「我れは人の世に痛苦と失望とをなぐさめんためにうまれ来つる詩のかミの子なり をごれるものをおさへなやめるものをすくふべきは我がつとめなり このよほろびざる限りわが詩はひとのいのちとなりぬべきなり」



夭折の文豪、樋口一葉の言葉です。父を早くに亡くした彼女は、17という若さで一家を担う戸主となり、父の残した借金もある中、母と妹、女三人で貧窮と戦っていく事になる。その後、生活の苦しさや不得手な仕事から逃れるためと、給もよく才も感じていた小説に活路を見出し、近代文学史として語り継がれる女性の文豪とまでなる。

文豪と呼ばれるものの多くは、長い年月をもって活動し、研究の成果や多くの著作を得て名声を手に入れるように思うけれど、樋口一葉に限っては、作家と呼べる生活は14ヵ月程である。しかしこの短い時間に今も尚評価される小説を量産し、後にこの期間は「奇跡の14カ月」と称される事になる。夭折であるから作品的価値が上がったのだろう、と考える人がいるかもしれないが、そう言う事とは無関係にも、彼女は名立たる小説家である。当時、鴎外や露伴に絶賛を受けた。

代表作『にごりえ』。ラストのヒロインの死は当時は批判されたものの、謎めく近代的なミステリーの先駆けとして、現在で注目を集めた。『たけくらべ』。その文調の良さは、多く語り伝えられているとおり。

そんな彼女の原点、文義はこの言葉にあるのだと思う。「このよほろびざる限り わが詩はひとのいのちとなりぬべきなり」。なんとも迫力のある言葉ですね。私の文義は何だろうか。昔は「気持ち一つ、汚れ無し」なんてのを掲げて文に臨んでいたけれど、今思うと何とも恥ずかしいです。