原田眞人と木村一八がタフ | 翔ぶガ如く

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川崎真弘が作曲したテーマ曲が頭の中でループする、原田眞人のタフシリーズについて描いてみたい。

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実は本シリーズは、今年になってから全て通して鑑賞した。
本作は、ひょんなことから殺し屋となる青年の話なのだが、
なんとも言い得ようのない不思議な魅力に詰まった作品なのだ。

主人公は木村一八演じる‘次郎’が主人公なのだが、全シリーズともに主人公がほぼほぼ不在となる。

■タフ PART I 誕生編(1990)
とにもかくにも木村一八が若く、危うく、脆く、かっこいい。

次郎の師匠となる大久保鷹演じる‘根路銘’のセリフ回しから推し量れる優しさ。

死に際の寺島進の表情。

五・七・五の豊川悦司。

そして何といっても安岡力也!
彼のベストワークではないか!
安岡力也演じる‘ガレッジ’。
引退してその牙をひた隠しにしていた彼の人生。
田中民夫と安岡力也のセリフのやり取りは素晴らし過ぎる。

左手でよこせ
と静かな迫力で寺島進を脅す。

本作の登場人物は皆それぞれが計り知れない十字架を背負い生きてきた。
その一端をみせ、酌み交わすセリフがたまらない。
そしてそんなセリフを吐く、役者の個性を精一杯引き出した。

■タフ PART Ⅱ 復讐篇(1991)
監督は門奈克雄。
とにかく、美しい構図に懲りすぎている。
脚本は原田眞人なので、三原順子演じる‘槙子’、ガレッジ、次郎の三人が連携して、車で尾行するシーンは、地味ながら展開の妙でそれなりに引き付けられる。
しかし、後のタフⅣでの地味かつサスペンスフルな追跡劇を原田眞人が演出しているため、どうしても原田演出の凄さが浮き彫りになってしまう。

ラストは師匠の仇である矢島健一演じる‘白幡’を殺すが、こののち白幡は、次郎の心の中でのメンターとなる。

■タフ PART Ⅲ ビジネス殺戮篇(1991)
再び原田眞人演出に戻った。
ここで意外な光を放つのが、斉木しげる。
喋りすぎるエージェントのセリフまわしが格別だ。

次郎のエージェントとなる根岸季衣演じる‘ユキ’。
ユキの妹に対する次郎の横殴りカットが美しい。次郎は何故かアラン・ドロン風の格好だ。

そしてここから次郎の守り神‘白幡’登場。

■タフ PARTⅣ 血の収穫篇(1991)
長い長い追跡劇。
喫茶店~地下鉄~船着場~船上~バイクと舞台を変えていくが、否応なしの緊張感がひた走る。
この一連のシークエンスにもの凄く細かいギミックがちりばめられている。

そして次郎は、父親との因縁にケリをつける。

■タフ PARTV カリフォルニア 殺しのアンソロジー(1992)
そもそも本作は、蛇足だったのではないか?初鑑賞時は思った。

次郎の人間形成をつくる決定的だった父親という存在。
そんな父親とケリをつけたことで次郎は目標と自分を見失っていた。

そう考えると、たくさんの人を殺した日本をでていき、知らぬ顔だらけのアメリカに行きクラックにはまり堕ちていく。
そう考えると本作への繋がりも、合点がいく。
白幡にも肩を叩かれながら、結局、次郎には‘殺し’と‘拳銃’でしか、自分を証明できないことを再認識する。


そもそも白幡が散々と次郎の事を‘ニルアドミラリ’と表現するが次郎はけして、ニルアドミラリではない。
こんなに脆く、危うく、感情的なニルアドミラリはいない。

タフPARTⅢでユキの男を殺す場面では、プロとは思えないくらい手際が悪い。
そのくせ雀荘での一瞬にして3人を撃ち殺す早業をみせる。

これは一体なんなのか?!

雀荘では‘次郎’ではなく変装にて‘ダダ’になっている。
そう、一度‘次郎’という存在を脱却するのだ。次郎にとって変装は危うく、脆い‘次郎’から脱皮する一種の儀式的なものではないだろうか。

なんとも不思議な主人公だ。
いままでの作品をみていくと次郎は、大事なところでいつも不在になる。

タフPARTⅠではガレッジに鮮烈なインパクトを奪われ、
タフPARTⅡでは白幡の「よろしゅうございますか?」の印象が強く、
タフPARTⅣでは追跡劇で老人に変装し、次郎そのものは出なかった。

ある意味主人公不在の作品なのだ。
だから次郎を軸にしながらも、不思議な感覚に満ち溢れてた作品になっているのだ。

■ペインテッド・デザート タフ 劇場版(1994)
いままで主人公であるはずの次郎が不在な点が多かったが、本作品では次郎は完全に脇に回っている。

本作は、いわばジェームズ・ギャモンとノブ・マッカーシーの2人が主役の恋愛話。
殺し屋次郎がそこに居合わせてしまう。

本作は‘白幡’もでてこないし、‘変装’もなし。素の次郎のままでいる。
しかも今までのように、危うく、脆くない。

そう、本当の‘殺し屋次郎’がここにいる。過去のタフシリーズは‘殺し屋次郎’の誕生譚なのだ。
本作は、プロの殺し屋次郎の一端を切り抜いた作品に過ぎない。

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以上、タフシリーズを総まとめ。

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