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タケシの冒険 18



谷間に鴬の鳴き声がこだましている。タケシたちが遭難してから五度目の春を迎えようとしていた。

ある日の朝刊は、どの全国紙も「植村氏奇跡の生還」とか「不死身の植村復活」という見出しで一面を大きく飾っていた。それもそうである。二十年以上も前に遭難したかの大冒険家植村直己が突然帰還したものだから超特大ニュースである。大きく写しだされた写真では植村に寄り添う夫人の喜びの涙が印象的であった。テレビ各社とも世紀を越えた奇跡とばかりに連日特別報道番組を組んだ。遭難後の長い失踪はミステリーに満ちていた。

一方、探検家植村生還の特報であまり目立たなかったが、遭難したT大学山岳部の二人の学生が生還したことが、地方紙で報じられていた。無論、この二つの事件が深く結びついていることに気づく者は誰もいなかった。タケシの無事を信じてやまなかった久美子の愛情がタケシを暖かく迎え入れたことは言うまでもない。タケシの両親もそれは手放しの喜びようであった。太宰府天満宮の梅のつぼみがほころびかけていた、幾分暖かい気持ちの良い朝であった。タケシも久美子もお互いの愛を確認し、新たな希望に満ちた旅立ちを始めようとしていた。

しかし、UKG5324A星とUKG5324B星の和解にタケシを駆り出すために、一月後にはUKG5324星人の魔の手が忍び寄ることを全く知る由もない二人であった。タケシの冒険はまだまだ続くようである。 (完)


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