あの後クイットはフローラとともに自室へ戻った。
さっきクイットを守った女性は例の始まりの精霊というやつらしい。
クイットはその精霊を自分の意思と関係なかったとはいえ呼び出したことで、かなり消耗していた。
しばらく休んでくるとのこと。
「・・・お前が天使と悪魔を抱えているのはよ-くわかった。」
そして、この場に残ったブレイズとキトンは僕に謝ってくれている。
どうも二人は天使と悪魔がいると言った僕の言葉を、悪魔のような天使がいるという意味だととったらしい。
まぁ、悪魔は悪魔で別にいるんだけど、どうせ二人には見えないし、無理に説明する必要はないだろう。
実際あれは天使の姿をした悪魔みたいだったし。
(誰が天使の姿した悪魔よ!!)
うげ、そうだ、あのあと天使、バリアは僕の中に戻ってきていたんだ。
(もう、今日は寝る!起こしたら承知しないからね!!)
そういうと頭の中のバリアの声はしなくなった。
「あ!!」
と、急にブレイズが大きな声を出すから僕は思わず飛び上がりそうになる。
「あぁ、びっくりさせてごめんな。実はリクのことなんだが・・・」
「あぁ、そうだ、大変!」
今度はキトンが大声を出した。
・・・リク?
あ、彼のことをすっかり忘れていた。
いったい彼は今どこに?
「ケイ、ちょっとこっちきてくれ。」
ブレイズたちはいつの間にか店の奥にいた。
店の奥には小さなドアがあり、そこが従業員用の通路になっている。
そしてその先に、店の裏側の広い空き地に出る裏口があるんだ。
僕はまだ裏の空き地に入ったことないけど、仕事が休みの日なんかはそこで体術や剣技、魔法の訓練をするらしい。
僕が小走りに駆け寄ると、ブレイズは従業員用通路に入る。
キトンが後に続き、その後に僕が続いた。
かなり急いでいるようで二人は僕を置いてどんどん走っていき、裏口のドアを開けると二人は外に飛び出す。
僕もあわててあとを追い、外に出た。
空き地といったら砂地にちょっと草が生えているくらいかな、と思っていた僕だったけど、そこには大きな木が1本生えていた。
ところどころ草が生えた砂地の先に突然生える巨木。
隣の高い建物と、このバーに隠れて見えなかったけど、こんなところに木が生えてたんだ。
そして僕は木上を見上げて思わず叫んだ。
「リク!!」
なんと木のかなり高いところに、顔以外をロープで何十にも縛り上げられたリクが、木の幹に巻きつけられていたんだ。
「いやぁ、こいつ信じらんねーんだよ。実はな・・・。」
リクをにらみつけながら、ブレイズが話し出そうとしたところを
「おめーら、そこでくっちゃべってねーで、早く降ろせよぉ!!」
というリクの悲痛な叫びが遮った。
:
リクを救出した僕らは再びカウンター席についていた。
「んじゃ、本人の口から話してもらいますか。」
ブレイズが言うとリクが罰の悪そうな顔で話し始めた。
「港で俺がケイに彫像渡して、立ち去っただろ?あの時実は俺、少し離れたところで様子を見てたんだ。」
「え?じゃぁ、あのときのこと全部見てたの?」
「ったりめーだろ?まぁ、ケイが倒れて動かねーから気が動転して、ほとんどあのときのこと覚えてねーんだけど。」
「だから私たちはケイが倒れたときのこと知らなかったんだよ。」
キトンが肩をすくめて言った。
「それで、彫像を渡したことだが、ケイのやつは別に馬鹿じゃなさそうだから気づくかな、と思って渡したんだよ。」
「気づくかな、って!リク最初から仕掛けのこと知ってたの?」
「ったりめーだろ?!仮にもシーフだぜ?ケイみたいな一般人が気づく仕掛けを見つけらんなかっらシーフの資格はねぇ。ま、最初から知ってたっていうのとは違うけどな。ブレイズのときはマジでビビった。けどキトンのを見たときに気づいた。」
リクの言葉に僕は唖然とするほかなかった。
「ま、俺シーフで打たれ弱いかんな。ここはケイちゃん使って様子を見ようってな。」
リクはそこでニヤニヤと笑う。
ぼ、僕を利用してたのかこいつは!
「サイテー。」
キトンが軽蔑したようなまなざしでリクを見る。
「ま、そんなこと抜かしやがったから、さっきまで一晩中木に縛り付けておいたってわけだ。」
「こいつったら縄抜けも得意だからさぁ、入念に縛っておいたんだよね~。」
そういえばさっきリクは何十にも縛られてたね、それはもう、しつこいくらいに。
まぁ、キトンが一度引っかいただけで全部切れちゃったんだけど。
縄がもろいのか、キトンがすごいのか・・・。
ま、これは後者だろうな。
「うえー、腹減った。そーいや、フローラは?今日の当番だろ?」
「あぁ、フローラは・・・・。」
ということで、リクにさっきまでの説明をすることとなった。