【ひとめ出会ったその貼り紙から】









真由美は、その貼り紙を目にして、一週間は悩んだ。



それでもいったん心に決まれば、行動は早い。



さっそく、あぐらをかいた上に電話をのせて、受話器を両手に抱え込む。



鳴り響くルルル。



それが五秒後、プツンと切れる。



もしもし、――貼り紙を拝見しまして、それでぜひ教えて頂けたらと思いまして……と真由美はその旨を伝える。



すると、品の良い張りのある声が返ってくる。



「そうですか」



その声はちょっと、早口気味だ。



「はい、ぜひお願いします」



しばらく、沈黙がある。この間は、いったいなんなんだろうと思った直後、



「いちどこちらにお越しになりませんか? 」



とやっと返事が返ってきた。



電話を切った後、真由美は相手の口調がやけに気になりだした。



何となく壁に向かってピザを投げ捨てるような声だったな、と後になるとそう思えてくるのである。



でもそれは、相手の住まいが下町だからあのような感じなのだろうと、思慮深く考えると納得がいく。



よくよく思い出してみると、生粋の江戸弁、べらんめえ調子の話し方だったと目線をあげて知ったような気になるが、



すぐに記憶という便利なタイムマシンがエンストして、たどり着いた先は時代劇の録画番組を見ている自分、というイメージだった。



でも来週の土曜日になれば、どのみち相手に会えるのだから、考えても仕方のないことは考えないことにしよう。



わたしは、ただ、教えてもらいに行くだけなのだ。







〈続く〉

~ 蚊で思い出す へ~



★★★教えます2★★★