鬼畜と心配性とサポート役 第3章 3話 | Another やまっつぁん小説

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そのころ。


 有栖は学校一階の食堂へと向かっていた。
 伊家はそこにいるようだ。


 なぜ伊家の居場所がわかるのか?
 それはパソコンのある機能を使ったからだ。


 プライバシーの問題があるので学校内のみだが、校内であればどんな生徒の居場所もたちどころにわかる、そんな機能がパソコンに取り付けられていた。
 といっても各パソコンから出ている電波をキャッチして場所を示すというものなので、正確には持ち主が手に持っているであろうパソコンの位置がわかるだけである。
 つまりパソコンの居場所がわかっても、持ち主本人がその場にいるとは限らない。
 それでもこの機能は重宝するもので、教師や生徒はさまざまな場面でこの機能を利用している。


 今は放課後、授業が終わり結構時間がたっている。
 もう帰ったかと思われた伊家だが、食堂に反応があるところを見るとまだ校内にいたようだ。
 いくら頭が働かなさそうでも食堂に大事なパソコンを忘れるほど馬鹿ではないだろう。


 こうして食堂へやってきた有栖は入り口から顔をのぞかせた。
(いるいる・・・。)


 伊家は食堂の真ん中あたりのテーブルに数人の男子生徒と共に陣取っていた。
 そのテーブルの上にはもう少しで食べ終わりそうなパンやジュースが散らかっている。
 授業が終わった後彼らはここでいろいろと食べたり飲んだりしていたようだ。


 ほかにも食堂内には何人かの生徒たちがいたが、伊家のグループが一番大きく騒がしい。
 有栖はまだ自分のことを伊家たちが気づいていないのを確認してからそ知らぬ顔をし、食堂内に入った。


 すぐに席について見張ろうとも思ったが、食堂に一人何も食べたり飲んだりすることなくいるのはさすがに怪しいので、売店でウーロン茶を頼んだ。
 売店のおばさんは注文を聞くと慣れた手つきですばやく準備をし、すぐにグラスに入った冷えたウーロン茶を出してくれた。
 有栖は小銭を払い小さく礼を言うと伊家グループから少し離れた席に着く。


 伊家たちは話に夢中で相変わらず有栖の存在には気づいていないようである。
 有栖の座ったその席からは伊家の表情も窺うことができたし、話し声もよく聞こえる絶好の場所だった。
 有栖は鞄からパソコンを取り出し、伊家たちの会話の内容を打ち込んでいく。
 こうすればパソコンで何か作業をしているように見えるし、顔も見えにくい、一石二鳥だ。


「いやぁ、おごってもらっちゃって、悪いね~。」
「うん・・・。本当に返さなくてもいいの?」
 伊家の周りにいた生徒が聞いた。


 よく見れば彼らは全員同じ学年だ。
 部活の集まりというわけでもないし、伊家とはタイプがぜんぜん違う生徒もいる。
 今伊家に返さなくてもいいのかと聞いた彼がそんな生徒だ。


「あぁ、いーのいーの。無理言って集まってもらったんだしぃ。気にしなくってもダイジョーブ。俺こう見えてもけっこう稼いでるし~。」
 伊家は質問に手を振って答えた。
 その言葉からすると伊家が何か話をしたいがためにこの生徒たちを集めたということだろう。
 そして生徒たちを集めるためにジュースやパンで釣った・・・と。


(一体こいつは何を考えてるんだ?)
 有栖は首を傾げつつも手の動きを止めない。
 その手の動きはかなり早かった。


 これも数週間に渡って行われた仕事兼特訓のおかげだ。
 入学した当初はパソコンの使い方すらろくにわからない状況だったのだが、生徒会長としてさすがにそれはまずいし、大体仕事がそれでははかどらないということで、パソコンの使い方を一から黒と帝に叩き込まれた(といっても帝は悪態をつくばかりで何も教えちゃくれなかったが)。


 そんなつらい特訓の日々を思い出していた有栖だが、すぐに我に返った。
 ボーッとしている場合ではない。
 ここからの話が重要なところだ。