うぉぉぉぉぉーーーーーーという叫び声を上げ、夫は浴室洗い場の床に倒れ込みました。
白目を剥き、激しく全身を痙攣させ、口の中が切れたのか、血が混じった泡を吹いていました。

頭を抱えて、なんとか横向きの態勢にしました。
幸い入浴介助のヘルパーさんがいたので、支えていてもらって、タオルバスタオルを持ってきて、頭の下や、背中に押し込みました。

痙攣はまもなく止み、その後は、いびきのような大きな激しい呼吸音が続きました。
15分意識不明が続くようなら、救急車を呼びなさいと主治医に言われているので、時計を見ながら不安な時を過ごしました。

10分ほど経った頃、激しい呼吸音は落ち着き、普通の呼吸になり、手足を動かすようになりました。
目を開けず、朦朧としている様子でしたが、一応今回も大丈夫だったとほっとしました。

ヘルパーさんの助けを借りて、シャワーチェアに座らせ、しばらく様子を見ました。
コップに水を入れてきて飲ませると、飲んでくれました。
この日はデイサービスの日でした。
どうするか迷いましたが、すっかり落ち着いてきたので、デイに着いたらベッドで寝かせてもらえばいいかと思い、そのままデイに送り出しました。

数時間後、デイから電話がきました。
再びけいれん発作を起こしてしまったそうです。
二度目なので、救急車を呼ぶというので、お願いしました。
私は、保険証などを持って、病院へ駆けつけました。

夫は救命病棟の狭いベッドに寝かされて、点滴を受けていました。
顔色は悪くなく、ただ眠っているようでした。
CTと造影剤を使ったMRIで検査をしてもらいました。
CTでは、前頭葉軽度萎縮と、左優位の海馬萎縮、頭部MRIでは所見なしでした。
認知症以外の異常は認められないとのことでしたが、夜も遅いし、まだ眠った状態のままなので、今夜は救命病棟で様子を見てくれるとのことでした。

翌朝行ってみると、夫はまだ眠ったままでした。
顔が少し赤らんでむくんでいるような感じでした。

入院させるかどうか決めてくれと言われました。
入院させても、この先やれることは、脳波をとるくらいだと言われました。
以前入院させたことを後悔していた私は、連れて帰るのを選びました。
でもこの状態では帰れないので、立たせてみようということになり、起こして手を引いて立たせました。
夫はちゃんと立ってくれました。
ただ、足元が定まらず、歩くことはできませんでした。
一応立てたので、退院することができました。




初めて軽いけいれん発作を起こしたのは、2010年4月でした。
3月にどうしても抑肝散を飲まなくなってしまったので、その代わりにデパケンが処方されていました。
デパケンを飲んでも不機嫌になるのは変わらずでした。
今にして思えば、当時アリセプトを7.5mg飲ませていましたが、不穏になるのは、これが大きかったのではと思います。
けいれん発作があったと報告したら、デパケンの量を増やされました。

その頃、トイレに行っても排尿できなかったりしていたので、信頼できる内科医の先生に診てもらっていましたが、その量だと、けいれん発作を防ぐには足りないと言われました。
デパケンを飲ませ始めてから、ふらつきが多くなったり、具合悪そうな状況が増えたと感じていたので、私は飲ませるのを止めました。

当時、皮膚の湿疹が治らなくて、皮膚科からも薬がでていたし、尿を出やすくする薬も飲ませていました。
素人考えでしたが、そういった数々の薬が今回のけいれん発作を起こしたのではないかと思いました。
夫は薬を飲みたがらず、無理に飲ませようとすると、不穏になってしまっていました。
そうした戦いに疲れ、私は、アリセプトと塩酸メマンチン以外の一切の薬を中止しました。

同じ年の9月にまたひきつけを起こしました。
再びデパケンを処方されました。
錠剤は飲まないと言ったら、シロップを処方されました。
しばらく飲んではいたのですが、そのうち、どうしても飲まなくなりました。
以前よりふらつきが多くなり、具合悪そうにしてる時も増えたので、またデパケンを止めました。

次に大きな発作が起きたのは、2011年6月でした。
この頃には暴力があって、連日大小便をまき散らされ、私は地獄の中に生きていました。

その日は明け方、いつもの異様な水音で目を覚ましました。
夫は洗面所で放尿していました。
手前の廊下には水たまりがありました。
私は、いつものように掃除して、蒸気クリーナーをかけていました。
と、そのとき、また洗面所で放尿を始めたのです。
私は、こっちこっちと夫の体を押しながら、便器の前に誘導しました。

突然夫の顔がゆがみはじめ、殴りかかってきました。
顔を殴られ、わたしはふっとびました。
私は寝室に逃げました。
更に追いかけてきて殴られました。
ベッドまで追い詰められ、もう逃げ場はありませんでした。
手に持っていたクリーナーで体をかばっていたら、むしりとり、柄をボキッと折り、更に殴ろうとして、私を掴みました。

あぁもうダメだな..と思った瞬間、夫はうわーーーーーーっという異様な叫び声を上げ、私を放し、ベッドとベッドの間の狭い隙間に倒れ込みました。
同時にいびきをかきはじめました。
びっくりして名前を呼びながら、手を触ってみたら、冷たくて、痙攣していました。
脳溢血かもと思って、救急車を呼びました。救急車を呼んだのはこれが初めてのことでした。

CTをとったり血液検査をしてもらって、異常は認められないとのことで、そのまま家に戻りました。
すっかり夜が明けていました。

2011年10月、便器に座っているときにまた発作が起きました。
この時は、便器の前の狭い隙間に落ち込んでしまって、体を変にひねってしまって、腰椎の圧迫骨折をしてしまいました。
3週間入院させてしまい、結果、認知症は一気に進行してしまいました。
その後、12月、翌年1月、2月、3月と毎月けいれん発作が起きました。
その後は、間が空いて、5月、9月に起きました。
今年もまた、1月2月3月と毎月けいれんを起こしていました。




主治医からは、デパケンを飲ませるように再三言われています。
確かにけいれん発作のリスクは少なくなると思います。
その代わり、足元がふらつき、いつも具合悪そうな状態になってしまいます。

病気を治す薬なら飲ませますが、これは血中濃度をある水準に保って、それで発作が起きるのを防ぐ薬です。
この先、認知症そのものが治るあてもなく、夫に残された時間はとても少ないと思うにつけ、多少でもわけがわかるうちは、具合が悪くなる薬を飲ませないで、気分よく毎日を過ごしてもらいたいと思い、あえて、飲ませないできました。
いつ起こるかわからない発作を防ぐために、これから死ぬまで、日常がスポイルされるのは可哀想すぎると思ったからです。

でもどうしたらいいんでしょうね...。
今回は回復が遅く、まだ傾眠状態が続いています。
明日、主治医の診察日なので、相談してこようと思っています。