音楽の著作物の複製と翻案 | 法律大好きのブログ(弁護士村田英幸)

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第4 音楽の著作物の複製と翻案

複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいう(著作権法2条1項15号)。

音楽の著作物は、楽譜、録音・録画の媒体に固定されていることは要件とされていない(渋谷達紀『著作権法』32頁)。

複製とは有形的再製であるが、生演奏や即興演奏等の録音録画も複製となる(中山信弘『著作権法』120頁、渋谷達紀『著作権法』32頁)。 著作物の一部を複製することも、複製となるので、音楽の著作物の一部(何小節)を取り出す場合も複製になる(中山信弘『著作権法』121頁)。

東京地判平成12・2・18(「どこまでも行こう」事件)は、メロディの同一性を第1に考慮すべきとして、非侵害とされたが、その控訴審である東京高判平成14・9・6では、原告の曲は著名であり、原告の曲と被告の曲は、異なる楽曲間の旋律の類似の程度として、他に類例を見ないほど多くの一致する音を含む(約72%)ので、侵害とされた(上告棄却)。

依拠の要件

最高裁昭和53・9・7民集 第3261145頁、ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件(非侵害とされた事例)

著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいう。

既存の著作物に接する機会がなかつたためその存在、内容を知らないでこれと同一性のある作品を作成した者は、右著作物の存在、内容を知らなかつたことにつき過失があると否とにかかわらず、著作権侵害の責任を負わない。既存の著作物に接する機会がなかつたためその存在、内容を知らないでこれと同一性のある作品を作成した者は、右著作物の存在、内容を知らなかつたことにつき過失があると否とにかかわらず、著作権侵害の責任を負わない。

複製・翻案に関する段階として、以下の段階が考えられる。

・著作物の素材として、表現それ自体ではない部分(アイディア、思想感情そのもの、歴史的事実など)を再製しても、複製に該当しない(最判平成13・6・28民集55巻4号837頁)

・本来は著作物ではあるが、著作物として認識できないものとして、複製権侵害にならない場合がある。

写真の著作物に書が写り込んだ事例(東京高判平成14・2・18[雪月花事件]

ただし、原著作物が認識できる場合は複製である(知財高判平成19・5・31)。

・複製(創作性のある表現の同一性のある有形的再製)

最高裁昭和53・9・7民集32巻6号1145頁[ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件]は、複製とは「既存の著作物に依拠し、既存の著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製させること」と判示している。

現行法では、複製は、

「依拠」

「既存の著作物の内容・形式の覚知」

「類似性」

「有形的」再製であること

の要件を整理される(中山信弘『著作権法』212頁)。

ただし、著作物の「内容・形式」の意味が不明確ではないかと批判されている(渋谷達紀『著作権法』132頁)。

・翻案(原著作物と表現上の思想感情の同一性を保ちつつ別の創作的表現が追加等されたもの)

・換骨奪胎的作品(原著作物にヒント等を得たが、新たな著作物には、原著作物の表現上の思想感情を感得できないもの)

換骨奪胎的作品が複製・翻案に該当しないことは認められている(中山信弘『著作権法』、126頁、田村善之『著作権法(第2版)』(2001年)112頁、渋谷達紀『著作権法』74頁、133頁)

(翻訳権、翻案権等)

第27条  著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。

翻案には、編曲が例示されている。

編曲とは、既存の音楽の著作物をアレンジすることを指す(中山信弘『著作権法』129頁~130頁)。

翻案に該当するためには、二次的著作物に接した者が原著作物の本質的特徴を感じとることができること(直接感得性)が必要である(渋谷達紀『著作権法』182~183頁)。

音楽の著作物の分野では、安易に翻案を肯定すると当該業界の利益にならないと考え、二次的著作物に該当しないと解する傾向があると指摘されている(渋谷達紀『著作権法』183頁)。

しかし、私見として、音楽の著作物のように、

選択できる音の種類・要素が限定され、

旋律もある程度パターン化されている(不協和音を避けるため)。

歌詞のように音と結びつくフレーズがある程度限定され、

音や歌詞の韻を踏む必要がある、

長さにも用途・種類などにより時間的限界があること(例えば、コマーシャル用の音楽の著作物では長くても約1分間以内、ポピュラー分野の邦楽では通常5分前後が標準とされている。)、

などの場合には、類似性をたやすく肯定できないであろう。

これらの点は、例えば、長い歌劇(オペラなど)、長編小説のような選択の自由度の幅が広い事例とは異なる点に留意すべきであろう。

創作的表現の本質的特徴が同一の場合が複製(21条参照)、他の創作的表現が追加されている場合は翻案(27条参照)となる。

模倣された著作物に依拠していること。

侵害者にとっては、いずれにせよ、著作権侵害となるので、著作権者に対する抗弁とはならない(渋谷達紀『著作権法』130頁、133頁、406頁以下参照)。

複製と翻案の区別の実益があるのは、二次的著作物利用権(28条)、二次的著作物に対して第三者が侵害した場合である。