
父が住んでいた街で
車椅子の父がカメラに収まる。




父の顔は半分固まって、
半分笑顔だ。





わたしの知る父は
ほんの数パーセント。





こんな顔で笑うんだなあ。と
幸せになる。





父は人の心配ばかりしていたのだな、と
改めて思う。







母もいつかわたしに言うだろうか?



やっぱり故郷に帰りたい、と。





その時に


親離れしているわたしでいたいけど


きっと寂しくて泣いちゃう。


拗ねて、喧嘩するんだろうなあ。





わたし
ずっとそばにいたいなあ。