万馬券
我らシーホークスの航海に最低限必要な活動限界は、3時間。
無風~微風の凪が前提で、片道一時間半。
オールを駆使すれば、防波堤から見える、なぶらに、キャスト可能な距離まで移動出来るはずだ。
デルコ、MF27-105A。
これがオレ達の出した結論だった。
新品価格で15000円。
しかし、まだ問題はある。
ディープサイクルバッテリーは、普通のバッテリー急速充電器で充電が出来ないという事。
専用の充電器、約20000円。
スーパーで、アジが、300匹買える計算だ。
しかし、オレたちを含め、釣り人の多くは、決して、魚そのものの価値に対してペイしている訳では無い。
魚を釣る快楽。
それは、いつも突然。竿から伝わって来るバイブレーションに始まる。
そして、その0コンマ何秒のちに訪れる、魚と人間との駆け引き。
両者の間には、細い糸が一本あるのみ。
おそらく、太古の昔から変わらぬ釣りの風景。
未来永劫、釣り人は太公望だ。。。
永遠に続いて欲しいとさえ思うその瞬間は、陽の光を浴びて光り輝く魚体を、この手にキャッチして終わりを迎え、
そして釣り人は、その手に残る感覚を、再び得たいが為にまた竿をふる。
最も原始的な中毒。
その快楽を得る為に犠牲を払う覚悟は出来ていた。
しかし、事変は思わぬ方向へと進む事になる。
そう。あの時、オレたちがコインを賭けた男が、
大穴を開けた。
つづく
事変
試行錯誤を繰り返し、ようやく納得の行くデッキを作り上げるのに、二日間を要した。
問題となった箇所は、合板を三枚並べた時に安定感が足りないという事。
この対処法として、オレが提案したのは、塩ビパイプをチーズとエルボーで組んだ格子状の枠の上に、合板を乗せるという方法。
早速、材料を仕入れようと懲りずにやってきた最寄りのホームセンター。
いつきてもガラガラだ。
店内を物色していると、、
いつの間にか、
ガラガラどころか、オレたち二人以外誰も居ない事に気づく。
入り口を見ると、自動ドアこそ開いているものの、屋外売り場の廻りをぐるりと囲む門扉が閉じられている。
やられた…。
ホームセンター内で、一泊。
ペット売り場の金魚でバーベキューなんて、まっぴらゴメンだ。
弛んだ体に鞭を入れ、何とか無事に、塀を乗り越え脱出成功。
これくらい、これから繰り出す大航海で待ち受けるであろう困難に比べたら、何て事はない。
結局、問題の箇所は、
合板の下にヤスリで角を取ったコンパネを対角線に敷くという方法に落ち着いた。
しかし、トラブルとは続くものである。
シーホーク号の心臓部分、
当初、タカのアルミボートで使用しているフットコントローラーのモーター(通称フットコン)を使う予定だったのだが、
構造上、フットコンを使用するのが難しい為、
急遽、ハンドコントローラー式のモーター(通称ハンドコン)を購入し、合わせて、専用のモーターマウント(取り付け台)も購入する事になった。
ほぼ三日おきに上州屋に上納金《上、州屋に納、めるお金、で上納金。》を払っている身としては手痛い出費だが、これも全ては、「爆釣」の二文字の為と自分に言い聞かせる。
モーターの出力は40ポンド。
説明書には、12V、60A以上の船舶用バッテリーをご使用下さい。と書いてある。
12V60Aのバッテリーね~。カーバッテリーで余裕じゃーん。
タカ充電しといてね~
あいよ~
な~んて、話していると、
不意にあっ君が、こんな事を言い出しやがった。
「マリン用とかメーテナンスフリーっていう、バッテリー液出ないヤツじゃないとダメよ」
薄々感づいてはいたよ。
だって、説明書に、「船舶用」って書いてあるもんね。
そうだよね。
平成二十七年夏、
これが世に言う、バッテリー事変勃発の瞬間である。
つづく
2nd&1st と risk&return
店内をぐるりと。他にも必要と思われる物を仕入れていく。
合板の上に貼るカーペット、なるべく安価で、滑り止めになるフェルトを3m。
合板と、船体の間で、緩衝材の役割をする銀マットを2m60cmにそれぞれカットして貰い、ついでに木工用ボンドを購入し、ドックへ向う。
ちょうど仕事を終えたタカと合流し、段取りをしていると、
不意にヤスからメールが入る。
以下本文。
「マッチョ本当にごめん!館山行きたかったけど19日がタイトルマッチのセコンドだったのよ(ノ_・。)
タカノリにも連絡しときますm(__)m
ホント、ごめん!」
…。
……。
………。
取り敢えず、
返す言葉も見つからなかったので、
「出た」
とだけ返信をした。
無論、絵文字顔文字一切無しで。
…2ndね。
ヤス。
オレはお前が1stになるところが観たいんだよ。
こうして、料理番兼、操縦士をいっぺんに失ってしまったワケだが、
ほぼこの瞬間、オレの、いやオレたちの頭の中には第四の男の存在が浮かんでいた。
ハイリスクハイリターン。
彼の事を知る人間ならば、誰もがこの言葉に頷くだろう。
だけど、冒険の別れ道なんて、いつもギャンブルみたいなものだ。
そしてオレたちはいつも危ない橋を渡るんだよな?
オレ「あっくん連れてこう。」
タカ「んだな。」
今回も。
危ない橋にBETした。
つづく