2008/05/28朝日新聞 論壇時評「子どもの貧困・親の格差 策講じず連鎖」松原隆一郎 | Soui

2008/05/28朝日新聞 論壇時評「子どもの貧困・親の格差 策講じず連鎖」松原隆一郎

知らないことをいくつか知れ、勉強になった記事でしたが、しかし「自立」概念について違和感を覚えました。


というのは松原さんが引用しているもやいについて、実際にもやいに訪れたときにわたしも知ったのですが、もやいの「自立」概念は、野宿者がアパートに入居し「経済的自立」することによって、めでたしめでたし、で終わるものではありませんでした。一般や多くのさまざまな「自立支援」団体と称するNPOなどと、「自立」概念が根本的に異なります。


高校中退など、教育課程からの早期離脱・排除は貧困の第一段階目と提起されています。

予め労働市場から排除されるなどで非正規雇用にならざるを得ない人々は、日々貧困へ潜行しています。

多くのNPOなどの行政の下請け的失業産業が、説教や気休めや余計な訓練など非常に抽象的なことを提供しているのに対し、もやいは「自立」に関し一貫して連帯保証人提供システムを構築してきており、その提供にとどまらず、野宿者が自活後も、社会的孤立状態を解消すべく「こもれび荘」でサロンを開き、何かあればすぐSOSを求めるよう呼びかける続けるという、極めて具体的に役立つことを迅速に提供します。


週末になると大勢の「ボランティア」が溢れんばかりにこもれびサロンへ訪れていました。


労働と貧困は表裏一体のもの。仮にそうならば、もやいは野宿者のみならず、最賃も家賃も高い東京においてシングル単位で、いま一見何の問題もなく正規雇用の職にある人にとっても、「過労・労働や失業・休息のあいだ」について考えられる数少ない場として機能しているのかも知れず、それがもやいの引きつける力なのかもしれません。

そこでは、もはや「支援する側・支援される側」という線引きは、無効となるのです。

したがって、いったいだれがだれに向かって、どういう理由で「自立させる」と言えるのか、不勉強なわたしにはわからないので、教えていただきたいと思います。(吉岡)


cf. 「もやいについて」

http://www.moyai.net/modules/m1/index.php?id=1&tmid=7




2008/05/28朝日新聞・論壇時評「子もどの貧困・親の格差 策講じず連鎖」社会経済学者・松原隆一郎より

抜粋し引用します。


「大阪府堺市の生活保護世帯を対象とする調査では、保護を受ける世帯の7割が『低学歴』、しかも保護の世帯間継承が4割に達する。このように劣化した子どもの環境に関し、国はどのように対策を取ってきたのか。

88兆円(05年)の社会保障費はもっぱら高齢者に向けられ、子ども向けは約4兆円、対GNP比ではアメリカと並ぶ小ささである。教育への公的支出はギリシャに次ぐ世界最小水準であり、私費負担が大きく、所得格差が教育に反映される仕組みになっている。しかも子どものいる貧困世帯への所得移転の効果はほぼ皆無で、これは世界に類を見ない現象だ」


「貧困と好況の共存、すなわち市場の『分断』が生じているのである。これは、格差よりも重大な問題だ。誰もが自力で経済的に向上できるなら、格差は能力と努力の結果に過ぎない。けれども市場が分断されると、貧困は一部家庭で継承されてしまう。孫立平(週刊東洋経済5/3-10号)によれば、市場化の進捗著しい中国でも90年代から『断絶』状態が定着、上層部が組織的に利益を守り、下層部は分散したまま『政府不在』で放置されているという。市場化とは制度や慣行を撤廃することだが、市場から排除された人々を自立させるにはむしろ制度や慣行の再編が必要になる」


「開発経済学者のA・センも強調するように、貧困は金銭の移転だけでは解決しない。したがってセーフティーネットによる再分配を実際に機能させるのは『社会資本』、各人の存在を無条件に受け入れ、向上する意欲をかき立て、そのための知恵も授けてくれる、家庭や学校、地域や友人などの人間関係である。」


「湯浅は事務局長を務めるNPO法人でアパート入居時の連帯保証人を困窮者に斡旋しているが、野宿者を含む95%が保証人の信頼を裏切ることなくアパート生活を維持しているという」