サンタクロス | 1G1A

サンタクロス

今シーズン最終節、彼は焦っていた。


「頼む… 誰か決めてくれ!」


最後の望みを託して右足を振りぬいたが、ボールは彼の想いを受け入れる事無くあさっての方向にポトリと落ちた。

その数分後に彼の2006年シーズンは終わった・・・。



 ワールドカップイヤーとなる2006年のシーズン前、彼はある決意をしていた。

「阪神の赤星選手が盗塁の数だけ車椅子を寄付しているニュースをテレビで見たんです で、何か僕にも出来へんかなって」

日本代表にも定着し、チーム内での責任の重さも増していた。

彼は知人を通じてある孤児院を訪れ、子供達の前である約束をしていた。


ここにいる皆一人一人にアシストの数だけプレゼントをサンタさんに頼んであげるから


彼の昨年のアシスト数は2だったが、代表での経験、実績、チーム力を考えると本人でなくとも、それ以上の数字を当てにしただろう。

ワールドカップ期間中に足首を負傷したもののリーグ戦に関してはレギュラーを守り抜いた。

味方の2トップは得点王を争う爆発力を見せた。

しかし・・・

彼の右足から繰り出されるクロスは魔法がかかったかの様に味方選手を避け続けた。


彼は悩んだ。どんな顔をして子供達に会えばいいのか。

自分の余計な一言が逆に子供達のクリスマスを台無しにしたのではないのか。

息子へのクリスマスプレゼントを買う事すら出来ない精神状態の中で、彼は2006年度ベストイレブンに選ばれ舞台の上にいた。

某ミッシェル氏の鬱陶しいインタビューを適当に答え終えた瞬間、彼は客席を見て我が目を疑った。


加地さんおめでとう 最高のプレゼントだよ


横断幕を持った子供達が懸命に手を振っていた。

よく見るとみんな涙を流しているが本当に嬉しそうな顔をしている。


舞台を降りた後で彼は涙が止まらなかったという。


確かに彼のクロスはゴールを生まなかった。

が、子供達にとっては世界最高のクロスだった。

そう、それはクリスマスにだけ舞い降りるクロス。


(ガセコタツヒト)