もう終わりかと考えた僕だったが、自分の身は予想を遙かに超えて、強運だった。
不意に僕の体が浮いたのだ。
空から誰かに抱えられて。
そういえば、僕の周りには空を飛ぶことができる人がたくさんいるじゃないか。
バリアや、キルア、それにハーピーたち。
早鐘のようになる心臓を押さえ、一体誰が僕の身を救ってくれたのかと顔を上げると、そこにあったのは僕が想像した人のうちの誰でもなく、それは左右の目の色が違う男の顔だった。
「ビシウス!」
そう、今僕を抱えて飛んでいるのは、ラムザに入って初めての仕事で出会った、ビシウスという男だった。
最初に会った時と変わらぬ服装、背中に生えた大きな羽も始めて見た時と同じ威圧感を放っている。
クイットも彼の存在に気づきその名前を呼んだ。
すると僕はすぐに甲板へとおろされ、彼はクイットの元へと飛んでいく。
そうだった。
彼とクイットの関係について詳しいことは知らないが、何か特別な関係のようだ。
きっと昔からの知り合いなのだろう。
ビシウスはほとんど何も話さないし、そもそも気づいたらいなくなっている。
彼から話を聞くことはできないだろう。
かといってクイットもあまり多くを語りたがらない。
そういえばすっかり話を聞きそびれていたけど、リクが言うにはキトンも何かビシウスと関係があるらしい。
しかし今はそんなことを聞ける状況じゃなかった。
そう、今僕の目の前にはオクトが立ちはだかっているのだ。
体の半分ほどを船に乗り上げ、僕や、他の人々を狙うようにふらふらと足を動かしている。
僕は今ろくに剣を扱うことができない身なので、数歩後ずさり、オクトから距離をとった。
「ケイ!」
そんなとき再び上から声がした。
見上げると、真っ黒な瞳が目の前にあった。
クレディーが屋根の上から身を乗り出しているのだ。
僕が思わず身を縮めると、彼女は華麗に一回転し、僕の横におり立った。
ずいぶんと運動神経が良いようだ。
「あんたその様子だと腕怪我してるんだな。剣は使えないってことだろ?」
オクトの様子をうかがいつつも、彼女は僕をじろじろと見た。
僕は、少ししどろもどろに返事を返す。
「そうか、なら、がんがん魔法で戦ってもらおうじゃないか。だが、さっき空の穴が塞がったからか、魔力の密度がどんどん下がってきてる。早いとこ片した方が身のためだな」
クレディーはそう言うと、オクトの方に視線を向けた。