財布が無いと大騒ぎを始めた叔母さんは顔は青ざめ目は血走り、
他の乗客全員を疑うように狂気に近い目で『誰か知らない?』と叫び続ける。
その内に何か思い当たる点があったのか?
『あの男だ!』
『私の目の前に座っていた男は何処行きました?』
車両内は騒然としてる、
車掌は来るは、鉄道公安官はやって来るは・・・。
叔母さんは大きな声で泣き始めるし、
私ら一人一人に公安官が聞きまわる、
私は思わず『俺じゃないすよ』・・・普段の悪行ゆえの即答。
しかし公安官は別に私を疑ってはいない、例の男を探しているのだ
『男は何処から乗って、何処で出て行ったか?』を。
列車はそんな騒ぎをよそに山形駅を発車した。
松尾芭蕉が立寄った立石寺・山寺の駅を過ぎた頃に隣りの車両から怒号と叫び声がしてきた、
立ち上がって様子を伺うと黒山の人だかり、・・・の中で例のお調子者の男が公安官に捕縛されている。
『こいつが盗んだ!』と泣き喚き続ける叔母さん、
犯人?と思しき男は反省の様子も見せない・・・。
列車は宮城県に入り最初の停車駅作並に止まる、
犯人と被害者の叔母さんは下車していく。
車掌からの話ではここ1週間連続で【急行あさひ号】車内での窃盗・置き引きが発生していて、
公安官が警戒の為に乗り合わせていたので緊急逮捕に繋がったらしい。