最終話 あの夏の思い出
蓮たちご一行は明日の朝には東京に帰る。太陽が照りつけるジリジリした夏も終わりを迎えていた。蓮は宿題に困ることはなく、すぐさま終わらせた。守と遊びたかったから。
今日は、神谷町の夏のメインイベントでもある、夏祭り。通称、神谷祭りが開かれる。それに伴い朝から大忙しだった。大人たちがせっせと働いていること、蓮は守との最後の虫取りをしていた。
「今日の夜、神谷祭りだな。楽しもうぜ。」蓮は歯を見せて笑った。
「おう!」守もにこっとはにかんだ。
午後七時。辺りは薄暗くなってきたが、祭りは始まったばかりだ。たこ焼き、焼きそば、お好み焼き、ありとあらゆる屋台が出回っていた。
「うっひょぉぉぉぉぉ。やでもテンション上がるなぁぁぁぁ。」守ははしゃぎすぎていた。
「おい。蓮!向こうに型抜きあるぞ!」守が型抜きの屋台を指差して言った。
「マジカァァァ。よっしゃいくぞ!」蓮もすぐさま屋台向かって走り出した。
「ノーーーン。おっちゃん。もう一回!」守はかさすら抜けないらしい。
「あいよ。」
「蓮やるな~」蓮がヨットを抜いたらしい。
「守が下手なだけだよ。」
「何ぉぉぉぉぉ。見てろよー。」やる気十分だが、空回りした。
「ノーーーーン。またかよ。」
「ハハハハハハ。」二人の笑いは祭り中に響き渡った。
「守。そろそろ花火大会じゃないか。」蓮は時計を気にして言った。
「今何時だ?」
「8時17分だよ。30分からじゃないの。」蓮は首をかしげた。
「場所取りし忘れたぁぁぁぁ。よっしゃ、走るぞ!」守は蓮の手をとり、丘の上めがけて猛ダッシュした。
「ぬおぉぉぉぉぉ。」
「どこからこの力が・・・。」蓮はついていくのでやっとだった。
丘の上は人でいっぱいだった。守は額をぴしゃりと打った。
「あっちゃぁぁ。やっぱしかー。」もう見る場所がほとんど無い。大人たちばかりで、視界が遮られてしまう。
「あ!守。あそこなら・・・。」蓮はふと思い出したように言った。
「あ!あそこなら・・・・最高だ!」守もすぐ何処を蓮が言っているのかわかった。
今度は二人してダッシュで走った。時刻は8時27分。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。」
二人は木の上にいた。あの木の上に。
「うおー。間に合った。」
ドォォォォォォーーーーーーン
花火が上がった。とても鮮やかだった。
「でっけぇぇぇぇぇぇ。」守は口をぽかーんとあけたままだった。
「こんな綺麗なの初めてだ・・・・。」蓮もまたぽかーんと口をあけていた。
蓮はついに別れ話をした。明日帰ることを。
「俺さ。実は明日東京に帰るんだ。」
「やっぱり。そろそろじゃないかと思ってた。」
「明日の朝。すぐ帰る・・・・・。」
「また来るよな・・・?」守は尋ねた。
「当たり前だろ。来年にでも来てやるさ。だから、だからさ・・・。」泣きかけていた。
「さよならは言わない。」もう泣いていた。
「あったりめぇーだろ・・・。さよ・・なら・・なんて・・い・・言ったら・・しょうち・・しねぇー・・ぞ。」守も泣いていた。
「だから・・よ。最後に、葉っぱの船流そうぜ。」蓮は思いっきり笑った。一夏をともに過ごした仲間との別れを葉っぱの船に乗せようと思ったのだ。必ず、また来るからと思いをこめて。
「おう!」守もまたにっこり笑った。
船を作るとそれを川に流した。来年もまた、ここに来れますようにと願いを蓮はこめた。
花火の明かりがいつまでも二人を照らしてくれた。
次の日の朝。蓮は東京に帰った。別れ際、守がくれた手作りミサンガを手につけ。
「来年もこれつけて来いよ。」そう守は言っていた。
こうして、蓮と守の夏は終わった。
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