奥さん、裏ですぜ(小声)


伊藤痴遊という人は人気のある講釈師だったそうで、維新ものも得意のレパートリーにしていたようです。
文章も非常に読みやすいですね。軽快に読み進められます。

しかし裏面と言っても、今日ではもっと詳しく明らかにされているんだろうし、この本でなければ知ることは出来ない、という内容は、もうないでしょう。

取り上げられているのは、明治初年の暗殺事件(横井、大村、広沢の暗殺)から、有名なとこでは熊本の神風連の話くらいまでですね。

この本は大正七年に出たみたいなんですが、木戸さんの人物評のアレなことと言ったら(泣笑
誰だよ!意図的に悪口言い触らした奴いるだろ!!(疑

確かに西郷どんほどの男らしさはないけどさー。

政治家としてはもちろん、評価されてないわけじゃないんだけど、どうも「嫉妬深い」とか「未練がましい」とか「孤疑心が深い」とかねー…
そういうとこが全然ないとは思わないんだけどさ(笑

まあそれは置いとくとして。


この本はさすが講釈師らしく、わかりやすい会話文なんかが織り交ぜられていて面白いんですが、それがどこまで事実かはわかりません(笑)嘘を書くつもりはなかっただろうけど、伊藤痴遊は確実に現場にいない状況でのお話ですからね。
まあ、そういう会話があったであろう、というようなことなんでしょうね。
でも文章は本当に面白いですよ。格調高い名文、というのじゃないけど、わかりやすいし、勢いがあるし、引き込まれるものがある。
こういう、昔の文章家の文体というのは、昨今もうお目にかかれませんから、これを味わうのも楽しい一冊です。

中でも印象に残ったエピソードは、萩の乱で前原に反対していた前原の友人の渡邊源右衛門という人が

「前原とは意見を違えたが、政府のやり方には納得がいかない。俺はこんな世の中に生を貪ることを潔しとしない」

として、前原兄弟の刑死の後に腹を切った話です。
奥さんに覚悟を告げると、奥さんも同じく死を望んで
「あなたのお手にかかって死にとうございます」
と言い、更には偶然訪ねてきた奥さんのお姉さんまでが共に死ぬことを申し出、渡邊は長男と長女も含めた四人の命を絶つと家に火を放ち、炎の中で自刃したそうです。

新しい時代を造るのは、難しいことですね…。