ポタポタと垂れる血は、嫌でも目に焼き付いた。


「馬鹿だねえ、わっちも」

自嘲の笑いを洩らした勒七の腕の中には、幼女がいた。
幼女は目を見開いて声を上げた。


「どうして……どうしてあたいを庇ったりなんか!!」

勒七の背中は、



    血塗れだった



悲痛な面持ちの幼女の頭を、優しく撫で、ふらつきながらも立ち上がり口を開く。

「親の務めって知ってるかい?子が大人になるまで守ってやることさ」

勒七は男と向き合って刀を抜く。

「気に食わないねえ、あんたみたいなのが親だと名乗るのは。全く以て気に入らない」

何時もの飄々とした雰囲気はなく、空気はぴんとしていた。
喉元に鋭い刀鋩(とうぼう)を突き付けられているようで、何とも苦しい。

殺伐とした雰囲気の中、勒七はぐっと刀を握る手に、力を入れた。

「親が縦い冗談事でも、子に死ねなんて言うものじゃない!!」

「黙れー!!」

男は狂ったように勒七に斬り掛る。
刀で受け止めるが、背中が痛むのだろう。

動きが悪く息が弾んでいる。
誰が見ても不利だと思うであろう、この状況。

その時

ふらついたことによって、勒七に隙ができた。
その好機を見逃すはずもなく、男は刀を振り翳した。


「勒七ーっ!!!!」


勒七の笠が、宙を舞った。



第四章 『夢椿』 完