なぜルーカスフィルムを買収したのか、“放送事業者”としてのディズニー | バイク HID 25w、バイク HID 取付

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アニメビジネスの今:
 エンタテインメント業界の巨人、ディズニー。ディズニーといえば夢や魔法といったファンタジーの元祖、もっと踏み込むとファンタジーを商業化した始祖とも言える。

【グラフ:ディズニー部門別売上伸張率、ほか】

 ウォルト・ディズニーの生誕110周年記念作品である大作『ジョン・カーター』はコケてしまったが、初のディズニー配給となったマーベル作品『アベンジャーズ』は北米興行収入歴代3位というメガヒットとなった。そして、11月にはルーカスフィルムを40億5000万ドルで買収と、何かと話題が多い。今回は、ディズニーのビジネスモデルを分析することで、なぜルーカスフィルムを買収したかといったことを分析してみたい。

●ディズニーで再結合したルーカスフィルムとピクサー

 ディズニーのルーカスフィルム買収にアッと驚いた人は多いだろう。2009年にマーベルコミックを40億ドルで買収して以来の大商いである。

 そもそも、2006年にディズニーが74億ドルで買収したピクサーは、ルーカスフィルムのCG部門だった。CG部門は1979年に誕生したのだが、1986年にスティーブ・ジョブスが1000万ドル(ジョージ・ルーカスに500万ドル、ピクサー取得に500万ドル)で取得した経緯があるので、今回の買収によって両者は再結合したわけである。

 ルーカスフィルムとピクサーの買収価格は、合わせて114億5000万ドル。ピクサー買収当時の為替レートが1ドル=117~118円であったことを考えると、日本円で1兆円以上である。もしもの話だが、ルーカスがピクサーを手放さずにいたなら、1971年設立のルーカスフィルムは40年ほどで1兆円近い価値を持つスタジオになっていた可能性もあったのだ。

 このほかにもディズニーはトランスフォーマーの権利(その大本はタカラトミーだが)を持つハズブロを買収するという噂もあり、ディズニーにファンタジー作品が集まっていく流れはますます強まっていきそうだ。

 次表のディズニーの買収の歴史を見ると、ディズニーが何を目指していたか、また今後何を目指しているのかが明確に分かる。それは主に3つで、1つ目は放送流通網、2つ目はコンテンツ、3つ目がゲームやインタラクティブなどのネットメディアである。

ディズニーが買収した主な企業

●悲願だった放送局買収

 1つ目の放送網から見ていこう。これは1995年にABC以下の放送網を買収したことに尽きる。買収価格は190億ドルと言われているが、当時は1ドル=約108円だったので2兆円以上の買い物であった。

 ディズニーが放送局を持ちたがっていたのは、中興の祖となったマイケル・アイズナーが1984年にパラマウントから移籍して以来のこと(同氏は2004年までCEOを務める)。米国三大ネットワークのNBC、CBS、ABCのすべてに在籍した経験のあるアイズナーにとって、テレビ局を持つことは自明の行動であったようだ。

 実は1985年にすでにアイズナーはNBC、CBSを買収しようとしていたが、うまくいかなかった。そこから雌伏10年でABCの買収に至ったのは、放送網のニーズが一層高まり、また買収しやすい環境も整ったからであった。

 前者の放送網のニーズが高まったことについては、ビデオ市場の成長や放送の多チャンネル化時代の訪れによって映画コンテンツの需要が高まったことが挙げられる。同時に収益手法の多様化によって映画の総収益に占める興行収入の割合が低下、ディズニーを始めとするハリウッドのメジャー各社は家庭に直接コンテンツを送る必要性に迫られたのである。

 ビデオについては各社が自身のブランドを設立すれば済む話だが、放送網はそういうわけにはいかない。その当時の状況だと、テレビ局を買収するか、規制緩和によって放送と通信の壁がなくなった通信会社と合併するくらいしか選択肢はなかった。ディズニーが前者の地上波ネットワークを買収することを選んだのは、放送生態系のトップを支配できれば、それ以外の地方放送局やCATVにコンテンツが自動的に流通するようになると判断したからである。

 後者の買収しやすい環境については、1990年代に入ってから実施されたメディアの規制緩和による部分が大きい。かつて地上波ネットワークは定められた時間以上番組を製作できず、その番組を地方放送局で流す際に制限がかけられるという厳しい規制があった。しかし、地上波ネットワークが地方放送局にテレビ番組を販売することが次第に認められるようになった。

 その後、規制はさらに緩和し、メディアの合併・買収の制限もほとんどなくなったことで、ハリウッドのスタジオを中心に大型の垂直統合が始まった。ディズニーもそれに乗り遅れることなく、ケーブルテレビに強い基盤を持ち、海外にも強かったABCをキャピタル・シティーズから買収したのである。

●ディズニーは放送局?

 事業部門別売上を見ると、ディズニーは放送事業会社と言える。1995年に取得したABCを始めとして、今ではESPN、ディズニーチャンネル、A&E Television Networksを所有する一大メディアグループとなっており、売り上げの45.8%を放送事業が占めている。2005年に就任したボブ・アイガーCEOもABC出身だ。

 もともとアニメーションスタジオとして誕生したディズニー。収益の中心はスタジオ(映画などのコンテンツ製作やビデオ販売)、コンシューマー・プロダクツ(キャラクターライセンスや商品販売)、ディズニーランドだったが、1994年からメディア・ネットワークの収益が加わる。それが急成長を遂げ、1997年には早くも事業部門別1位となり、今では収入の半分を占める大黒柱になったのである。

2011年ディズニー事業部門別売上(「WDC 10-K 2011 Annual Report」より)

 日本のテレビ局と異なり、次表のようにディズニーの放送事業が伸びているのは国際的な放送市場を持っているからだろう。ディズニーチャンネルは167カ国35言語に対応している。

 インターネットの時代と言われて久しいが、放送事業は先進国での需要は飽和ぎみになっているものの、アジアなどの新興国で放送広告市場、放送視聴市場はまだ成長分野で、今後も大きな発展が見込まれている。従って、ディズニーのネットワーク網もそれとともに拡大するのは間違いない。ディズニーランド以外の売り上げが横ばい傾向にある中で著しい成長を遂げている放送部門は、今後もディズニーの中核事業として位置付けられるだろう。

●コンテンツ分野の拡張

 2001年にディズニーはFoxファミリー・ワールドワイドも買収し、放送網をさらに強化した。そこで必要になったのが供給すべきコンテンツである。

 ご存じの通り、ディズニーはミッキーマウスを代表とする豊富なキャラクターや映像コンテンツを持つ。しかし、ウォルト・ディズニー亡き後、ディズニー本体が生み出したディズニーランドのアトラクションになるレベルのヒットコンテンツは、アラジンやライオンキングなど数えるほど。むしろ、外部プロダクションであったピクサーが創り出すコンテンツやキャラクターが、メインストリームとなっている状況にある。そして、ピクサーに次ぐコンテンツやキャラクターとして選ばれたのが、マーベル・コミックでありルーカスフィルムのスターウォーズというわけだ。

 映画の国である米国では、大作映画からさまざまな展開が始まる。メガヒットした映画の続編はもちろん、テレビシリーズ、アニメーション、キャラクターグッズ、アトラクションなどが生まれ、ディズニーのフランチャイズをフルに生かしたビジネスが可能になるのだ。

 映画を作り出すスタジオの中核になるのがザ・ウォルト・ディズニー・スタジオ。ピクサーやルーカスフィルムを買収することはこの部門のラインアップ強化につながるのだが、今後流通網の拡大とともにこの部門はより強化されて行くはずである。

 先に述べたようにハズブロ買収の噂もあるが、ディズニーが手に入れられないコンテンツは資金的には存在しないと言ってもいいだろう。しかも、ディズニーのイメージは抜群に良い。元祖ファンタジー&キャラクターであるディズニーが、より一層エンタテインメント界での地位を固めていく可能性は非常に高いだろう。

 次表はザ・ウォルト・ディズニー・スタジオの製作部門一覧だが、特に注目されるのはステージ製作だろう。ディズニーではテーマパークがライブそのものだが、そこにとどまらず世界中で本格的なステージ製作に取り組んでいるのだ。これは音楽やアニメの世界で、コンサートやミュージカルなどのライブエンタテインメントの割合が高くなっている流れにも通じている。

ディズニーの製作部門

 ステージ製作のスタートは、1994年のミュージカル『美女と野獣』。当時としては破格の予算を組んだこともあり周囲から危ぶまれたが、映画が大ヒットした実績もあり、初公演から大成功を収めた。

 同時にブロードウェイのニュー・アムステルダム劇場も取得。改装に2年以上かけ、ブロードウェイにおけるディズニー・ミュージカルのフラッグショップとして再スタートを切ったこの劇場で初演を迎えたのが『ライオンキング』だ。1997年に始まり、ブロードウェイ最高の予算をかけたと言われる『ライオンキング』は、世界12カ国で上演され、観客動員数5000万人以上という驚異的なヒットとなった。

 以降、『アイーダ』『メリー・ポピンズ』『ハイスクール・ミュージカル』『リトル・マーメイド』『アラジン』と続々と新作を発表。今後、ミュージカル分野においても一大勢力となるのは間違いないだろう。

●ゲームやネット分野への進出

 3つ目のゲームやネット分野への進出だが、こちらは先ほどのインタラクティブ部門の売り上げを見ても分かるように、さほど積極的とは言えない。事業自体は1997年からスタートしているのだが、売り上げは横ばい状況だ。これはゲームやネット事業については、「ディズニーの主食ではない」という判断から来ているのではないかと思われる。

 もちろん、キャラクターをさまざまなゲームに対してライセンスしたり、映像や音楽をiTunesなどの配信プラットフォームにライセンスしていたりするのは確かだが、自らイニシアティブを取ろうとはしていない。これを保守的とみるか賢明な判断と見るかについては、もう少し時間が必要だろう。

●ファンタジービジネスの最高峰として

 以上、ディズニーが買収によって求めてきた3つの事業について解説してきたが、日本ではディズニーというとディズニーランドを連想する人が多いのではないだろうか。

 ディズニーで働いていた私の友人が、ビジネス以外の機会に「ディズニーで働いている」と言うと、その相手の8割ほどが「ディズニーランドですか?」と聞いてくるそうだ。米国でディズニーといえば、スタジオを中心としたエンタテインメントの最高峰と思われているが、日本で圧倒的にディズニーランドのイメージが強いのである。しかし、実際にはここまで述べてきたようにスタジオエンタテインメントのクリエイティブを核とする、放送事業中心の垂直統合メディア企業なのである。

 ディズニーを企業として見ると、2011年の売り上げは1ドル=80円で計算すると3兆2640億円、純利益3846億円の大企業で、米国では66位(2012年版アメリカ企業番付「FORTUNE 500」参照)。49位のコムキャストがNBCユニバーサルを買収したので、エンタテインメント&メディア・コングロマリット部門では首位を譲ったものの、エンタテインメント企業としては世界最大である。

 ディズニーの売上規模を日本の企業の中で比較すると27位。KDDI(日本25位)やキヤノン(同26位)、ソフトバンク(同28位)などと同じレベルである。人間が生活していく上での必需品とは考えられていないファンタジーだが、人間の精神的営みとして案外欠かせないものなのかもしれない。

●日本でピクサーが苦戦する理由

 一見死角がないように思えるディズニーだが、意外と日本で苦戦している側面もある。それは劇場アニメーションだ。

 次表はピクサー作品の日米興業収入。いずれの作品も米国で大ヒットしているが、日本ではっきり成功したと言えるのは、『トイ・ストーリー』『ファインディング・ニモ』『モンスターズ・インク』だけ。特に今夏公開した『メリダとおそろしの森』は10億円を突破できない屈辱的な結果に終わった

 また次表はディズニー作品の日本での興行収入だが、本国でも調子はいいと言えないことも手伝ってか、数字が伸び悩んでいることは一目瞭然である。

 ディズニーランドは日本でも絶好調なのに、なぜ劇場アニメーションの数字は伸び悩んでいるのか。それは、やはり日本のファンタジーのメインストリームにアニメが存在していることと無縁ではないだろう。

 このように日本コンテンツが優勢となる現象は、音楽において顕著である。今から30年ほど前までは邦楽と洋楽の売り上げは拮抗(きっこう)していたのだが、1980年代に一気に邦楽が伸びていく。つまり、消費者は日本製の音楽で満足するようになったということだ。

 スタジオジブリ作品に代表される日本製劇場アニメに象徴されるように、音楽と同じ現象がアニメでも生まれ、しっかりと根付いてしまったため、1990年以降に大復活したハリウッドアニメーションにも席巻されなかったのではないだろうか。

 今年最後となる次回は、さまざまなことがあった2012年のアニメビジネスを総括してみたい。



[増田弘道,Business Media 誠]