鬼畜と心配性とサポート役 第4章 4話 | Another やまっつぁん小説

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「零斗は知ってたか?」
「何を?」
「黒の妹。」


 商店街の道なりを歩いている時、零斗は突然話題を振られた。

 首を横に振ると、帝は訝しげな表情を浮かべる。
「おい、幼稚園年少からこの学校まで同じ年齢、クラス、近所、さらには公園まで遊びにいった仲だぞ。」 「知らない。」
 多少苛立ったのか、零斗は素っ気無く否定した。

 そんな態度、そして返答に、しかし帝は気にすることなく喋った。


「あいつ、妹さんを亡くしている。」
「へ?!」
「この学校に来た直後だけどな。危篤だって話を聞いたときは、この島は丁度台風の進路上にあった。俺が病院の裏手まで飛ばしたんだけど、間に合わなかった。―――古傷抉ってるぞ、あいつ。」
 知らなかった話題に、寧ろ零斗はむむむ、と呻り声を上げた。

 何故自分には話してくれず、帝には話したのだろうか。

 幼馴染が言うのもなんだが、鋼 帝はかなり性格がひん曲がっている人物だ。
 …いや、確かに気は利くけど。


「妹さんは能力者じゃ?」
「全然。黒の能力のこと、知らなかったみたいだし、な。」
 3人で能力のことを隠しながら、外界での生活を送っていた。



 零斗にとって、小学校の頃は確かに、人とは違うものを持っているという優越感を僅かに持った。

 それがだんだんと、中学生になるにつれ、普通の人とは違うということを明確に認識し、異物感を感じるようになった。
 気にしなかったのは帝くらいだろう。

 だから学校に乱入してきた別学校の高校生達を、育館ごと吹っ飛ばせた。
 


 トラックのエンジン音で、回想は吹き消される。
「…何だあれ。」
 帝は思わず立ち止まる。

 零斗も立ち止まり、そして
「…何だありゃ。」




「おいおっさん、学校に近い方面に、アンタとは比べ物にならないくらいのモダンなイケメン喫茶が出来ているがどういうことだ?」


 寂れた食堂、ではなくレストラン「デリシャス」にて、鬱々とした表情の面々が帝を見る。

 失礼極まりない発言に、30代後半ぐらいは絶対に越えた男性、岩陰 竜海が眉間に皴を寄せて大声で答えた。


「俺が聞きたいわぁっ!」
「うるせぇよ。」
 ここで出される珈琲は50円。

 安い。

 だが今日はその芳醇な香りを楽しみに来た訳ではない。


「もしかして、俺たちを呼んだのはああいうことか?」
「そういうことだ。」
 話は数日前にまで遡るらしい。



 引越しトラックが次々に留まったのは、そのモダンな喫茶店の前。

 まだ改装中だったが、運び込まれる家具も食器も、全て若者向けのものだ。

 学生にターゲットを絞っている事が丸分かり。
 更にいえば、最近の女子好みの男性が次々にビラを配っている。

 噂を聞くかぎり、楽しみにしている生徒が何人もいるとのこと。


「草食系男子とかだろ。」零斗が呟く。
「何だそのアフリカのサバンナにでもいそうな名称は。」帝の問いに、
「俺に聞くな。何でそんなものが出るのか全くわけがわからない。」


「女子って不思議だな。」
「ああ、不思議だよな。」
「身近な女子は黒だけだからな。」
「アレは普通の女子じゃない。」
 そういう会話は置いておくとしよう。


 何とか対策を立てねば、この食堂…じゃなかったレストラン「でりしゃす」の存続に関わる。
「これはもう生徒会の任務じゃねぇ。町内会の野暮用だ。店長の野暮用だ。」
 零斗は、聞き取りにくい声でぼそりと呟く。

 耳聡く聞きつけたのは、やはり竜海だった。


「シャーラップッ! 生徒会なら町内のために働け! 全ての人のために働け! 一部学生のためだけにサンドバッグなんか設置するんじゃない! あと俺を店長と呼ぶな!」
「ああ、だから『店長じゃなくてオーナーだ!』なんてペンネームだったのか。」
 生徒会ノートを思い出す。

 速瀬に取り消し線を引いて凡太と書いたのも彼だ。


「あー、しかも本命の話はこれじゃねぇし。」
 竜海は歯軋りをして、カウンターの席を指差した。


 そこには、まるで金色と見間違えるような毛並みの猫が、丸くなって寝転んでいた。

 頭頂部で毛を紐でくくり、大抵の女子なら「かわいい」と言って撫でに来るだろう。

 くるん、と円らな、しかし半分の黒い瞳が振り向き、それから、前足の一本が上がった。


「やっほー。」
「…。」


 帝と零斗はまず猫に背を向ける。

 そして二人で顔を見合わせ、同時に肩越しに振り返った。

 そしてまたもや、背を向ける。


「見たか?」
「見た。」
 意を決し、そしてもう一度振り向く。


「驚いた?」
 猫が、喋っていた。


 出口はどこだったかな。


「ちょっと待て。」
 竜海は帝の白い学生服の襟を掴んで引きとめる。

 振り向いた群青の瞳には、まるで同情というものはなかった。

 現実を否定したくて仕方がない雰囲気が滲み出ている。
 だが、帝は聞いてしまう。


「…あれは、何だ。」


「伊家だ。」
 竜海は容赦なくそう答えた。