あれから数週間

闇鴉の情報を頼りに羅刹を捜すが、全く以て羅刹を見つけることが出来ない。

「どういうことだ……」

悠助は、困惑と苛立ちで些か乱暴に言葉を捨てた。

「何か企んでいるのでしょうか」

眉を曇らす桜。

「嵐の前の静けさってやつかねえ。嫌な予感がするよ」

そう言って勒七が空を仰ぎ見た時、一匹の烏が此方に飛んできた。
足には、闇鴉からであろう文が括り付けてある。


“江戸で羅刹が暴れている”


文の内容に誰もが顔を歪めた。
嫌な予感程当たるものである。

「見て!!」

椿の指差す方を見れば、煙が空を染めている。
その方角にあるのは、江戸だ。

悠助達は、慌てて江戸に向かう。
喉がいやに渇いていた。








「酷い……」

江戸は火の海だった。
普通ならば、火移りを防ぐ為に、火消しがいるはずなのだが、何処にもいない。
火に喰われる江戸の町。


「どうなっているんだ……」

想像以上に酷い状態に、困惑する悠助達。


「あっちら以外は皆羅刹に操られているのさ。火を消すどころか、火をつけているなんて、滑稽な話だねえ」

「闇鴉!!」

一人で戦っていたのだろう。
着物は汚れ、右手には刀を握っていた。

「あっちら以外は敵みたいなものだ。気を抜いたら死ぬよ」

何時もと違う低く、緊張を含んだ声に、悠助達は気を引き締めた。

「あれや、早速御出座しだよ」

勒七の言う通り、町人が此処に集まりつつあった。
悠助達は背中合わせで立ち、其々の武器を構える。

そんな中、背中越しで伝わってくる存在感に、悠助は安心と戸惑いを覚えた。
其れを掻き消すように相手に突っ込む。

勒七と闇鴉も峰打ちで町人を気絶させていき、刀を持たない綾菜と桜、子供である椿までもが、恐れずに戦っている。

其れを見た悠助は、ぐらりと揺れる感覚に襲われたが、安心以外の感情は、これっぽっちもなかった。