「夢はW杯で優勝すること」。夢を20歳にして実現したのだが・・・。しかし、「これじゃ、夢が叶ったとは言えない」
 髙瀬がW杯の舞台でプレーしたのは、スウェーデンとの準決勝、後半41分、リードしてる場面からの4分間だけだった。

「どうして、ピッチに立てないのだろう。」

「帰国してからも『なでしこだ』って言われるのが嫌でした。光栄なことなのに、言われるたびに苦しくなっていくんです。」

 なぜ、あの歓喜を共有できなかったのか。
「もっと、具体的な形でチームに貢献したかった」
 だが、世界の頂点から見た風景を劣等感と重ねたからこそ、彼女は自らを一段上のステージにあげることができたのではないか。

 W杯翌年のなでしこリーグで、髙瀬は一気に飛躍した。所属するアイナックでレギュラーを獲得すると、次々とゴールを重ね、得点王とMVPの2冠に輝いたのだ。

 「試合中に集中できたんです。試合に出る時の準備もしっかりできていたと思います。もし、W杯の優勝メンバーだったことを肯定的に受け止めていたら、私は『世界一』という結果から、何も得られなかったはず」

 「結果だけであのときのなでしこを超えようと思ったら、W杯を連覇して、さらに五輪でも金メダルをとるしかありません。それが達成できたとき、父親にも『夢が叶ったよ』って報告できると思います。私個人だけじゃなくて、私たちの世代はそうした宿命を背負っているのかもしれません」