オレね、ふだん使う店というのは、用途によって、だいたい決まってるんだけど、いつも新刊を買う時に使う本屋があって、そこで、見かけた時から気になってたのがこれ。
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この作品は、松本零士の画業60周年記念という事で、出版された単行本。

ただね、前にも書いたけど、松本零士って、電車や戦艦とかの画は、一回ごとに描いてるワケじゃなくて、コピーを使ってるらしいんだけど、そういう手抜きがあるにせよ、一枚画とかイラストとかは凄く綺麗だし、いいなあと思うけど、本業であるはずのマンガについては、人物の画とかも、結構雑な上、描き始めたマンガをきちんと完結させる事がなかなかできないマンガ屋なんだよね。

現在、売れてる作家じゃないし、古本屋にも出回りにくいマンガだとわかっていても、どうせ中途半端なカタチで終わるんだろうと思ったら、新刊で買って迄、読む気にはなれなかった。
そしたら、よく利用するブックオフで、定価1300円の本が、通常、古本屋だと半額が相場なのに帯までついて、わりと綺麗な状態で350円という格安で売ってたから、かなり驚きながらも買ってみた。(笑)

オレは、古本屋の販売価格や買い取り価格は、作家や作品の、その時代の、人気のバロメーターのひとつだと思っているんだけど、そういう視点で見ると、この値段というのは、時代の流れもあるとはいえ、松本零士の描く新作マンガにたいする評価は、かなり低いのだなと感じた…。

この幻想新幹線0は、銀河系の誕生以前から、星の海の生命の進化や絶滅を見続けているデスターナ・デスバリアーナクイーンという謎の女性の地球の人類にたいする恐れを含んだ語りから始まる。
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地球から人類がいなくなった時代、次元空間時空研究所の学生で防御専門要員だった主人公・山越登
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は、金もないのに空間新幹線に乗れるワケがないと思いながらも、「なぜ人類が、地球をはじめ太陽系や銀河系のすべての居住地を捨て、いなくなったのか、その原因と理由を知る為」に、メガロポリス東京ステーションのプラットホームに辿り着く。

そこに停車していた地球発の永遠の終列車、幻想新幹線0に乗る。

地球を出発し、
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さほど時間も経たずに銀河系を横断する頃、999の車掌をさらに小さくした、博多弁を使う車掌チコ
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から乗車券の提示を求められるが、登は持っているワケがなく、キップがない事を伝えると、この0の最終列車は、無料で乗れるという返事がかえってきた。
さらに、トランクの中に隠して連れ込んだ愛猫のキチ
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も乗車OKだという。

車掌と連れ立って歩く美女ふたりは、は0の警備隊長メルリーア
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と新たに機関長となった雪野霊
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で、山越登の旅は、銀河系宇宙とは別の無限大大宇宙空間である0の乗務員だけが知る、異次元無軌道無限空間軌道の終点「無限」迄続く…。

これが1巻だから、当然、2巻も出るものと思って、出版社に発売予定を聞いてみたら、現在、ネット配信による更新もされていないので、発売は未定ときた。

つまり、この単行本、読者から支持されず、途中で打ち切られたマンガを、昔の人気マンガ屋、松本零士のネームバリューと画業60周年にこじつけて、わざわざまとめて製作したワケ?

出版社の商魂には感心するが、続編がないなら、1巻なんて巻数をつけるべきじゃないし、中身も、ただまとめるんじゃなく、作者に加筆修正をさせたり、きちんと、直しを入れてから出した方がよかったのじゃないかと思う。

このマンガを読み終わって感じたのは、ひど過ぎる駄作のひとこと。

なんかね、新しくネットでマンガの配信を始めるのに、呼び物が必要だった配信元と、なんでもいいから、新幹線0系を使った話を描きたかった松本零士の利害が一致して描かれたのがミエミエなんだよね。

従来の松本作品って、中途半端に投げ出すにせよ、必ず大きなテーマがあるんだけど、この作品については、テーマを後からこじつけてる感じなんだよね。

こじつけのテーマに無理矢理エピソードを創っているもんだから、サブキャラも長ったらしい設定説明のわりに、いきなり消えて、ほかのサブキャラに入れ替わるわ、エピソードごとに出て来る脇役キャラの設定にも一貫性がないうえ、エピソードも支離滅裂だから、出て来る必要性を読者に感じさせる事ができない。

なにしろ、主人公の最終目的が最初の次元空間で達成されてしまってるからね。
その後は、敵の存在もろくに明かされないまま、たいした意味もなく、過去の金星に行くし、きわめつけは、本人からしたら、ファンサービスのつもりかもしれないけど、松本キャラの意味のない、独りよがりの共演。
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そうそう、最初の方で、別作品、「銀河鉄道999」の主人公、鉄郎の愛用銃として登場した、宇宙に3挺しか存在しないはずの戦士の銃「コスモドラグーン」の4挺目、
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シリアルナンバー0
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まで引っ張り出しておきながら、結局、使う機会もなかったなあ(笑)

松本零士は、キャラ設定や物語の初期設定はできても、肝心な、自分の作品を、ちゃんと描きあげる事ができないマンガ屋なんだよね。

昔、一度は、完結できた999にしても、途中からは、アニメが先行してたので、それに合わせるカタチで話を描けたのと、
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当時の掲載誌の発行ペース、それに、マンガブームの時代だったから、ルーズなマンガ屋にたいして、担当編集者が苦労しながらも、合わせてくれてたからだろうと思う。
現に、ほかの松本作品、マンガは未完でも、アニメの方は、マンガを遥かに凌ぐカタチで完結してるからね。
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「宇宙海賊キャプテンハーロック」
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「クイーンエメラルダス」
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「銀河鉄道物語」
松本零士作品の評価が高かったのは、作品そのものじゃなくて、それを基にして製作されたアニメの質が高かったからだろうね。

それが顕著に出てるのが、現在売られてるマンガ誌で、同じ大ベテランの、水木しげるや永井豪、さいとうたかお等の作品は昔ほどではなくとも見かけるのに、松本零士の作品は、しばらく、見ていないなあ。

原稿料だけ高くて、ルーズで無責任な、手抜きマンガ屋に描かせるページはないという事かな。