6月2日 口頭弁論 北野弘久弁護士 | セブン-イレブン経営被害者の会

6月2日 口頭弁論 北野弘久弁護士

平成19年(受)第1401号 書類引渡等・請求書引渡等請求上告事件


上告人  松――――、田――――
被上告人 株式会社セブン-イレブン・ジャパン



                  上 告 人 準 備 書 面

                                     2008年6月2日
最高裁判所第二小法廷 御中



                      上告人ら訴訟代理人弁護士 北野 弘久


 私は微力ながら四十数年間、もっぱら法律学の研究生活を過してきた。セブン-イレブン事件についても研究者として関与させていただき、本件上告事件についても、2008年4月3日に鑑定所見書を書かせていただいた。ところが、その後、上告人をはじめ数多くの加盟店オーナーから、最高裁で公正な審理を確保するために、本件上告事件の弁護団長として協力して欲しいと要望され、急遽、訴訟代理人を受任した。
 時間の制約上本件の本質論を中心に述べることとしたい。


 第1に、上告人らは、各人、法的にも経済的にも社会的にも各独立した事業者であり、各独立した納税義務者であるという点である。

 本件で問題になっている各仕入先からの商品仕入れについて言えば、各仕入先と上告人本人との間の直接契約に基づいて上告人本人が上告人本人の責任でかつ上告人本人の資金で、本件商品を仕入れている。仕入れた商品は、上告人本人の責任で上告人本人の店舗で販売する。販売された資金は、上告人本人のものである。
 本部は、上告人本人の仕入れ代金支払いを上告人本人に代わって代行しているが、これは事実上の代行事務の分担にすぎない。仕入れ代金支払いの法的主体は、あくまで上告人本人である。
 本部は、簿記会計事務、納税申告書等の作成事務を事実上代行しているが、これらの法的主体は上告人本人である。上告人本人の名前で決算を行い、その決算に基づいて上告人本人の名前で納税申告書等を作成し上告人本人の名前で納税する。上告人本人と本部との間には、上の代行事務を含む本部によるフランチャイズ指導等の対価として、本件基本契約書41条の所定のチャージの支払いとその収受という法律関係しか生じない。本部は、所定のチャージを収受するという法的地位を有するにすぎない。この点は、本件法律関係の「核心」として確認されるべきである。
 それゆえ、各仕入先からの上告人宛の請求書、領収書等(以下「本件請求書等」)の書類は、上告人本人のものである。本来であれば、上告人本人が自己の責任において自己の事務所に備え付け、管理、保存しておかねばならない筋合いのものである。もし、本部がフランチャイズ業務の必要上、本件請求書等を必要とするというのであれば、本部は、本件請求書等の原資料は上告人本人に戻し、そのコピーを保存することとすべきである。
 このように、上告人本人は、本来であれば本件請求書等の引渡しを求めるべきであるが、本訴訟ではそれに代る報告を求めている。もし、原判決のように、その報告を行うことすら拒否し、上告人本人が自己の納税申告書等の作成の根拠となった本件請求書等を報告という形においてすら確認できないというのであれば、本部の事実上の代行事務はその代行の域をこえるものとみなければならない。本部の代行事務には税理士法違反の疑いも指摘されねばならない(これは、税理士であれば本件請求書等を返還する必要がないという意味ではない。税理士も受任事務を終えた際には本件請求書等を上告人本人に当然に戻すべきである。ここでは、原判決のような理解では、社会の常識における事実上の代行の域をこえることを指摘するのがねらいである)。


 第2に、上告人本人が本件請求書等を常時、自己の事務所に備え付け、管理、保存しなければならない税法上の義務を負うているという点である。


 青色申告納税者は、自己の事務所に所定の帳簿、書類を常時、備え付け等をしておくべきであり、税務調査の際にそれらを提示できなければ、青色申告承認取消し処分を受ける。青色申告承認取消しを受けた場合には、青色申告者に認められている税法上の様々な特典が剥奪されるという法的不利益を受ける。
 また、事業者が消費税法30条7項によって、所定の帳簿および請求書等を保存しない場合には、仕入れの際に負担した仕入れ税額の控除を適用しないこととされる。この仕入れ税額控除不適用は、二重課税、三重課税をしないという「非累積税」という消費税の法的本質の全否定を意味する。そして消費税を「累積税」に変質させる。それだけに、青色申告承認取消しよりも、事業者の憲法25条の自由権的生存権を脅かすおそれがある。
 この帳簿、書類の備え付け等の税法上の義務については、最高裁平成17年3月10日第一小法廷判決(甲7号証)などは、「税務調査の際に適時に当該帳簿、書類を提示できる状態に置くべきである」という趣旨の判示をしており、原判決はこの最高裁判例にも違反するものといわねばならない。


 第3に、企業会計上、商慣習上(商法1条2項、19条)また本件基本契約書41条のチャージ履行のうえにおいても、本件請求書等を上告人本人が自己の事務所に常時、備え付け、管理、保存しておくべき義務を負うている。


 たとえば、企業会計上、商慣習上、仕入値引は売上原価からの控除項目とされる。ここでの仕入値引とは、各仕入先と各加盟店との間の取引の諸事情に応じて個別に行われるものである。本件本部のように、本件請求書等を各加盟店に個別に確認させないで、一方的に「仕入値引」というネーミングの数字を本部作成の計算書に書いて送りつけてくるようなものは、営業外収入としての「雑収入」であって、ここでいう仕入値引ではない。そのような個別の具体的確認を得られないものまでを「仕入値引」ということで売上原価控除項目扱いにして売上総利益を計算し、その分を含めてチャージを課することは、違法である。
 上告人本人としては、本件請求書等を個別に具体的に確認しない限り、およそ自己の財務諸表を適正に作成できないのであり、また、本件基本契約書41条の正当なチャージ額を計算できないこととなるわけである。


 第4に、本件基本契約書19条のオープンアカウントの法的性格が正鵠に見極められねばならないという点である。


 先にも指摘したように、本部と本件上告人との間のフランチャイズ契約において、金銭債権債務の法律関係が生ずるのは、本部がその指導等の対価として各加盟店から収受する所定のチャージについてだけである。各加盟店の仕入れ代金についての本部による支払い代行事務を含めて、本部の行為は事実上のものであって法律関係を構成するものではない。
 このように、本部と上告人との間には、商法の「交互計算」の法理が妥当するような、継続的な債権債務関係は生じない。つまり、そのような法理が妥当するような法構造が存在しないわけである。しかるに、本件基本契約書21条は、オープンアカウントについて商法の「交互計算」の諸規定を準用すると定めている。そして、オープンアカウントの借方残高を本部の各加盟店への債権、つまり各加盟店の本部への負債になるとし、この借方残高に10%の利息を課することとしている。これは、実質的に商品取引の買掛金に利息を課することを意味する。買掛金に利息を課さないのが確立した商習慣であり、企業会計の慣行である。しかも、奇妙なことにオープンアカウントの貸方の残高(各加盟店の本部への債権、本部の各加盟店への負債)には利息を課する規定は存在しない。これはあまりにも均衡を失する。
 企業会計上、商慣習上各加盟店の経営上通常生ずる商品廃棄損等は、自動的に売上原価に組み込まれ、それだけ売上総利益が縮減する。セブン-イレブンではその株式上場前までは、商品廃棄損等を売上原価に組み込まないとする特段の規定が基本契約書に存在した。これでは、株式の上場審査に不利になるとして、同特段の規定が削除された。現在では削除されたままになっているが、本部は、商品廃棄損等分を売上原価に組み込まないで、この分にもチャージを課し、同時にこの分をオープンアカウントの借方に計上してこの分にまで利息を課することとしている。このようなチャージ計算であれば、通例、人々は店を維持することが困難であり、人々が、このことを承知しておれば、また、自己の本件請求書等を確認することすらできないことを承知しておれば、本件契約を締結しなかったはずである。これらは、明らかに詐術である。本件契約は、民法95条の要素の錯誤により、無効といわねばならない。
 端的に言えば、オープンアカウントは、本部と各加盟店との間の単なる金銭出納等の事実上の整理勘定科目にすぎない。本部は、このような事実上の整理勘定科目を「交互計算」の法理適用にすり替えているわけである。オープンアカウントに関する本件基本契約書の諸規定は、巧妙な、おそるべき法的擬装であって、もとより民法90条に違反し無効である。


 第5に、控訴人(上告人)らの請求を棄却した原判決は、本部側の犯罪行為の疑いをおおいかくすおそれがあるという点である。


 先にも指摘したように、真実「仕入値引」であるかどうかを確認できないものにまで、チャージが課されるという疑いがある。また、各仕入先から本部への請求額よりも、本部から各加盟店への請求額の方が大きい、つまり本部側がピンハネをしている疑いがある例もないではない。この点については、代理人らはいくつかの疑いの実例の事実を確認している(たとえば、添付資料1)。これらは、単に経理の不透明さの問題で済ませるものではなく、本部側の詐欺、横領などの犯罪につながる重大問題を含む。原判決は、本部側の犯罪行為の疑いをおおいかくすおそれがあるわけである。

 以上、要するに、上告人本人が独立した事業者、独立した納税義務者として本件請求書等を税法上も企業会計上も商慣習上も自己の事務所に常時、備え付け、管理、保存しておくべき義務を負うている。本部がフランチャイズ業務の遂行上必要であるというのであれば、本件請求書等のコピーを保存しておくこととすれば、足りる。これはものごとの、社会の常識でもある。税法上の要請について言えば、原判決は、帳簿、書類の備え付け等に関する最高裁判例にも違反することとなり、ことは最高裁判例違反であるだけに重大である。ここで、私たちは、本件訴訟では上告人本人のものである本件請求書等の取戻しに代わる報告が求められているという奇妙な事実に注意する必要がある。この奇妙さは、現代のミステリである。本来であれば、本件請求書等を上告人本人に戻すべきである。それだけに、それに代わる報告を拒否する理由はいかにしても全く存在せず、原判決は破棄されねばならない。そうでなければ、著しく正義に反する。

 以上で明白なように、本件は原判決について民訴法318条1項(上告受理理由)の「法令の解釈に関する重要な事項を含むもの」であり、また、最高裁判例に違反するものであって、貴裁判所でまさに公正な審理がつくされるべき事案である。ところが被上告人本部は、08年5月15日の答弁書で、伊藤事件に関する平成18年7月4日第三小法廷決定を持ち出して批判している。同決定は、何ら実質的審理を行わないで下されたものであり、また、本件は同決定から2年を経過しており、さらに日本国憲法のもとでは「判例拘束の法理」は成立しないところでもあり、貴裁判所が「国民司法」(憲法32条、76条、79条、81条等)の観点から、本件について国民が納得するだけの公正な審理をつくされ、司法の使命を果たされることを期待したい。

                                         以 上