鬼畜と心配性とサポート役 第4章 21話 | Another やまっつぁん小説

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 アスファルトの上に陽炎がたつ、極普通の真夏日だった。


 『都』の海沿い、そこに病院はある。

 眺めとサービス良いことから評判だが、その個室の1つに、珍しい人々が集まっていた。




「すみません、501号室の黒 紫園さんの友人ですが、面談できるでしょうか。」
 

 カウンターの女性看護師は、声を掛けられて気だるそうに振り向く。

 彼女は今夜、彼氏とのデートを控えていた。

 声を掛けられたのは、朝に着ていた私服で大丈夫かと必死で考えていた時。
 自分にとっては重大な事項だったので、それを中断してまで聞く話か、と顔を見ずに許可を出そうとした。


 少年の顔を間近で見て、その考えを改める。

 カウンター向こうに立っていたのは、まるで春の日差しのような微笑みを浮かべた、それは大層美しい少年だったのだ。
 黒髪は肩より少し長く、紐で纏めている。

 銀の細身アンダーリムの眼鏡、その奥の群青の瞳。

 顔立ち、彫りの深さ、薄い唇と形よい鼻といい、非の付け所のない年下。
 

 すでに看護師は、先ほどまで頭いっぱいだった彼氏の顔さえ忘れている。

 部屋の番号と患者の名前が記録された紙を見て、少年が言った部屋番号を確認した。

「ええっと、501号室の、黒 紫園さん? ああ、あの可愛い子ね。」
 検温の時に見たが、黒い瞳に腰までの紫髪の、礼儀正しい少女だった。
 おしい、もう彼女がいたか。

 事務所と連絡を取りながら考える。

 その合間に質問した。

「恋人?」
「いえ、クラスメイトです。」
 普通に笑顔。

 ということは、この少年はフリー。

「何年生?」
「えっと…高校1年です。」
 はにかみながらのぎこちない答えに、完全に看護師の心は捕まれた。

 はっきり言って、これは『都』でも滅多に見られないランクの美形だ。

 年下だが、23歳の自分とは7歳しか離れていない。

 10歳差の付き合いが珍しくないご時勢だ。

 ―――自分勝手な想像、いや妄想が溶岩のように噴出す。

「おい帝!」
 後ろから突如現れた少年が、自分の思考をぶった切る。

 美少年の後ろには、不良が突っ立っていたのだ。

 輝く金に染めた短髪に、左耳にずらっと付けられたリングピアス。

 黒い瞳に、白い半袖Tシャツと黒いズボン。

 左腕には逆さ十字の刺青。
 

 不良が、この少年と仲良しなのか。
「許可はまだおりねぇのか?」
「静かに、有栖君。」
「………。」
 美少年の言葉に、不満そうに不良が黙る。

 その隙に看護師は、電話越しに少年2人の面会の許可を聞いた。
「ええっと…あ、はい。分かりました。――許可が下りました。手荷物検査があるようなので、事務所へ向かってください。ここから真っ直ぐ向かって、右手側に見える部屋です。」
「ああ、ありがとうございます。」
 純朴そうな眼鏡の優等生。

 できればここで不良は止めておきたい、そう思ったときだった。

 美少年がふと笑いかける。
「有栖君のことについては心配はいりません。僕がストッパーです。」
 なるほど、と看護師は頷いた。

 美少年は微笑みながら廊下を歩き、その後ろを不満そうに不良が付いていった。
 

 ぼぅと上気していた看護師。

 ふと我に返ったときの第一声が、
「あ、メアド聞くの忘れた。」
 これだった。