衆院選投開票から一夜明けた17日の自民党本部。圧倒的な戦果を挙げたにもかかわらず、政権移行の準備に入った党執行部や職員らに、浮かれた様子は見当たらなかった。
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「予想以上の議席を獲得できたから、それだけ責任は重い」
午前10時すぎに党本部に姿を現し、こう述べた安倍晋三総裁の表情は昨夜から硬いままだった。衆院で公明党と合わせ3分の2の議席を得ても参院では過半数に足りず、この「ねじれ」が新政権のアキレス腱(けん)となりかねないからだ。
◆一時は防衛相起用案
「とにかく参院選に勝たねばならない。力を貸してほしい」
安倍氏はこの日昼、党本部総裁室に石破茂幹事長を呼び続投を要請した。石破氏が現職にとどまることを望んでいるのは、以前から察していたのだ。
「お受けします」
神妙にうなずいた石破氏だったが、表情には明らかに安堵(あんど)の色がにじんだ。安倍氏との不和が報じられてきた石破氏としては、安倍氏が幹事長続投を認めるか半信半疑だったのだろう。
実は安倍氏も当初、石破氏を防衛相などで処遇することを検討した。党の“スター”たちを入閣させ、新しい内閣をきらびやかに演出する狙いからだった。安倍氏が目指す集団的自衛権の行使に関する憲法解釈見直しを実現するためには、党内で防衛問題の第一人者である石破氏ほどふさわしい人材はいない。
ところが、衆院選投開票日の16日が迫り、メディアが「自民大勝」を予想するにつれ、安倍氏は人事構想の練り直しを始める。
石破氏は安倍氏と並ぶ党の二枚看板だ。9月の総裁選の決選投票で安倍氏に敗れて幹事長に就任してからは、衆院選応援の合間を縫って早くも参院選への取り組みを始めるほど、現在は選挙対策に没頭している。
「安倍さんは結局、石破さんには参院選で共同責任を背負ってもらった方がいいと判断したのだろう」
安倍氏周辺はこう推測する。衆院選の大勝で、半年後の参院選では「民意の振り子が今度は他党に大きく振れるのではないか」(選対幹部)との不安も働く。参院選で指揮を執らせるほうが、石破氏の人気を生かせるとみたのではないか。
「選挙に勝利した執行部を交代させるには相応の理由が必要だ」。こんなベテラン幹部の一言も安倍氏の耳に届いていたという。
前回の首相当時、安倍氏は側近を重用し過ぎたとして「お友達内閣」と批判された。実際は「お友達」といえる閣僚は塩崎恭久官房長官(当時)ぐらいだったが、一度レッテルを貼られてしまうと引きはがせない。その点、総裁選で戦った石破氏を党ナンバー2の幹事長として据えておけば批判される恐れはない。
◆「負ければ終わり」
石破氏にとっても衆院選に続き参院選でも党を勝利に導けば「ポスト安倍」争いにおいて有利になることは間違いない。その意味で安倍氏と石破氏は“一蓮托生(いちれんたくしょう)”になったといえる。石破氏は周辺に参院選の重要性をこう説くのだった。
「参院選に負けたら、安倍もポスト安倍もない。自民党そのものが終わる」(佐々木美恵)