ヨーグルト
(無事でいてや… お母ちゃん… 無事でいてや)
「お母ちゃーん ヨーグルトおかわり!」
「ハイハイ ほんまに亮ちゃんはヨーグルトが好きやねんな」
「うん おいしいしな、乳酸菌ってのが入っててめっちゃ体にええねんんでー」
「ウフフ そうなん?じゃあいっぱい食べななあ」
「うん 僕、乳酸菌みたいに強くなってお母ちゃんを守ったるしな」
「亮ちゃん… ありがとうな」
「ヨーグルトおかわりー!」
(お母ちゃん… 無事でいてや… お母ちゃん…)
「お母ちゃーん ヨーグルトおかわりー!」
「ごめんなあ もう無くなってしもたわ」
「いややー!僕には乳酸菌が必要なんや!」
「今日お仕事の帰りに絶対買ってくるし… 夜まで我慢して」
「えー… お母ちゃん今日も仕事なん? 今日…僕試合に出るのに…」
「ごめんな…亮」
「お母ちゃんなんか嫌いやー!」
(神様… お母ちゃんを… お母ちゃんを助けてください)
「おう やっと来たか」
「お兄ちゃん… お母ちゃんは?」
「うん 大丈夫や でも過労らしいわ」
「お母ちゃん…働きすぎなんや」
「ヨーグルト握り締めたままスーパーで倒れてたらしいで」
「!…」
「お母ちゃん言うてたで 亮の為ならなんぼしんどくても我慢できるって」
「…お母ちゃん」
「まあお前も来年中学生やし、そろそろわかるやろ?うちが裕福じゃない事は」
「…お兄ちゃん 走れば走るほど体に乳酸が溜まるってホンマか?」
「乳酸?あ、ああ急激な運動を続けたらな それが疲労…」
「ありがとうお兄ちゃん お母ちゃんの様子見てくるわ」
「亮?」
「お母ちゃん 大丈夫か?」
「ごめんな亮 迷惑かけてもうて、 ヨーグルトはお隣のおばちゃんに頼んで…」
「もうええねんヨーグルトは…もうええねん」
「何言うてんのん あんたがどんだけヨーグルト好きなんかはお母ちゃんよーわかってんで」
「見つかったんや ヨーグルト無しでも乳酸菌が溜まる方法が」
「…あんたホンマに乳酸菌の為に食べてたんか?」
「走るんや!走れば走るほど乳酸は体にたまるんや、テレビで言うててん」
「お腹減ってまたヨーグルト食べたなるんとちゃうか?」
「ほんならもっともっと走って乳酸ためるから大丈夫や!だからお母ちゃん…もう無理せんといて」
「亮…」
「俺いっぱい走って、プロのサッカー選手になるから」
「あんた大阪ガスで働く夢は?」
「もうええねん、プロになってお母ちゃんを楽させたる」
「亮… ほんまにあんたって子は…」
「ほな早速走って帰るわ お母ちゃんはゆっくり休んどいて ほな」
「亮!走って帰るって家までどれだけ… はぁ… あっお兄ちゃん」
「お母ちゃん、亮もしっかりしてきたな」
「いっぱい走ったら乳酸菌が溜まるっちゅうのはホンマなんか?」
「いや乳酸菌やなくて乳酸や 疲労の原因って言われてる物質や」
「あの子大きな勘違いしてるみたいやで 止めてやらな」
「多分…勘違いやなくて、あいつなりの精一杯の…やさしさやと思うで」
しかしそれが本当に単なる勘違いだったとは誰も知らない。
そしてそれが日本を代表する上下動のスペシャリストを生む事になることも。