四葉の『cloverの耳はロバの耳』-201101270914001.jpg
2011.01.22

@Gallery LE DECO 1F

 

いきたくないけどいってみたい、あの世ワンダーランド

 

↑写真のチラシ?DM?の裏に書いてあるこの言葉、そしてタイトルから、死やその世界を描いた話かな?と推測したり、自信作だと言う話をチラッと聞いていたので、期待を膨らませながら会場へ急いだ。

 

 

初めて行く場所、なのに時間ギリギリという緊張感にドキドキ。

 

着いた!と思ったら、入口が判らずオロオロ。

 

私みたいな客の為に立っているのであろう男性に誘導してもらい、中に入ってポカーン。

 

受付女性の横に立つ、喪服姿の男女を見てハラハラ。

 

え?もう芝居始まってるの?

 

セキララ初体験の私は戸惑うばかり(汗)

 

そんな私に喪服女性が空席の案内をしてくれた。

 

お勧めと言われ、最前端席に着席。

 

 

会場は道路に面したガラス張りのギャラリー。

 

狭く限られたこの空間で、どんな風な芝居をするのだろう。

 

判っていたのは、映像も音楽もない、男女二人芝居ということ。

 

 

数分後、喪服の男女が靴を履き替え、芝居がスタートした。

 

男性が「千の風になって」を歌いながら床に仰向けに横たわった。

 

女性は男の傍で泣いたり、無邪気に男の手を突いたりする。

 

男性は死んだ側の、女性は残された側の世界の人を、複数演じていた。

 

 

男は妻と娘を残し、突然死んだ。


女は幼子、親戚と共に夫の葬式を出す。


男は、あの世で三途の川を渡る教習を受ける。


女は葬式の後、義理の母親から夫の兄弟との再婚を薦められる。


男は教習を終え、川を渡る時を待つ。


女は時を経て、義母の言葉を受け入れ、再婚を決意する。


その時、男は川を渡るよう名前を呼ばれる…

 

 

彼女(喪服の女性)の出演した作品は何度か観てるが、セキララの公演は初めてだった。

 

正直、今までで一番好きだし、一番面白かった。

 

そして彼女がこの作品を描いたということに、心底感動した。

 

 

立地と空間、最小限かつリアルな小物や状況を活かし、役者二人だけでシュールな世界を描いていた。

 

明治通りを三途の川に見立て、通り向こうのサイゼリヤを天国、通りの終着点・夢の島を地獄に設定して、あの世のカラクリを表現する。

 

「川を渡る」ための教習を受けるには、この世での行いによってランク分けをされ、この世と同じように上下関係、格差、ルールやマナーが存在する中、訓練やテストを強いられる。

 

その設定、描き方が面白く、絶妙だった。

 

死んでるのに煙草の煙を気遣ったり、食べることが喜びだったり。

 

ギャラリーの前を行き来する歩行者を、「川を渡る」時を待つ故人として勝手に共演?させたり(笑)

 

くすりと笑ってしまうような行程を経て辿り着く「川を渡る」瞬間、はっとする衝撃が私の中に走った。

 

この世の人間が死んだ人間のことを忘れたり、思い出さなくなったりして、悲しみや辛さを乗り越える時、あの世の人間は「川を渡る」チャンスを与えられるのだ。

 

そして、あの世の人間はこの世への未練を残して川を渡ろうとすると、天国にも地獄にも行けず、川のこちら側で新たな生活をすることになる…

 

 

…深いなぁ、と思った。

 

私の中には無かった死の世界や死んだ人のイメージ、概念を観せられ、ただただ感心した。

 

悲しみや辛さが日に日に和らぎ、薄らぎ、いつか傷が無に近くなる日が来るから、人間は生きるという前進を続けられるのだと思う。

 

そしてその姿を、死んだ人間は変わることなくあの世から見届けてくれているのだろう…と、私は思っていた。

 

しかしこの作品では、死んだ人間もこの世の人間を忘れること、そうなることが成仏だと示していた。

 

 

あぁ、そうか。

 

この世の人間だから、こっち側の都合であの世の人間を捉えていたけど、死んだ人間だって悲しみや心残りといったマイナスの感情を持ち合わせていたり、葛藤や苦悩があるのかもしれない。

 

死んだら辛い悲しいことなど無いんだろうなぁ、と勝手に思っていた私は、この世もあの世も変わらない感情や生活が存在しているという新鮮な概念に出くわし、脳ミソの埃を払われた気分だった。

 

 

「川を渡る」ということの意味深さに衝撃を受けた直後の、意外な展開と結末も“笑激”的で良かった。

 

男性はギャラリーを飛び出し、本当に明治通りを渡ろうと分岐帯まで行き、視界から消えたと思ったら、「渡れるかーー!!」と発して、ずぶ濡れになって戻ってきたのだ。

 

最高だったなぁ、あのシーン(笑)

 

一方、女性は中島みゆきの「時代」を歌い始め、ライブで父親の23回忌を報告するのだ。

 

男の娘がシンガーになって身の上話をしているという体が、「トイレの神様」みたいだなぁと思って、妙にウケた。

 

このオチ、シニカル過ぎるよ…(苦笑)

 

後で彼女にそのことを伝えたら、正にそれが狙いだったと言われ、再び感心した。

 

 

いや~かなり好きだなぁ、この作品。

 

今年観た芝居でナンバーワンだな!と、今年初観劇後に思うほど絶品でした☆

 

再演が楽しみです。